5:強者たれ 歴史の外を 照らす星
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【零】
《剣士》
LV 1
BP 0
EXP 1020
HP 50
MP 30
ATK 1
DEF 1
《装備品》
右手【初心の短剣】
左手【初心の小盾】
頭【初心者用革帽子】〔非表示中〕
胴【初心者用革胴当】
腕【初心者用革籠手】
脚【初心者用革洋袴】
足【初心者用革長靴】
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《ステータス》
STR 0
HAR 0
DEX 0
AGI 0
INT 0
RES 0
TEC 0
LUC 3105
《スキル》
SP 0
〈パッシブ〉
【剣の心得・初心】
〈コモン〉
【照覧Ⅰ】
《称号》
【異空の渡り人】【興味の証-上限撤廃:第2門】【豪運】【粘蟲狩人】……粘蟲類の生物に対する与ダメージに補正(極小)
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LUCが3000を超えてるから、そろそろスキルに回すことを想定してEXPは保留で。
さて、今までのほほんとプレイしておきながら唐突だが、この「オン」はアウロラのゲームだ。そして、アウロラのゲームというものは、攻略1つとっても「ゲームを攻略する」のではなく「世界を攻略する」という気概が求められる。つまり、その世界の性質、すなわち世界観に対する理解度がものを言うのが定石だ。
例えば、以前見たwikiの「開始にあたって」のページには、普通のゲームでは見られないような、アウロラ製ならではの「必須掲載項目」がある。
重力加速度、(地球と比較した)摩擦係数、慣性の有無、そして大気の粘度。
そう、本当にあったのだ。これらの値すら狂わされたゲームが。
歴戦のゲーマー達をして「アウロラ伝説の幕開け」「初代『アウロラゲーム』」「ゲーム史上最大の情報詐欺」とまで言わしめた悪夢のタイトル、「拳闘伝説」。PVなどではごく普通の格ゲーを装っていたが、蓋を開けてみればプレイヤーを待ち受けていたのは23.75倍の重力加速度(なのに体は重く感じない)、0.02倍の摩擦係数、一定の条件で消滅する慣性、1552.8倍と凄まじい粘度を誇る大気など。
当然まともにプレイできる状況ではなく、有志によって拳闘伝説対応の物理エンジンソフトが配布され、AIによるメタ深潜学習を駆使して様々な基本フォームが判明するまでは、百戦錬磨のプロですら悉く音を上げた伝説のクソゲーだ。
俺はやってなかったんだけどね。
今のは極端な例だが、それでも徹底して各プレイヤーに主人公ではなく一般人になることを要求し続ける、癖の煮凝りのようなアウロラのゲームのことだ。日は傾きつつあるが日暮れまではまだ当分かかりそうだし、世界攻略の糸口を探すためにケイデリナ王立資料館で地理と歴史及び世界情勢を軽くおさえておきたい。
――以下【守頼者、猟頼者が押さえておきたい歴史情勢・基本編】より抜粋――
フェメンダル王国はグォストーレ大陸東部を広く統治する巨大な国である。ところが、建国暦1601年に竜の力を得たとして竜人族を名乗る叛逆者が独立を宣言し、王国領南西部を占領した。現王フェメンダル45世も依然としてこれを認めておらず、領土拡大と称して侵攻を繰り返す竜人族の反乱に対して武力鎮圧を試みているが、竜の力を得た相手だけあり一筋縄ではいっていない。現在は互いの支配領域の境界線上に位置するドル=レドル大窪地を絶対相互不可侵としながら実質的な停戦状態を保っている。
タイトルの「守頼者」「猟頼者」とはなんだろうか?
――以下【守頼者のいろは】より抜粋――
守頼者とは、普段は街や村の周囲で採集や討伐等の依頼を受けて活動しながら、有事の時には衛士と共に竜人族などから街を防衛する者である。守頼者は皆組合に所属しており、依頼はそこを通して受注する。猟頼者とは組合との契約の有無によって区別される。
守頼者はファンタジー系のゲームによくある冒険者のようなもの、猟頼者は野良の傭兵か。では、人族と敵対関係にあるという竜人族について見てみよう。
――以下【フェメンダル王国付近に生息する敵性生物】より抜粋――
・竜人
危険度:★★★
警戒度:★★★★
竜の因子を授かった人間。全ての個体が竜角、竜瞳、竜喉及び竜鱗を備えており、個体によってはさらに竜尾、竜翼、竜爪などの因子を擁する。因子の影響で寿命が人間の数倍になっている。群れて出現する傾向にある。
竜瞳によって非常に視力が高いが、それを処理する脳が人間のものであるため、昼間は負担が大きく活動出来ない。よって夜行性。
竜鱗で防御力や膂力が上昇しており、歴戦の衛士や守頼者、猟頼者でなければ対処は難しい。
竜角は竜喉と共に「竜詛」と呼ばれる特殊な攻撃を制御していると考えられている。
元が人間であるため、人によっては忌避感を抱くことがあり、警戒度が特筆して高い。
詳細は【竜人研究書】に譲る。
竜人が敵性生物扱いなことは置いておいて、竜詛? 特殊な攻撃?
ふむ、これは雲行きが怪しくなってきたぞ。もしかしたら……。
――以下【竜人研究書】より抜粋――
《竜詛について》
竜、及び竜人が使用する攻撃。MPを消費して、口元に淡黄色の燐光を放ちながら揺らめく光を溜め、勢いよく吐き出す。一般に、溜めが長いほど消費MPが増加し、燐光も強くなり、威力も増す。
炎のような見た目をしているが常温で、触れた者のHP及び最大HPを痛みを伴わずに徐々に奪う。五大竜王のような強力な竜の竜詛ならば、たった一撃で街ひとつをたちどころに壊滅させることができる。
最大HPの低下に対する有効な治療手段は現状存在していないが、レベルの上昇に伴って症状が緩和したとの報告が寄せられている。
ブレス攻撃か。MP消費……まさか魔法系スキルか? 存在したのか!?
いや待て、竜と竜人が使うと書いてある。これくらいアビスは、というかアウロラーなら調べているはずだ。ただ単にプレイヤーが竜人になれないだけだろう。
そんなことを考えていると、唐突にアビスから連絡がかかってきた。どうやらダンジョン(?)の攻略も終わったようだ。
『レイ、レイ、大ニュースだよ』
「何だいきなり、竜人にでもなれたのか?」
『竜詛のこと、調べたんだね? でも違うよ』
「じゃあ何だ?」
『僕達のクランの廃人組がついにフェメンダル王国の王都、フェメンダレロカンタにプレイヤーで初めて到達したんだ。港町なんだって』
「そりゃあよかったな、でも遅くないか? オンがサービス開始してから1ヶ月半近く経ってんだぜ? こっちだと5ヶ月半ってとこか?」
『単純に遠いんだよ、ケイデリナから数千キロは離れてるし』
「それを言われるとものすごい強行軍だな、1日に何キロ進んだんだよ」
『さあ? まあそれはともかくとして、やっと守頼者として登録できるよ』
およ?
「プレイヤーは守頼者じゃなかったのか?」
『そうなんだよ。まだ信用も信頼もされてないから依頼はなかなか受けられないけど、扱いとしては野良だから猟頼者だと思う。守頼者になろうとしたんだけど、ケイデリナにも守頼者組合はあるのに新規登録は何故か王都の本部でしか出来ないんだよね。そこまで自力でたどり着けるような手段や人脈も実力のうちってことなのかな?』
「この手のゲームだとプレイヤーが最初に冒険者登録して、みたいな展開がよくある分意外だな」
『それはもう、「型破りのアウロラ」だからね』
「本当にその通りだ」
さらに、アビスによるともうひとつ話したいことがあるそうだ。
『さっき、ラスピィの特異体について掲示板に上げたとき、仕方無いとはいえネームバレしてたでしょ? だからいろんなクランに目をつけられたんだよね、粘蟲岩原の攻略が進められるって』
「全蹴り」
『即決か……。でも、ずっと纏わり付かれるだろうし時には決闘も辞さないってよ?』
「よっぽどのステ・スキル差でもない限りほぼ間違いなく勝てるが?」
『そうだったよこいつあの魔境のトップランカーじゃん……』
「トップでこそないけどお前も常連ランカーだろ。まあ正直鬱陶しいとは思うがな」
『でしょ? という訳で、先んじて僕達のクランに加入しておかない? 何なら、向こうのプレイヤーがほとんどだよ』
最強の身内クランかな?
「いいかもしれんな。入るわ」
『良かった! じゃあサブリーダーやってよ』
えぇ……。
「なぜそんな急に……?」
『元のサブリーダーが、王都の一等地に拠点を構えたいって言って、メンバーを何人かつれて提携する姉妹クランって形で独立したんだよね。うちの拠点はここ、ケイデリナだから』
「他にやりたいやつはいないのか?」
『レイが入るかもって言ったら皆遠慮してたよ』
そんなに向こうのプレイヤーが多いのか。
では……奴は?
「最近向こうで見なかったが、そっちには剣豪もいんのか?」
『彼はまだ見ないね』
そうか。いたら押し付けようと思ったのに、仕方ない。
「よし、わかった。仕方ないな。受けよう」
『受けてくれると思ってたよ。じゃあ加入手続きをするから、ケイデリナの守頼者組合前に来てくれる? そこから拠点に移動するよ』
「了解した。すぐに向かおう」
地図を開き、守頼者組合を探す。どこだ? まず資料館を出て左手……。
途中少し道に迷ったりしたが、とりあえず日が暮れる前には守頼者組合が見えてきた。アビスも待っているようだ。
「来たね。じゃあ移動するよ」
そう言って、アビスは懐から手のひらに収まる小ぶりな水晶を取り出した。
「何だそれ」
「ふふっ、言うだろうと思ったよ。これは魔法の存在しないオンにおける唯一の魔法的存在、『座標換装石晶』。予め対となる石を置いて登録しておいた地点に転移できるんだ」
「ふうん、どういう仕組みなんだろうな」
「まだ分かってないんだよね。でも使えるのは確かだから、移動しちゃうよ。掴まっててね」
アビスが握りしめてMPを注ぐと、石晶は光りだして、言葉にできないような一瞬の違和感と共に、視界に映るものが変化した。どうやらここがアビスのクランの拠点らしい。メンバーの顔にもどこか覚えがある。
「今の違和感が原理と関係があるっぽいんだけど、それ以上のことはわからないんだ。とにかくようこそ、クラン『外歴星』へ。歓迎するよ」
アビスが手元の情報パネルを操作する。
〈フレンドのアビスからクラン『外歴星』へ招待されました。受理しますか?〉
はい。
〈クラン『外歴星』に加入しました〉
〈クランリーダーのアビスからクラン『外歴星』のサブリーダーに推薦されました。受理しますか?〉
……はい。
〈クラン『外歴星』のサブリーダーに着任しました〉
「それじゃあレイ、改めてよろしく」
その言葉と共に、周りのメンバーが口々に祝いの言葉を投げかける。また、ダイデルドの特徴的な野太い声も聞こえてきた。
「おう、そろそろ昼飯時だし飯食ったらヒスエクに集合な」
アビスも一言。
「わかった。では、本日は解散! 続きはヒスエクで!」
かくして俺は、クラン「外歴星」のサブリーダーとして「オン」で活動することとなった。
クランの名前はサブタイトルが由来。あと○歴院。