人材確保
島津家から使者として来た島津忠廉達は暫く江戸に留まり、豊嶋家の農業、産業などを学ぶらしく、連れてきていた家臣と共に視察や公家衆と親交を深めたりなどしている。
うん、謁見したのは5人だけど、その家臣なども含め40人程来ていたようだ。
肝心の婚儀に関しては俺の要望で3月中頃に行う事になった。
桜姫だけあって桜が満開になる時に婚儀をした方が風流だし。
現在島津家の人達が滞在している屋敷には風魔衆が監視し、視察に関しても見せられるもの、見せられないものがある事は事前に伝えてあるので、トラブルは起きていないので一安心だ。
下手にごねられたら厄介だったけど流石にその辺は弁えているので無理を言ってこない。
まあ豊嶋家が持つ技術等の心臓部と言える大泉一帯は現在風魔衆の拠点となっているので、忍び込んで技術を盗む事も出来ないだろうし。
だって、つい一月前に出来上がった鉄砲の試射を行う罪人4人が試射前の鉄砲を持って逃亡したのを防げなかったし!!
逃げた4名の内、2人は討ち取り、1人に手傷を負わしたが最終的には2人に逃げられ、持ち逃げされた鉄砲2丁も取り返せなかったから、現在風魔衆はピリピリしていて大泉周辺の警戒を厳にしているんだ。
恐らく今、大泉に潜入して技術を盗もうとしたら、島津家の者だと弁明しても確実に殺されると思う。
鉄砲2丁とはいえ豊嶋家の外に流出した事で今後どうなる事やら…。
それにしても島津忠廉に桜姫の床入りは16歳になるまではしないと言ったら怒りだしたけど、身体が出来上がる前に妊娠などしたら母子共に命の危険があり、それを防ぐ為の事でむしろ島津家の姫の身を案じてだと伝えたら、今度は「そこまで島津家との繋がりを大切にされるとは」と泣き出したんだよな…。
この時代の人の感覚が未だに理解できない!!
因みに桜姫は照、彩、桔梗、於福と打ち解けて、仲良く九州土産の傑作まんじゅうと照姫の名を冠した最中を食べて、色んな話に花を咲かせているらしい。
ただ聞く処によるとこの前、鷹狩に行ったとか、追い鳥狩りに行って来たとかで、天気の良い日は5人揃って外で遊んでいるとの事だ。
お姫さまって部屋でお淑やかに過ごすとかが普通じゃないの?
この時代なら貝合わせとか…。
いや、そっちの貝合わせじゃなくて、二枚貝の貝殻を合わせる遊びだよ!
それはさておき江戸の町は現在好景気に沸いている。
島津家の人達も城下の活気に驚いていたが、実の所、伊豆の海賊衆が下総、安房を襲撃し、沿岸部の被害が甚大だった事もあり、そこに目を付けた豊嶋家が支援名目で金や物資を格安で売り捌いているので商人達も潤っている。
まあ実際は優しさでは無く、沿岸部に所領を持つ国人衆には同じく湊や漁村を領する家の苦労は分かるので、困った時はお互い様と優しい言葉で支援して好感度を上げている最中だったりする。
伊豆の海賊衆が船を奪ったり燃やしたりしたから漁民は漁に出れず困っていて、中古のボロ船とかを安く領主に売ったりするだけで喜ばれるから、俺としては笑いが止まらない。
しかも襲撃後、俺と三浦家が共同で伊豆海賊衆を屈服させたと言う体になっていて、沿岸部を襲撃した伊豆海賊に鉄槌を下したと思われているので、漁民や商人からの信頼度が上がっている。
実際の所は伊豆海賊衆の有力者である富永盛勝、鈴木繁宗、松下長綱、清水綱吉に豊嶋家で開発した関船をそれぞれ2隻づつ与え、試験航行中の安宅船を見せて数が揃ったら4人に1隻ずつ与えるという約束をするぐらい厚遇してるんだけどね…。
現在は豊嶋家と伊豆海賊の人員不足が予測されるので、堺に向かった大船に京の都で飢えている流民で若い男女に飯を腹いっぱい食べれるという甘い言葉を囁き、集めた者達を乗せて帰って来るように指示を出している。
15歳以上なら体質にもよるだろうけど腹一杯飯を食って1~2年船に乗せれば船乗りとして十分戦力になると思うし、どうせ京の都で飢えに苦しむぐらいなら伊豆や武蔵に連れてきても問題ないだろうし。
伊豆海賊衆を信用していない訳じゃないけど、江戸海賊衆も大々的に組織したいから伊豆海賊の下で船乗りを育成させる。
三浦家に頼んでも良かったんだけど今、三浦家はなんか忙しそうだし…。
現状の懸念はやっぱり古河公方である足利成氏と関東管領である上杉顕定の動きだよな。
今の所は大人しいけど扇谷上杉家の勢力をガッツリ削ってるし、堀越公方を取り込んだ豊嶋家と三浦家に対抗する為に和議を結んだようなものだから。
そう思いながら豊嶋家が定める式目の草案を作っていると、風間元重が大事な話があるとの事で謁見を願い出てきたので、部屋に呼び話を聞く事にした。
「元重、大事な話とは?」
「はっ、この度は恥を忍んでお願いに参りました。 現在風魔衆の人手が不足しており、殿にご満足いただけるだけの諜報活動が困難になりつつあります。 風魔衆の名を頂き情報収集、乱波働きを任されておりますが人手…、特に情報収集に関わる者が…」
「う~ん、確かに、元重が悪いとか風魔衆が悪いとかじゃなくて、純粋に情報を集める地域や対象が増えたからそうなるな…。 どうしたものか…、因みに元重は他国で乱波働きや情報収集が得意な者達を風魔衆に迎え入れるのに抵抗とかある?」
「他国の者でございますか? 某も元は浪人ですゆえ、信用できる者達であれば特には…、ただ他国の者を迎え入れる事で風魔衆の結束や秩序に揺るぎが出ないかと…」
確かに元重の言う通り、他国の者を召し抱えて風魔衆に組み込むと、元重達が定めた風魔衆の掟などが揺らぐ可能性がある。
召し抱えるのであれば風魔衆の掟に従える者、または元重達風魔衆の幹部と話合い、掟を作り直して融和を図るしかない。
難しい問題だな…。
「元重、悪いが新たに召し抱えた者と話合い、風魔衆の掟を作り直せるか?」
「…ひ、必要とあれば問題はございません」
少し言い淀んだが、人手不足が余程深刻なのか他国から召し抱え、場合によっては風魔衆の掟を変える事に了承の意を示した。
「では伊賀へ人を送り、豊嶋家に仕官したい者を集ってまいれ。 伊賀の国の者は乱波働きや情報収集に優れていると聞く。 伊賀は土地が痩せ耕作出来る地が少ないと言われており、合戦の際などは金で雇われて乱波働きなどをしていると聞く。 肥沃な武蔵に所領を与えると誘えば一族郎党を連れて豊嶋家に仕えようとする者もおろう」
「伊賀でございますか。 してどの程度の所領を?」
「そうだな。 人数にもよるが、まずは500石から2000石だな」
元重は若干驚いたような顔をしたが、今住んでいる土地を捨てて武蔵に呼ぶ以上、ある程度は厚遇する必要があると気づいたようで、俺が書いた所領を与える旨の書状を携え部屋を出て行った。
風魔衆と伊賀者、うまく融和してくれれば良いんだけどな。
それ以前に勧誘に応じる者が居るかどうか…。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。
宜しくお願い致します。
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