長尾景信との別れ
農家の子供たちが畑に集め山のように積まれた落ち葉の焚火を囲んで楽しそうに歌を歌っている。
なんかアルミホイルあるし、サツマイモも収穫出来たんだし焼き芋を作ろうと思って俺が大泉に所領を得た年の冬頃から毎年恒例になりつつある落ち葉焚きだ。
初めてやった時に口ずさんでいた歌がいつの間にか広まって子供たちの間で落ち葉焚きで焼き芋を作る際の歌として定着してしまった…。
今度は焼き芋にまつわる歌でも歌ってみようか…、いや、俺の知ってる焼き芋に関する歌はこの時代に無い物が沢山出て来るからやめよう。
それに次元を超えて著作権協会から請求書来そうだし。
山のように積まれた落ち葉が燃え尽き、灰の中からアルミホイルに包まれたサツマイモが子供達によって掘り出される。
普段はそのまま落ち葉の山にサツマイモを入れて焼き芋にしてるらしいけど、俺はアルミホイルに包んで焼きたい!
何となく…。
焼き上がったサツマイモを皮ごとかぶりつくとホクホクで中々良い甘みが口に広がる。
収穫後、各家や村の倉庫の地下に作った保存庫で熟成させたから収穫直後より甘みが強くなっている。
うん、やっぱり冬は焼き芋に限るな。
気軽に所領へ足を運び、農家の子供たちと焼き芋を作って食べている領主ってどうなんだろう?
まあ農家の子供達も同年代前後で歳も離れてないから違和感が無いんだろうけど、我ながらこの3年で気さくで領民に愛される領主になったもんだ。
それにしても、三浦時高から毎月書状が送られて来たのには驚いた。
農業に関する相談事も書いてあったが、内容の殆どは稲の成長日記状態だったし、収穫後に届いた書状には昨年の収穫高は1300貫だったが今年は2000貫弱だったと書いてあったけど、他家に収穫高を教えて良いのか?
書状には収穫高が大幅に上がったことを大々的に家臣へ公表し今回俺が教えた正条植えを希望する者には無償で教えるとの事に加え、何かお礼がしたいので望む物を教えて欲しいと書いてあったので、(いずれ某が困ったときにお力添えを頂きたい)と返しておいた。
書状によれば、溜池作りも順調なようで来年には溜池の水を引いた田畑で農作物の栽培を始めるらしい。
溜池作っても水が溜まらなければ意味無いから、来年の春までに大雨でも降らないと水が溜まらないと思うんだけど、既に水は溜まったのかな…。
まあその辺の事は俺に関係ないから良いんだけど。
焼き芋を食べ終え、石神井城に帰ると珍しく道真と景信の爺2人揃って来ていた。
「虎千代殿、帰ったか、この石焼き芋はなかなか良いの。 芋がホクホクしており甘くて旨い」
「全くじゃ、教えて貰った落ち葉の山に芋を入れて焼くのも良いが、石焼き芋も良い。 城に戻ったら早速家臣に作らせたいぐらいだ」
「爺様、作るのは簡単ですので作り方を書いた紙をご用意致しますので是非作られてください」
「全く虎千代殿は太っ腹だな、石焼き芋を作るための物を簡単に教えてくれるとは」
「欲が無い、いや孝行者の孫と言うべきか…、普通なら何か替わりに望みの物を欲しがるんだが…、風呂の作り方もポンと教えてくれるし、反対に下心あるものに良いようにされないか心配になるぐらいだ」
「爺様だからでございます。 爺様には美味しい物を食べて頂きたいので。 他の者に教えるには対価をしっかり要求致します故ご心配なく」
俺の言葉に2人の爺は嬉しそうな顔をしながら照や照の侍女候補の子供達と共に焼き芋を頬張っている。
景信に至っては、秋に産まれた弟の竹千代を抱いた母を見つめ目を細めている。
「それにしても爺様、農閑期で兵を動かすには最適な季節にも関わらず石神井にお越しになっていてよいのですか? 成氏が古河に戻ったと聞きましたが…」
成氏が古河に戻った事で、再度緊張状態になっているはずなのに爺2人は悠長に孫と遊んでいる。
確かにネット情報では今年大きな合戦はないはずだけど、そんな事は爺たちが知る由も無いし、景信に至っては関東管領の家宰だから気軽に五十子陣を離れたらいけないような気がするんだが…。
「暫くの間、家臣に任せ孫に会いに来たのだ。 昨年は合戦続きで民も疲弊しておる、今年は成氏も兵を動かしたくないようで成氏も古河に戻ったものの大人しくしておるからな」
それ、多分来年に向けて力を蓄えているだけだと思うけど。
来年は成氏が五十子陣を急襲して上杉政真が討ち取られるんだが、俺には関係の無い事だし。
まさか景信は自分の寿命がもう長くない事に気が付いているのか?
わざわざ残り少ない時間を割いて俺と照に会いに来た?
だがそれを口に出す事は出来ないし、どんな病気で死んだのか分からない以上どうする事も出来ない。
情が湧いていないと言ったらウソになるぐらい親しくなったので死なせたくは無いけど、史実通りにならないと今後の方針が狂うから体調不良を指摘し、病状を調べて延命をさせる事も出来ない。
景信が石神井に来るのは今回が最後となるだろうな…。
石神井に滞在している間は、寝食を共にし、一緒に風呂に入り、沢山甘えておこう。
俺が景信に出来る事はそれぐらいしか無いし。
景信と道真は石神井城に3泊して帰って行った。
これが最後の別れになるって分かっているともう数日と引き止めたくなるが、景信は途中、道真の居城である岩槻城に立ち寄ってから五十子陣に戻るとの事で長居出来ないとの事だったのでせめてもと思い照と共に馬に乗り途中まで見送りした。
照は2人が見えなくなるまで「また来てね~!」と手を振っていたが、景信はもう来ないと思う。
道真が長生きするのが照にとってせめてもの救いと言うべきなのかな。
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