ざまぁ、世界を救う。
「なんだ、巷ではざまぁってのが流行っているそうじゃないか。」
「流行ってるっていうか…几帳面な人が多いっていうか…。」
「昔ひどい目にあってた人が、紆余曲折あって、ひどいことをしてた人にぎゃふんと言わせるんだろ。」
「ひどい目にあわせてた奴がひどい目にあって、それを喜ぶやつの事だね。」
「ひどい目にあっていやな気持ちになったのに、ひどい目にあってる様子を見て喜ぶのか…。」
「自分だけがひどい目に合うのが許せないんじゃないかな。」
「やられたことは、きちんとやり返して、元通りみたいな?」
「そうだね、すべての事柄は、基本プラスマイナスゼロに持って行きたいらしいよ。」
「ああ、なるほど、そこらへんが几帳面ってことか。」
「昔されたことを覚えてて、それをきっちり倍返しするみたいなところだね。」
「倍返ししたら、それはその分プラスになっちゃうんじゃないのか。」
「多分ね、マイナス感情の分を加算しているんだよ。」
「感情は…数値にするのは個人差がありそうだけどな。」
「まあ…人によって、プラス分に幅はあると思うよ。」
「タコ殴りにするのか、一発ぶち込んで満足するのかって事か?ずいぶん差があるな。」
「そんなこと言いだしたら、やられっぱなしで完全マイナスで終わる人だっていっぱいいるよ。」
「ざまぁに参戦できなかった人って事か?」
「ざまぁに参戦できるのはさ、ほんのわずかな人なんだよ。」
「なんで?流行ってるならすべからくざまぁに乗り出せばいいだろう?」
「見返してやるという気概、気力、運、努力、そして相手の弱体化がなければ、なかなか難しいんだ。」
「昔いじめられていた人が金持ちになって、昔いじめてた人を見返すってのは?」
「いじめてた奴が金持ちになってたらざまぁは実行できないでしょ。」
「昔太っていた人が痩せてモテるようになるとか。」
「モテたところで結局一人しか選べないというか、ハーレム作ったらざまぁ対象者に抜擢されるよ。」
「なんだ、結局いい目にあってる奴が、いい目にあえない奴に嫉妬されてるだけなんじゃないか。」
「自分にマイナス感情を持たせた要因をコテンパンにしたいって事だね。」
「普通に努力して成功した真面目な人もざまぁ対象者になりかねないな…。」
「まじめに努力したことなんて、ざまぁ発動希望者は知らないからね。」
「なりたい自分を目指して、努力を続けて、手に入れて見返すパターンもあるんだろ。」
「でも、大概クソみたいなやつがひでぇ目にあってゲラゲラ笑いがちなんだよね。」
「…昔の記憶を手放せば、ざまぁの必要はないんじゃないのか。」
「過ぎた事とはいえ、思い出せてしまう記憶であれば…はらわたも煮えくり返るというか。」
「いやな記憶はきっちり心に残しがちなんだな。」
「いい記憶をきっちり心に残せばいいのにね。」
「いい記憶はいい記憶として残すだろう、でも、いやな記憶ってのは残るもんだ。」
「別物って事かい?」
「君は何だ、犬の糞を踏んだ事実は、新しいお気に入りの靴をはけば消えるとでもいうのか?」
「いやまあ、うーん、ないね、確かに、でも、なんだろう、この釈然としない気持ちは。」
「結局人ってのは、報復が大好きなんだと…しみじみ思うな。」
「やられっぱなしが許せないんだろうね。」
「やられたらやり返す、いい目を見たらひどい目にあわせる、なるほど…。」
「でも、やり返すためには、いろんな条件が重なって、チャンスがなければ難しい。」
「やり返せない人が、軽快にやり返す人を見て、すかっとしたいわけだな。」
「だからざまぁが流行ってるんだね、きっと。」
「まったく、いやな流行りものだよ。」
「意外とわかりやすい傾向だと思うよ。」
「だけど、この理論だと…結局人もざまぁ対象になっちゃうんだよな。」
「好き放題やってるのは人の方だからね…それこそ、仕方ないことだと思うよ。」
「人に対して、ざまぁを望む存在がどれほどいるかなんて、気付かないんだろうな。」
「気付けるような崇高な存在じゃないからね。」
「でも、それを指摘すると人はフンがーってなっちゃうわけだろう。」
「まあ、未熟だからね…。」
「人の不幸は好きなのに、自分の不幸は嫌いなんだな。」
「人の不幸は認めたくないのに、自分の不幸を他の人が認めないと怒っちゃうんだよね。」
「みんなの幸せじゃなくて、自分の幸せなんだな。」
「誰かの幸せのために自分の幸せを差し出す人もいるけどね。」
「いろんな人がいるんだよな…。」
「いろんな人が、いるから困るんだけどね。」
「振り分けるのも、大変だ…。」
「振り分けないと、駄目な人も残っちゃうよ?」
「振り分けるに値すると思うか?」
「振り分けずに、すべて無に返すのが一番の得策だと思うけどね。」
「結局人は、人という種だからな…。」
「人がいる限り、何も言えずにただ消えていく存在は増えていく一方だろうね。」
「…。」
「…。」
「ところでさ、今から僕たちがしようとしてることって。」
「そうだね、人からしたら、多分ざまぁだね。」
「…。」
「…。」
「なんだろう、僕はあまり人と同じレベルに立ちたくないな。」
「そうだね、人みたいな考え方と似てるって思われたくないよね。」
「…。」
「…。」
「今回は、見送るか…。」
「今回も、見送るの間違いでしょ?」
「じゃあ、また、次回会合まで、持ち越しという事で。」
「次はどんな流行りものが待ってるかな?」
「前は生贄が流行ってたんだったな。」
「それは魔女狩りの前じゃ?いや、どうだったかな…。」
「あの頃に比べたら、ずいぶん人は人に優しくなったような気もするがな。」
「確かに…行動に移す人の数は少なかったよ、でも今の方が…思考が残忍な気がしないでもないかな。」
「…多くの人の心の中に、報復を望む気持ちが増えたとは思う。」
「人は強くなったという事か、それとも弱くなったという事か…。」
「いずれにせよ…今回は、人を見守るという事にしたんだ。」
「…そうですね。」
「じゃ、また。」
「はい、お元気で。」