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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ショートショート4月~

神はいましたか。

作者: たかさば
掲載日:2020/04/12

いつのころのお話だったか、ずいぶん昔のことです。


その時代、天変地異が多く、人々は神に祈りをささげておりました。




おお、神よ、私たちをお救いください。


神よ、私たちは、この娘を生贄とし、ささげます。


どうか怒りをお鎮めいただき、わが領地に安息と平穏をもたらしたまえ!





生贄に選ばれたのは、町の外れの子沢山の貧しい農家の、一番上の娘でした。


器量よしで働き者、誰もが嫁にほしいと願っていた、娘でした。


娘は、身包みをはがされ、生贄を入れる棺の中に押し込められました。


幼い弟、妹たちは、泣いて姉を追いますが、みな、払いのけられ、手を伸ばすことすらできませんでした。





棺の中で、裸の娘は、涙をこぼし、自分の運命を、悲しみます。


私は、神に捧げられる。


たった一人で、知らない土地で、何も残せず、何もなさずに、死ぬのね。





生贄をささげる、神の山の中腹にある洞窟に着きました。


屈強な男たち四人の力を合わせて、ここまで運ばれてきた棺のふたが、開きます。


男たちは、いらだっていました。


誰一人として、神を信じてはいませんでした。


二日間にわたって、重たい棺を担いでここまでやってきたのです。




褒美はたったの20枚の小銭。


足りない。


足りない。


足りない。


足りない。


男たちは、目の前にある、手付かずの無垢な体に手を出しました。


俺たちは、働いたのだ。


報酬をもらっていいはずだ。


これはただの肉。


ただの肉。






貪られた肉は、大きな鉄の鎖で洞窟中央の広場に、つながれました。


がっちり嵌った鉄の足輪は、短い大きな鎖とつながっていました。


鎖の先には、大きな岩が乗せられていて、とても動かすことはできないようになっていました。






少女は、目を覚まします。


痛い。とても痛い。


体中が、ひどく、痛い。


体中に、汁がこびりついていましたが、それをぬぐう方法がなかったので、そのままでした。


体中から血が流れていましたが、やがて血は止まりました。




洞窟の中央は、湿った空気が漂っていました。


草も生えておらず、ただ、つるりとした岩盤が何枚もありました。


ごつごつした岩肌が、広がっていました。


時折水音がするのは、おそらく水源があるからだとは思うのですが、岩肌に隠れていてよくわかりませんでした。


上を見上げると、月の一部が見えました。


岩と岩の間に少し隙間があり、そこからほんの少しだけ、空をみることができるようでした。




少女は神を待ち続けました。


しかし、いつまで経っても、神は少女をさらいに来ませんでした。


私が穢されてしまったから、神はここにはこないのだと、少女は思いました。


少女は、一人で、死を待つことを受け入れました。




何日か過ぎて、少女にまとわりついていた汚れは、すべて乾いて剥がれ落ちました。


この洞窟は、朝と夜はとても湿気を含んだ空気が流れているのですが、昼間、岩の間から光が射すうちは乾いた空気が流れていたのです。


湿度をまとった汚れは、乾燥した空気に乾かされて、剥がれ落ちていったのです。




何日か過ぎて、少女はおかしいなと思いました。


おなかがすかないのです。


食欲は、棺に入ったときから消滅していました。


最後に食べ物を口にしたのは、棺に入る前日。


最後に水を口にしたのは、棺に入る前日。


おそらく10日は、過ぎている。


なのに、私は、なぜ生きているのだろう。




なぞが解けないまま、少女は毎日、神を待ちました。




まだ、神は現れません。


まだ、神は現れません。


まだ、神は現れません。




少女は、自分の体の異変に気が付き始めます。


食べること、飲むことを忘れた体が、ふと、動いたような気がしたのです。


体が、少し、膨らんできたと、気が付きました。


日に日に、大きくなる体。


日に日に、動きを増して行く、腹の中で動き回る、何か。




ある日、少女は、激しい苦しみに襲われました。


岩の隙間から月がのぞき、日が差し、再び月がのぞいた頃。


少女は、命を、誕生させました。


血にまみれた命は、やがて声を上げ、少女の乳を吸いました。




少女は、ここに神は来なかったけれど、神はいるのだと思いました。


神が、この命を、私の元に下さったのだと思いました。


命は、どんどん育っていきました。


血にまみれた体は、すっかり綺麗になっていました。


少女は、命の求めるままに乳を含ませ、互いの体温を分け合い、生きていました。




神が私を迎えに来るのであれば。


この鎖のついていない、この命を。


どうかもっと日のあたる場所へ。


そう願おうと、決めていました。




命は、抱かれているだけでなく、動き回るようになりました。


しかし、少女は鎖でつながれているので、ほとんど同じ場所にいることしかできません。


少女は、不安を覚えました。


わたしの手の届かないところに行かないよう、決して手は離さないと、心に決めました。




命は、歩くようになりました。


命は、どうしても、手を離してみたくなりました。


命は、手を、離して、少女から離れました。


少女はあわてて、手を伸ばしますが、歩くことに楽しさを感じ始めた命は、すすんでしまいました。


岩の段差で、命が、転び。


別の岩に頭をぶつけ。


命は、動かなくなりました。




どれだけ手を伸ばしても、少女の手は、命であったものには届きませんでした。




少女は、やはり神はいないと考えを変えました。




何日も何日も、命だったものを見つめました。


何日も何日も過ぎて、命だったものの形は、すっかり消えてなくなりました。


命だったもののしみすらも、そこには残りませんでした。




何日、そうして過ごしたでしょうか。


ある日、少女のいる広場に、大きな衝撃がありました。


地面が揺れて、月をのぞかせていた岩の隙間が、落ちてきたのです。


少女の、大きな鎖がつながれている、岩の上に、落ちてきたのです。


岩が割れ、鎖が抜けました。




少女は、何日も、何日も見つめ続けてきた、命のあった場所に行きました。


歩くことを忘れた少女は、一生懸命、命のあった場所に向かって、手を伸ばし、足を動かして、たどり着きました。


命のあった場所を、いとおしく、なでました。


命のあった場所に、そっと体をのせて、涙を流しました。




「待たせてしまって、ごめんなさい」




少女が声を出したとき、大きな岩が、少女の上に、転がり落ちました。





神は、いたと、あなたは思いますか。


神は、いたと、私は思いたいのです。


だから、私は、この話をお聞かせしたのです。





神は、いたと、思いますか?

ブレサリアン、ご存じですか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悲しく重い内容ですが美しい文章で綴られています。 死ぬことでしか救われない運命があるのなら、その死をもたらした存在を神と呼ぶのでしょうか。それとも死を待つ中で命に触れる機会を与えられた奇跡…
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