叱責
「愚か者が!! 何故ワシを石神井城へと言わなんだか!!」
石神井城での会談の翌日、事の顛末を書状に記し岩槻城に居る父道真に送った所、その2日後に道真が江戸城にやって来て道灌の顔を見た瞬間、怒鳴りつけた。
「恐れながら父上、江戸城築城より密かに進めて来た豊嶋家の力を少しでも削ぐための策が露見したのは某の失態ではございますが、父上を事実上の人質として石神井城に差し出すなど出来ましょうか」
「その方は、図体ばかりデカくなっただけ木偶の坊か!! 考えてもみよ、豊嶋は嫡男が師事する為3年程ワシを石神井城にと言っておったのだ、言うなればその3年の間に豊嶋の内情を調べる事も出来るうえ、嫡男の師として我が殿への忠誠を植え付ける事も出来たはず、にもかかわらず齢4歳の照を豊嶋の嫡男の嫁に出すなどと、4歳の女子に何が出来る? 出来る事と言えば侍女として付けた者に多少の情報を送らせる事しか出来ぬではないか!!」
「しかし、父上を実質人質と差し出すような真似をすれば、太田家の面目が立ちませぬ。それに3年も石神井城に留め置かれては何か事があった際、動くことが叶わず取り返しのつかぬ事になる可能性が」
「愚か者が!! そのようなもの、殿に頼んでワシを一時的に呼び出す書状を書いていただけば豊嶋も引き止める事は出来まい! そもそも江戸湊の件は殿もご承知で進めていた事だったのだ、如何様にでもなったものを! しかも先に結納だけ済ませ、照が妙齢になってから輿入れさせるのではなく、何故1月後とした! これでは太田家が豊嶋に人質として娘を送りましたと世間に思われてもおかしくないではないか」
確かに父上の言われることはもっともだが、いくら何でも父を人質同然に差し出すなど出来るはずもない。
それに烈火のごとく怒っているのは父が今一番可愛がっている孫の照が豊嶋に行く事が気に入らないからと言った所じゃないのか?
確かに、あの日、その場の流れで照を嫁に出す事を決めた事は尚早だったとは思うが、持ち帰って相談したところでワシが行くなどとは言わなかっただろうに。
とは言え此度の件で怒りだした以上、ワシがこれ以上下手に口を出すと収まるものも収まらん、ここは大人しく聞くしかないか。
「今更、照の輿入れを辞めてワシが石神井城に行き豊嶋の嫡男に師事させるなど言い出せば更にややこしくなるだろうし、むしろ前言を翻した事で豊嶋は疑念を抱くであろう。 こうなれば今は管領家の家宰である長尾との繋がりが強い豊嶋だが、この婚儀を機に太田家と繋がりを強めるようにするほかあるまい。 そなたはどの様にして繋がりを強めるつもりか?」
繋がりを強めるだと?
豊島の当主である泰経は長尾景信の娘を嫁にしている、そして嫡男はその嫁の息子で言うなれば景信の孫でもある、そこに照を輿入れさせたとて齢4歳では子が出来るにしてもまだ10年はかかる、にもかかわらずどうやって繋がりを強めろというのだ。
「道灌! そなた照を嫁として差し出した後の事まで考えておらなんだか!! 愚か者が!!」
「申し訳ございません、 しかし泰経の妻は長尾景信の娘、嫡男は孫にあたります。 言うなれば既に長尾家とは強いつながりとなっており、子でも出来ぬ限り太田家とのつながりは…」
「家督を譲り、扇谷上杉家の家宰も継がせたと言うに…、なればワシが教えてやる! 照の輿入れだけで豊嶋との繋がりが強くならんのであれば、長尾景信ごと繋がりを強めるしかあるまい! わかるか? 景信にとって豊嶋の嫡男虎千代は孫だ、その孫に嫁を嫁がせるのだから、当然のごとく景信のみならず奴の一族に声をかけ、太田家が盛大な婚儀になるよう取り計らうのだ! さすれば嫁をとるには早くとも太田家が婚儀を盛大にしたとなれば景信も文句を言うどころか孫の晴れ姿を見て喜ぶであろう。 さすれば豊嶋にその気はなくても太田家と長尾家の繋がりを強くなれば太田家との繋がりを強めざるをえぬであろう」
「父上のおっしゃる通りでございます。 某の未熟さお詫び申し上げます」
「うむ、で?」
「で? とは?」
「愚か者が!! そなた何も理解できておらぬではないか!! 良いか、よく考えてもみよ、まだ齢4歳の照を嫁に出すのだぞ! 何を理由に嫁に出すのだ! 考えも無しに嫁に出せばそれこそ太田家が豊嶋に人質として娘を差し出したと思われるであろうが!!」
「では、どのように?」
「そのような事も分からんのか! 全く嘆かわしい、合戦に強くても謀に弱くては家宰としてお家を盛り立てる事など出来ぬぞ! 良いか、此度の嫁入りは、太田家から望んだ事と世間に吹聴するのだ」
「太田家から望んだこと? わかり申した! 先日豊嶋の嫡男虎千代と会った際、その尋常ならざる聡明さに某が感服し、他家に先んじられる前に我が娘をいち早く嫁に出したという体を取ったとすれば、人質同然とはならないと」
「そうだ、本来ならばそこまで考えたうえで嫁として照を虎千代に嫁がせると言えねば他家に後れを取る事になるぞ」
全く、息子は真っ直ぐと言うべきなのか、謀に疎いと言うべきなのか、家督を継ぎ家宰となり早20年近く経つがお家の体裁ばかりを気にしておる。
体裁を保つ為には謀も必要であると言うのに…、いや家督を譲ってからはワシが裏で謀をしていたのがまずかったか、これよりはワシが謀をするのではなく道灌に謀をさせるようにしなければ。
それにしても、道灌は妙な事を言う、虎千代の尋常ならざる聡明さに感服しただと?
いくら何でもそこまでは言い過ぎであろう、まあよい、過大に褒めるのであれば景信も文句は言うまい。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。
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