風間一族
「某は相模の国の浪人、風間出羽守元重と申します。 この度は、武蔵野国でも指折りの名家である豊嶋家へお仕えしたく、まかり越しました。 是非とも家臣の末席にお加え頂きたく」
城を出て大泉に向かおうとしたら、城門の前に仁王立ちし大声で口上を述べてる人が居た…。
今確か、風間出羽守元重って言ってたけど、この人は風魔忍者のモデルになったと言われる風間氏の先祖?
と言うかそれよりも朝から元気だな…。 城門の前で大声を張り上げているのは1人だけど、後ろの方には一族郎党と思われる人が100人程控えて居る。
「一つお伺いしたいんですが、相模の浪人とおっしゃってましたが、元は相模の国人だったんですか?」
「ワッパ! ワシは豊嶋家の当主である泰経様にお会いしに来たのだ、邪魔をするでない!!」
なんか怒られた…。
見た限り悪い人では無さそうなんだけど、見ず知らずの子供に用は無いと言った感じか。
でも風間ってあの風間だったら風魔忍者のモデルになった一族だから家臣にして乱波働きや情報収集をして貰いたい所だけど、現状与える所領は大泉一帯しかないうえ、検地もしてないし現在開発中だし、金で雇うしか選択肢が無いんだよね。
父に頼んで召し抱えてもらったうえで与力として付けて貰うと言う方法もあるけど、はたして許可してくれるかどうか…。
「ワッパで申し訳ないのですが、その豊嶋泰経の嫡男虎千代と申します。 2~3お聞きしたい事があるのですが、お答えいただけますか? お答え頂ければ父上に取次してみますよ?」
さっきワッパ!! と一喝した表情が驚きの顔に変わり、風間と名乗った浪人はその場で平伏し、謝罪の言葉を一生懸命言っている。
まあ普通は豊嶋家の嫡男が朝っぱらから馬に乗って城外に行こうとしてるなんて誰も想像できないもんね。
一応、父に付けられた供回りは居るけど、供回りも俺が行く先々でワッパ扱いされるのに慣れてるからもはや咎め立てすらしないし…。
「それで、お聞きしたいんですが、元々は相模の国人衆だったりなんかします? 乱波働きとか得意ですか? 家臣となったらどの程度の所領が欲しいですか?」
立て続けの質問に面を喰らったような表情をしたものの、先程までとは打って変わって丁寧な口調で質問に答えてくれた。
どうやら風間家はもともと相模国足下郡に所領を持つ国人衆だったらしいが、3年程前に小田原城主である大森実頼により所領を追われ、一族郎党を率いて流浪しては合戦の際に陣借りをして食いつないでいたらしく、元々大身の国人ではなく所領も平地が少なく山に囲まれていた為、合戦の際は常に情報を重視し主に乱波働きのような戦い方で相手を翻弄し所領を守っていたらしい。
そしてどの程度の所領が欲しいのかについては、一族郎党が喰うに困らぬだけ貰えれば後は手柄を立てて褒美として加増して貰えればとの事だった。
「じゃあ父上の所に行きましょう、ただ後ろの人達ですが城門前にたむろされても困るんで、城下の外れで待ってて貰うように言ってもらえます?」
「はっ、かしこまりました」
そう言うと、元重は後ろに控えて居る一族郎党集団の所に行き、城下の外れで待つように伝えると、着物の襟を正し戻って来た。
「じゃあ行きましょうか」
そう言って馬から降りて城内に戻り、主殿の広間に連れて行き暫く待つように伝えると、父の元に行き、面会に来た浪人に会ってもらうよう頼んでみたら、帰って来た答えは否だった。
父の言い分としては元国人衆だったとは言え素性のしれぬ浪人に会うなど豊嶋家の当主としてあり得ないし特に理由もなく家臣とする理由もないと一蹴された。
確かに素性は元相模の国人とは言えそれを証明するものも無いんだけど、俺としては個人的に欲しい人材なんだよね。
その後も何とか説得し、やっと父が重い腰を上げた。
「虎千代がそこまで言うなら会ってやる、だが家臣とはせぬぞ」
「父上のおっしゃる事はごもっとも、家臣にして欲しいと言う浪人衆を毎回家臣にしていたらキリがありませんから当然だと思います」
「うむ、分かっているなら何故ワシに会わせようとする」
「う~ん、何といえばいいのか…、父上の役に立つかは別として某の役には立つと思ったので」
「それは得体の知れない浪人衆を其方の家臣としたいという事か?」
「そうなります。 ただ家臣にするにしても父上にお目通りさせてからでないとお許し頂けないと思いましたのでお願いした次第です」
「素性も定かでない浪人を家臣にしたいとは、父としては認めたくはないが其方はお告げの子、その其方が召し抱えたいと言うなら反対はしないが禄は如何する? 其方の所領から与えるのか?」
「いずれは某の所領から与えたいと思いますが、暫くの間は金で雇いたいと思っております」
「そうか、其方には其方の考えがあろう、話に聞く限り大泉一帯は開発が進み、1000貫以上の収穫が望めるとの事、商人とも取引をし金もあるようだから禄に関しては問題ないにせよ其方は豊嶋家の嫡男、家臣とする者も選ばねばならぬ身である事を忘れるでないぞ」
「かしこまりました」
父にまあもっともな事を言われたので分かったふりをしたものの、これからの時代、必要なものは家名でも血統でもなく優秀な人材なんだよね。
その辺、父は分かっていない。
いや、この時代の人間ほとんどが分かっていないと思う。
だが、だからこそ家臣とする者はそれなりに選ぶなりしないと豊嶋家の屋台骨がぐらつく可能性もあると言う事ももっともではある。
新参の家臣を重用すれば譜代の家臣の不満を招く、そしてそれは家臣の離反に繋がるからだ。
豊嶋家が鎌倉以前より続く名家でなければ軋轢も少ないんだろうけど。
そう思いながら父に続き、主殿の広間に向かい風間出羽守元重を父に目通りさせる。
「その方が豊嶋家に仕えたいと言う風間であるか、面を上げよ」
父の声で面を上げた元重が城門前で叫んでいた口上を述べてそのまま再度平伏する。
「その方の願いは分かった、だが豊嶋家の家臣としてワシが召し抱える事は出来ぬ、元相模の国人衆とは言え今は浪人である、なんの手柄も無いものを召し抱えては他に示しがつかん! とは言えそんな其方達を召し抱えたいと言うものも居る、その者に仕える気は無いか?」
「某達を召し抱えたいお方とは?」
「其方を連れて来た虎千代だ、今は所領を与えられぬと申しているが、所領の替わりに金で召し抱えたいそうだが、如何じゃ?」
「若君様が某を? 恐れながら我が一族郎党は今引き連れているだけで100人を越えまする、所領の替わりに金でとの事ですがいかほどでお召し抱え頂けるのでしょうか?」
まさか俺に召し抱えたいと言われると思てもみなかったようで、元重は困惑の表情を浮かべている。
流石に5歳児に金で召し抱えたいと言われても一族郎党を養うだけの金を貰えるとは思ってもいないと言った感じだと思う。
俺が反対の立場だったらそう思うし。
「風間出羽守元重を200貫文で召し抱える、元の所領に残った者共も呼び寄せ俺に尽くせ!」
「200貫文でございますか? お、恐れながらそのような大金を若君様がお出しくださると?」
「出す! ああ、金の事なら心配ないぞ、俺の所領は今開発中で石高も上がっておるし、商人に色々と卸しているから金には困っていない、ただ人材には困っているからな」
「あ、有りがたき幸せ、風間出羽守元重、若君様の為、粉骨砕身働きまする」
父は何も言わずやり取りを聞いていただけで、床に額を擦り付けて平伏する元重を見下ろしている。
ここで口を挟まないという事は俺の家臣として良いという事だという事で、父に礼を述べた後、元重とその一族郎党を連れて大泉に向かった。
まさか守役の原田時守に頼んで相模の風間を探させる前に向こうからやって来てくれるとは。
これで情報収集をする組織を作る事が出来る。
ここは迷わず風魔衆と名付けよう。
まずは大泉で住む場所を用意しないといけないけど、最近開拓の為に雇った人達が寝泊まりする長屋が何軒も出来てるから暫くはそこで過ごしてもらおう。




