対抗策
(道真様、お変わりはございませんでしょうか? 昨年から今年にかけて五十子陣にて不幸が重なりましたが関東管領様のご威光が上野、武蔵に行き渡っている為、古河の成氏も今は大人しくなり、豊嶋領の農民も安心して田植えに励んでおります。 しかしながらこの度、関東管領様のご威光を傘にご子息の太田道灌殿が豊嶋家が管理している江戸湊を一方的に我が物としました。 道灌殿はいずれは豊嶋家を滅ぼし所領を我が物としようとしている風に思われます。 父である泰経も関東管領様に再考を促す書状を送りましたが、恐らく家宰である長尾忠景の手で握りつぶされる事と思われます。 今は父が一門衆や家臣を抑えておりますが、このままでは合戦になる事は必定です。 道真様に置かれましては両家が無用の争いをしなくて済むようお力添えを頂きたく存じます)
的な事が書かれた書状を目に通した道真が深いため息を吐き、再度書状に目を通す。
「はぁ~、道灌の奴は何を考えているんだ…。 確かに数年前は江戸湊の利権を手に入れる為に手を尽くしていたが、照が嫁いだ事で江戸湊には手を出さぬと決めたと言うに」
届いた2通の書状を読んでからため息ばかりが出る。
照からの書状は、争いごととは無縁な内容で、最近食べたクレープと言う物が美味しかっただの、石神井に遊びに来て欲しいだの平和そのものと言う内容ではあったが、虎千代から送られて来た書状は切迫した内容だった。
最近道灌と会った際は特に何も言っていなかったにも関わらず、関東管領家に江戸湊の権利を道灌の物と認めさせたとなれば、家宰となった忠景と手を組んでいる事は明白、古河の成氏が健在でいつでも兵を挙げられる状況であるにも関わらず武蔵で乱を引き起こしかねないような事をしているのだ。
親として、前扇谷上杉家の家宰として諫めるべきではあるが、恐らく耳を貸すことはないだろうな…。
虎千代の言う通り、豊嶋家を滅ぼしその所領を我が物としようとしていると思われても致し方ない行いだ。
照が嫁ぎ、両家の縁が強くなり無益な争いが無くなったと言うのに、照を犠牲にしてまで豊嶋家の所領が欲しいのか?
もはやあ奴の考える事は分らんが、書状を送り両家の間に溝が出来ないようにしないと、照が不憫でならん。
もう一度書状を読み返した後、息子である道灌の思惑を計りかねた道真は、再度ため息をつき、筆を取り書状をしたため始める。
あ奴が考え直してくれればいいのだが…。
その頃、三浦高時とその実子である太郎も虎千代から送られて来た書状を読みため息をついていた。
恐らく今回、虎千代から送られて来た書状にあった江戸湊の件に関して恐らく婿養子で現在の当主である高救も一枚嚙んでいると思われるからだ。
そもそも当主である定正は高救の異母兄弟であり定正を当主にしたのにも関わっている。
だが三浦家は相模守護として幕府が認めた関東管領に従う立場にある。
太郎は書状を一読した後「関東管領様に江戸湊を豊嶋家に返すよう書状を送りましょう」と言ってはいるが、既に相模守護の職と当主の座を高救に譲っている為、書状を送り再考を促す立場にはない。
その事を太郎に説明し、力になれない旨の返事を虎千代に送る事しか出来なかった。
俺に書状を送りつけられた人が悩みため息をついている頃、石神井城で数日に及んだ評定が終わり各自が所領に戻り始めていた。
当然、大勢を占めたのは兵を挙げ道灌の居城である江戸城を攻めようと言うもので、今はその時ではないと言う俺の意見は少数派となっていた。
数日に渡り、主戦派に対し今兵を挙げれば関東管領家へ兵を挙げる事になり、謀反とみなされる事、仮に古河の足利成氏と手を結んでも本気で兵を出し支援してくれるか不明である事、兵を挙げ道灌と戦うのであれば近隣の国人衆も納得するような大義名分を用意する事を懇々と説いていった。
一部はまだ納得してはいないものの、どうにか今回は静観し、父泰経より関東管領へ書状を送り続けるという事で落ち着いた。
とは言え、豊嶋家として道灌のあからさまな行為は豊嶋家の領地や権利を我が物としようとしている事は明白な為、石神井川と入間川の合流地点にある宮城(現在の王子駅近く)の増改築をする事になった。
宮城を道灌に押さえられたら石神井川の水運自体まで押さえられることになるので絶対に奪われるわけにはいかないからだ。
宮城の城主である宮城政業には豊嶋家から金を出すので城の増改築をし、大型の商船が入間川を遡上して直接交易が出来るよう船着き場の整備と造船所の建設を命じ、他の一門衆や重臣達にはいつ合戦になっても良いように兵糧や武具の貯えを密かにするように指示をだした。
宮城の増改築に船着き場の整備に豊嶋家が金を出すって言ったけど、実質俺が出す事になるんだよね。
言い出したのは俺だし…。
だが江戸湊の権利が道灌の手に渡ったのなら豊嶋家としては新たな交易拠点を作る必要がある。
幸い宮城は海に近い事もあり水深も深いので船を横付けできる船着き場か桟橋を作れば大抵の船は問題なく宮城まで来れる。
まずは桟橋を作り江戸湊ではなく宮城で直接商人と取引を始めれば道灌も慌てるだろう。
なんせ今の江戸湊は俺の領地から卸している清酒や醤油、菜種油、石鹸、蝋燭、干し芋、鳥の燻製等々の品を売り捌いてかなり利益を上げているから、江戸湊ではなく宮城に作った船着き場でしかそれらの商品を取引しなくなれば江戸湊は一気に寂れるはずだ。
そうなれば江戸湊から宮城周辺に商人が引っ越してくるだろうし、道灌が江戸湊を手中に収めたら寂れたとなれば面目も丸つぶれになるはずだ。
ついでに品川湊の商人との取引も縮小しよう。
品川湊はかなり前から道灌が利権を握っているから関係が悪化した以上、道灌を利する商売をわざわざしてやる必要もない。
品川湊の商人からは抗議されるだろうけど売る売らないは俺の勝手だ。
商品の在庫がダブつく可能性があるが、そこは商人に化けた風魔衆の情報収集組に荷車を引いて行商に行って貰おう。
後は三浦家だけど、六浦湊は当主の三浦高救幸が押さえているが、幸いなことに三崎や城ケ島を拠点とする三浦の海賊衆は高時の影響力が強いから、六浦ではなく三浦の海賊衆を経由して取引をしよう。
三浦の海賊衆は三浦家に従ってはいるけど実際の所は家臣と言う訳では無いので道灌や高救が横槍を入れようものなら最悪離反する恐れすらあるから表立って邪魔はできないだろうし。
我ながら良い考えだ。
後は豊嶋家自前の交易船の建造だな。
川船はあっても海船はないからな…。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。
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