平和な農繁期
春の農繁期は足利成氏の伊豆攻めで関東は慌ただしかったものの、その後は武蔵北部や上野東部辺りで小競り合いがあった程度で豊嶋家には出陣要請も無く豊嶋領は平和だった。
ただ関東の情勢には動きがあり、以前より関東管領上杉顕定が幕府に働きかけ小山氏、小田氏などに調略をかけていたらしく、伊豆攻めが実質失敗した成氏から離反するような態度をとったらしい、それに伴い長尾景信が率いる上杉軍の勢いが強まる事に危険を感じた成氏は古河を放棄し本佐倉城の千葉孝胤の元に向かったようだ。
農繁期に大軍を率いて遠征なんてするから不興を買ったんだろう。
寧ろ俺からすると、成氏が伊豆に向かったルート上の村などを荒してくれた結果、村を捨てて豊嶋領に流入してくる農民などが居た為、俺の所領の大泉で全て受け入れ人口増加に繋がったのである意味、成氏様々と言った感じだ。
もちろん村を捨てて逃げた農民を大泉に誘導したのは風魔衆だったりなんかするんだけど…。
ただ来年には千葉氏、結城氏、那須氏の支援で古河に戻り、再来年には五十子陣を急襲して扇谷上杉家当主である上杉政真を討ち取る事になるはずだけど俺は今後の成り行きを知っていても誰にも教えるつもりはない。
ここで大幅に歴史を動かしてしまうと今後に支障がでる可能性があるからだ。
なので俺は史実通り爺である長尾景信が陣没しその後、関東管領家の家宰が景信の息子である景春ではなく長尾忠景になる事で5年後の1476年に景春が挙兵し、後の世で言う長尾景春の乱に突入するまでは基本的に火の粉が飛んでこない限りは静観する。
目的は敵対するはずの太田家の所領となっている荏原郡と品川湊、江戸城に川越城などを手に入れて勢力を拡大する為だ。
言うなれば武蔵22郡のうち、荏原郡、豊嶋郡、葛飾郡、新座郡の全てに加え、足立郡、多摩郡、入間郡埼玉郡の一部を手に入れたいと思っている。
だから上杉政真が成氏軍に討ち取られても気にする必要はなかったりする。
今後関東で起こるであろう動きはさておき、俺の所領である大泉一帯(現在の地図上で見ると大泉と関町、保谷、土支田周辺)で現在人口は10000人以上に膨れ上がっていた。
まだ開拓途中の為に今後どの程度になるかは分からないが、今年の収穫で米が5500貫、麦が2500貫、蕎麦が1800貫、稗、粟が合わせて500貫だった。それに加え、シイタケ栽培の成功、酒蔵も増えた事で清酒販売量増加で金銭収入も昨年に比べ増加している。
清酒の販売量増加とシイタケ栽培成功が大きいな。
今では堺から江戸湊に清酒や醤油を買いに船がやって来てるらしいし。
おかげで堺から不足気味の鉄や明から仕入れたハゼノ木の種、ペポ種カボチャの種等の種子に加え香辛料が手に入ったので今後も堺の商人には清酒販売を優先してあげよう。
因みに酒と言えば、現在酒蔵を新規に4軒作っており、そこで芋焼酎、麦焼酎を作る予定だ。
貫高には含まれていないけどサツマイモが結構な量収穫出来ているので干し芋にしても余る勢いなので焼酎にすることにした。
酒なら買い手はいくらでも居るし。
とは言え、今までは専業兵士を雇っている以外は内政に力を注ぎ金をつぎ込んでいたが、そろそろ軍備も増強しださないと5年後に間に合わない可能性があるので風魔衆を纏めている風間元重を呼びだした。
「越後でございますか?」
突然、呼び出され、商人に扮した配下を越後へ向かわせある物を買ってくるように伝えると元重は不思議そうな顔をしている。
「そう、越後。俺の祖父にあたる長尾景信には書状を書いて興味があるから取り寄せたいので便宜を図ってもらうよう伝えてあるので、荷車4台に清酒の樽を積めるだけ積んで行ってもらいたい」
「清酒を売りに行くついでに買い付けを?」
「いや、買って来てもらいたい物は液体だから、酒を売った後の空樽に臭水を一杯にして帰って来てもらいたい」
「臭水でございますか? 匂いが強い燃える水とは話に聞いた事がありますが、それを買い付けてくるのでしょうか?」
「そう、出来れば定期的に仕入れに行かせてもらいたい。 いずれ役に立つものだから今後の為にも早めに手に入れておきたいから」
「かしこまりました。 では手配を致します」
若干、まだ疑問があるといった顔の元重だが、流石と言うべきか、細かい事は深く聞かず部屋から出て行った。
恐らく何に使うかは想像出来ないだろうけど、合戦に使う為の物ということは理解している感じだ。
完成した暁には最初に見せてあげよう。
それにしても戦国時代の農繁期は平和だ。
農民が収穫に忙殺されているから国人衆も農兵を集められず合戦が起きにくいからね。
だからこそ専業兵士は必要なんだよ。
ネット情報では道灌の足軽軍法なんてあるけど、風魔衆に調べさせたら専業兵士を雇っている訳では無く、どうやら品川湊から得た矢銭で浪人衆を抱えていて季節に関係なく兵が動かせるていどだった。
当然集団戦闘の訓練なんかはしている形跡はなく、浪人衆にも農兵にも10人~20人一組で馬に乗っている武者や身分の高そうな武者を囲んで討ち取るように指示を出しているとの事だった。
うん、考え方は間違っていない。
騎馬武者や身分の高そうな武者は大体が指揮を執っている武将だからそれを討ち取れば早々に勝敗が決するからだ。
だけどそれが集団戦の訓練を積んだ兵士の前でどの程度役に立つのか…。
そう思いながら、馬で大泉村に向かうと、人力稲刈り機で刈り入れをしている農民が笑顔で迎えてくれる。
大泉一帯が俺の所領となってからは、合戦に駆り出される事も無く、しかも収穫量は大幅にあがり、3男、4男などにも田畑が与えられて農民からしたら嬉しい事続きだからだと思う。
更に言えば、食生活も変わり今まで塩と味噌だけだった味付けに醤油が加わっただけでなく、商人が海産物を売りに来るので今まで魚と言えば川魚だった農民からしたら劇的な変化が起きているのも大きい。
因みに俺は、真鯛の切り身を酒粕に浸けた粕漬が最近のお気に入りだ。
領内を見て周り、石神井城に帰る頃には、護衛としてついて来た人に持たせても持ちきれず馬に縛り付けて帰る羽目になるほど野菜などをおすそ分けされた。
「これはよく出来た大根なので食べてください」
「この芋は大きく良い出来ですので是非」
などと道を進むとどんどんおすそ分けが増えて行くので途中から持ちきれないので気持ちだけ受け取ると言って断ったぐらいだ。
農民が領主におすそ分けって、領主に対して親しみがあり、生活に余裕があるからこそ出来ることだよな。
我ながら良い領主している。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。
宜しくお願い致します。
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