2:騙されて 思いもよらぬ 逆境と
おいおい勘弁してくれよ、LUCだなんて……。確かSTRをも差し置いて最「低、コンマ以下の確率ってなってただろ……ハッ!?」
気がつくと、日の出前の初期街の教会の前にいた。それも、「orz」のポーズで。
というわけで、NPCやプレミアムパックを購入した初心者プレイヤー、そしてそれを勧誘している高レベルプレイヤーから、絶賛奇異の視線を浴びまくりです。
「『orz』って考えてたから『orz』ポーズなのか?」
プレイヤーは無視してそそくさと逃げ出し、気を取り直して辺りを見渡す。
うわあ、やっぱアウロラの過去作と比べてもクオリティの桁が違う。風の流れ、眩しい日差し。さらには足元の石畳の触感までもが現実と見紛う程だ。それだけに、ステータスでの失敗がなおのこと悔やまれる。
「はあ、決まった物はしかたがない。BP200をLUCに振るか、LUCに」
相変わらず視界の右下に「メニュー」ボタンが居座っているな。押してみると、左側に2ページに分かれたステータス、右側にマップ等の情報パネルが表示された。
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1/2ページ
【零】
《剣士》
LV 1
BP 2000
HP 50/50
MP 30/30
ATK 1
DEF 1
《装備品》
右手【初心の短剣】
左手【初心の小盾】
頭【初心者用革帽子】〔非表示中〕
胴【初心者用革胴当】
腕【初心者用革籠手】
脚【初心者用革洋袴】
足【初心者用革長靴】
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2/2ページ
《ステータス》
STR 0
HAR 0
DEX 0
AGI 0
INT 0
RES 0
TEC 0
LUC 0
《スキル》
SP 0
〈パッシブ〉
【剣の心得・初心】……刀剣使用時、一部ステータスに補正(微)。
〈コモン〉
【照覧Ⅰ】
《称号》
【異空の渡り人】……記念称号。
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「ん?」
あれ、目がおかしくなったのか? BPの桁がずれてるように見えるが……。
もう一度見直すも、やっぱり変化なし。
これはどういうことぞ?
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《取得ログ》
スキル/称号/ポイント(選択中)
Lucky Ten! BP10倍! おめでとう! 君は豪運の持ち主だ!
「乱極」ボーナス! BP2倍!
「オン」の世界に出発! BP100獲得!
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成る程、すなわちたまたま運でBPが10倍になったと。
……ヤバくね?
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2/2ページ
《ステータス》
STR 0
HAR 0
DEX 0
AGI 0
INT 0
RES 0
TEC 0
LUC 1000
《スキル》
SP 0
〈パッシブ〉
【剣の心得・初心】
〈コモン〉
【照覧Ⅰ】
《称号》
【異空の渡り人】
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1000まで振ったらカンストしたぜ。
〈条件を満たしました。称号【興味の証-上限撤廃:第2門】を取得しました〉
〈条件を満たしました。称号【豪運】を取得しました〉
お……おう。公開する必要ないなこれは。ってそういえば、友人に会いに行く予定が!
げっ! あと2分! 急いで向かわねば。ええと中央広場、中央広場……っと。
到着。そして発見。
「すまん遅れた!」
すると友人、アビスは驚いたように振り返り、言った。
「 !? ……なんだレイか、ずいぶん早いね」
「え? 今9時3分だろ?」
「え? ……ああ言い忘れてたね、ゲーム内時間だよあれは」
「ゲーム内時間?」
可愛らしい童顔は特に弄っていないが、普段と違って銀髪に赤眼で、どこか神秘的な雰囲気を醸し出しているアビスによると、「体感時間の加速」なる技術が用いられた「オン」の世界の1日は現実時間の6時間で、ちょうど今が日の出にあたるらしい。
アウロラゲームズよ、いつからそんな技術を……。
「つまり今は6時13分だから、9時まであと2時間47分だよ。そもそも僕だってたまたま通りがかっただけだし」
「なるほど」
「まあでも今は別に用もないし、訊いちゃうね。どんなステータスにしたの?」
「ふっふっふ、RPG物は初めてだし、wikiの最適解を丸パクリさせてもらったよ」
「なんだろう……ゴ○ライクアサシン?」
なんつー名前だ……。まあAGI特化の紙防御奇襲戦法だって分かりやすいけどさ……。
いや、むしろしぶといのか?
……紙装甲・ヒットアンドアウェイで正解のようだ。
「違う違う、『剣士乱極』」
「……それ、このゲームで一番やっちゃいけないやつなんだけど。wiki見たのいつ? 何回?」
「始める直前に一回見たきりだが」
「またあの人か……」
聞いてみると、本来剣士系統の、特に乱極ステは「このゲームほぼ唯一の不遇」とされるほど不人気だが、わざとそれを「最適解」と編集する悪辣な人がwikiに粘着していて、消しても消しても直されるという。何度か規制したが、その度にわざわざIDを変えてまで粘着を続けたため、いたちごっことなっているそうだ。
だいたいどのゲームにもあるメジャー職だし、外れはないかなと思っていたんだが、まさか不人気職だったとは。
「仕方ないな。現状アバターのリメイクは出来ないし、理論上剣士系統が最も活躍できる狩場を教えてあげるよ」
理論上? 何か少し引っ掛かるな。
「ちなみになんで剣士は不人気なんだ?」
「ああ、僕を【照覧】してみて」
「あいよ、【照覧】」
言われるままにアビスを【照覧】してみる。すると、情報パネルが出現した。
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【アビス】
《斧使い》
LV 56
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情報少なっ!
「次に、賜璧欄の《斧使い》を【照覧】してみて」
すると、このように表示された。
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《斧使い》
斧の扱いに長けた賜璧。
賜璧専用スキル:【斧の心得・見習】
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あ、このゲーム、いわゆる「二重鑑定」ができるのか。なら、後は言われなくても再び【照覧】できる。
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【斧の心得・見習】
【武器種:斧】使用時に、一部ステータスに補正(小)
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「この【斧の心得】が初心だと補正(極小)なんだ。他の賜璧でも同じなんだけど、唯一『剣士』の【剣の心得】だけがさらに1段階下の補正(微)。剣使いに昇格しても極小だから、剣士系統は火力役なのに他の賜璧より火力が伸びにくいって訳。一応他にも理由はあるんだけどね、剣士のほうがAGIが伸びやすいという違いはあるけど『騎士』の下位互換みたいなものだし」
そしてその後アビスは「乱極」ステのデメリットについても説明してくれた。そういうことだったのか。そりゃあ人気が出ない訳だ。
無論、取り返しがつかないことなのに変わりはない。今は取り敢えず、ステータスに頼らずに強さを得る、つまりはスキルを鍛えよう。そのためには畢竟、レベル上げだ。
「じゃあ、さっき言ってた狩場ってのはどこだ? 剣士が活躍するってんなら、剣士が少ない今は空いてるってこったろ?」
「ああ、そうだね。間違いなく空いてるよ。どこかというと……」
粘蟲岩原。
近接かつ刺突のコアを狙った攻撃以外は無効化してしまうというゲル状のモンスター、ラスピィだけが出現するクレーター型のエリアだった。