TSユーキと天辺に棲む魔物の正体!
魔物の部屋から広がる白い光線の魔力のほどは?
明るい。
魔物にしては、魔力に邪気が無さすぎる。
と、思ったところで判断が遅れた。
「ダメだ、ユーキ、浴びるな、この光を浴びるんじゃない! 下の階段に戻れ!」
筋肉の力が抜けていく。膝がかくりと折れ、正座を崩した横座りになってしまった。片手を床につき、旦那さんのお葬式に悲しむ和服の未亡人みたいな体勢だ。
「僕が盾になるからダイキ、その隙に階段に隠れて!」
ユーキはオレを庇って、開口部からの光を満身に浴びている。
「バカ野郎! こんなとこで漢気見せるな!」
叫んだ瞬間、とっておきのアイディアが浮かんだ。
左腕を伸ばしてすぐ前にいるユーキの腰に回す。ぐいっとひきつけて座位置で抱き寄せる。
「これは女体化魔法だ。ユーキ、すまんがしばらくの間、女になっててくれないか? この光の中を歩くには、筋肉増強呪文が要る。お前の漢気分けてくれ……」
有無を言わさずユーキの口を吸った。キスじゃない。いや、キスではあるんだが、漢気を吸い取るには口からが手っ取り早い。
ふたりともが女体化してしまう前に、男をオレに集めて女をユーキに宿らせる。これしかない。
開いた扉から存分に放たれる白い光に負けないほど己に漢気が漲ったところで、ユーキごとすっくと立ち上がった。
ユーキはオレの腕の中で頬を上気させ、うっとりとした上目遣いで「ダイキ……?」とささやいた。
「ぐぇっ」
ヘンな声を上げて目を背けてしまった。
女ユーキは破壊力がありすぎる。まるで、元々長い睫毛の使いみちを知っていたかのようじゃないか。
オレの左腕を回しているその腰は折れそうなくらいにくびれ、その代わりに、胸が前にでんと突き出している。
背も低くなったのだろう、見下ろすと胸の谷間に自然と目がいく。
頭を振って邪念を払った。
ユーキの腰を抱き直して、呪文に入る。オレのレベルなら長い詠唱は要らない。
右手を前に上げ、女体化光線に抗するように手のひらを立て、
「アルママスキュリーノ!」
と叫んだ。
一歩二歩と前に進み扉をくぐる。
光りが薄らいでいく。
眩んでいた目が見え始めると、部屋の奥の玉座に、若い女が座っていた。
ユーキが、「アーニャ!」と叫んで駆け寄ろうとする。オレは腕にキュッと力を入れてそれを制した。
「待て、魔物がとり憑いている。追い出すのが先だ……」
「アーニャは、生きてるの?!」
ユーキの声は高く、女言葉になってしまっている。
「それも、追い出してみないとわからない、すまん」
赤い玉座に座る女と、自分が片手に抱えている女ユーキの顔はそっくりだ。
「あら、見た目通りに若造なのね」
魔物が入ったアーニャがしゃべった。
「2人分の漢気集めてやっと私に会えたってわかってる? 安楽呪文しか使えないお友達は、そのくらいしか利用価値はないわねぇ」
「バカだな。コイツが隣にいるだけで、オレがどれだけ強くなるかわからないのか?」
「わからないわねぇ~。君の髪の色は好みだけど、それだけかしら。お情けでここまで来させてあげたんだけど?」
「その発言もバカだ。呪文の五段階評価なんて、恣意的に決まってる。オレが勝手に選んだ☆をアンタは受け入れた。会いたいと思わなきゃ、扉開けなきゃいいだけだ」
「あら、無骨な見かけによらず、頭はいいのね」
「右脳、魔法野はめちゃくちゃ発達してるぜ?」
ジャブの応酬のような言葉の浴びせ合いだ。単語ひとつ、音節ひとつでいいから優位に立ちたい。マウントを取りたいんだが。
口癖ではあっても「バカ」を連発するしかないオレの語彙も情けなくはある。
「アンタ、会いたい魔法使いがいるんじゃねぇの? 燈台建ててこれ見よがしに灯点けて、『私はここにいますよ~』てか? 訪ねてくる人の魔力試して……」
「そうだとしたら?」
顔を歪めて笑う魔物入りアーニャは、同じ顔でも女ユーキほど魅力的ではなかった。
「バカなこと止めて自分から会いに行け!」
「生意気ねぇ~、私を誰だと思ってるのかしら?」
「うちの魔法学園の創立者、世紀の魔女、ジュール・ブーシェ様だと思ってるよ……」
アーニャの肩がぴくりとした。
「何を根拠に……?」