告白とクエストって抱き合わせ?
「さらわれたアーニャは僕の双子の妹だ。ダイキもきっと気に入る。そしてダイキはごつい見た目に反してロマンチストで、魔力特性はオールラウンダー。ダイキなら燈台の天辺に辿り着ける」
支離滅裂なことを言われている自覚はあった。だが心の問題は横においといて、最初に出てきた質問は目先のクエストについてだ。
「その燈台ってどうなってんだ?」
「中はらせん階段になっていて、何段めかごとに扉がある。横に開閉ボタンと☆ボタンが5つ並んでいる。開くボタンを押すと呪文が流れてくる。その呪文の効力を判断して1から5の☆を選ぶ。一番効くのが☆5つ。当たっていたら扉が開く」
「そりゃ、ムリだろ。呪文ってのは定型があるわけじゃない。気持ちの部分が大きいんだ。少々言葉ミスっても思いが伝われば魔法は効くし、どんなに美しく詠唱されても心に響かなければ効かない」
「魔法学園の先生も生徒も含めた全員の中から、僕が選んだのがダイキだよ。相手の呪文の気持ちが一番響く人だと思った。もう少しこうしたほうがいいとか、今のは惜しかったとか、クラスメートを助けてたじゃないか。だから好きになったんだから……」
壁ドンというか塀ドンしていた右手も引っ込めた。
「噂では、魔物は生け贄に愛情を感じて光るらしい。魔物よりその子を愛せる男が必要なんだ」
「オレはお前の妹なんて会ったこともない」
「でも僕のことはちょっとは好きだろう?」
「…………」
答えを言ってはいけない気がした。胸の奥に転がる想いがあるとしても。
話を変えてしまえ。
「なんで魔物はそんなしちめんどくさいことするんだよ? 誰が来てもドアを開けなきゃいい。呪文なんてふっかけなきゃいいだろ?」
「燈台に棲むにあたって、自分より魔力の強い者が来たら明け渡すと契約したらしい。この国には魔法の使える者がいないから、高を括ってそんな約束にしたのかもしれない」
「毎年女の子をもらえるならそれでいいってか、バカじゃないの? お前たちも灯ぐらい自力で点けろよ。で、去年の子は今年帰って来たの?」
「一度入って帰って来た子はいない……」
「ぐわぁ……」
ヘンな声をあげて頭を抱えてしまった。
「二度と、お前は、アーニャ、さんに、会えない、かも、しれない……んだな?」
塀に貼りついたまま頷いたユーキにくるりと背を向けて気持ちを固めた。
――――アーニャさんを好きになるかどうかはわからない。だが、ユーキの悲しみを取り除けるなら、自分の魔力を総動員して燈台に上がってやる――――
―◇◇◇―
ユーキの家はペイズリー型のブロックを組み合わせてできているようだった。床以外はどこも曲線。
その中に住む、娘さんを失ったご両親は消沈していた。
自分に何ができるかわからないから安請け合いもできない。「明日燈台に行ってみます」と言うだけにして食事をごちそうになり、客間で休んだ。
ユーキは自室に閉じこもったらしい。
寝具の上に寝そべって、もあもあ曲がった天井を見るとはなしに眺めながら、自分の知っている呪文を片っ端から復習した。
相手が全く違う魔法系統だったらどうするんだ?
それでも心に響くかどうかで判断するしかないのか。
オレ自身が呪文を使うのは天辺に辿り着いて、魔物と直接対決するときだけなのか?
ユーキも前もって言っておいてくれたら詠唱集1冊くらい持ってきたのに。
渡海に魔力を使ったせいではなく、足で歩くほうで体力を消費したので、結構早くに睡魔に襲われた。
夜オレに構おうとしなかったユーキは翌朝早く玄関先で待っていた。オレも何の装備がいるわけでもない。身支度をして散歩に行くような格好だ。
平たく言えば、相手の呪文聞いて上手いか下手か判断するだけだ。
魔物からの攻撃を受けるとしても、応戦も防御もこの身一つ、魔力勝負。
2人でてくてく歩いて港へ向かった。この国には魔法陣が無いから空間移動もできない。それなら交通機関を発達させるべきだろうに、全国民、基本徒歩らしい。
足腰の弱った爺ちゃん婆ちゃんはどうするんだとユーキに聞いたら、歩けなくなる前に死ぬから大丈夫と言われた。
「ひどいんじゃね?」と驚くと、「違う違う、うちの民族は足腰が異常に強くて傷まないのさ。寿命のほうが先に来る」と笑った。