表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失の桜ノ宮さんは今日も元気に幽霊してる  作者: たこす
case1.大学に潜む儚き友情
7/12

第四話

「時に水無月さん、小松奈緒ってどんな子?」


 さっそく小松奈緒を探すにあたり、僕は水無月さんに尋ねてみた。

 何も知らないままに「探してみる」と言ったはいいものの、手掛かりなしではどうにもならない。

 まったく知らない子であればなおさらだ。


「え? どんな子って?」

「たとえば髪が長いとか、背が高いとか」

「えーと、ものすごく活発で明るい子」


 いや、性格じゃなくて見た目のことなんだけど……。


「活発で明るい子かー。じゃあ文学美少女の私とは正反対の性格だねー」

「へー、桜ノ宮さんは文学美少女だったのかー、知らなかったよー」


 ツッコむのも面倒だったので軽くスルーしておいた。


「……ごめん、水無月さん。もうちょっと具体的な身体的な特徴があると嬉しいんだけど……。写真とか持ってない?」

「ご、ごめんなさい。この姿になったらスマホも財布も持ってなくて……」


 出た、幽霊七不思議のひとつ。

 着ている衣装やアクセサリーは幽霊となっても身に着けているのに、財布とかケータイとか、そういう類のものはなぜか持っていないというやつ。

 写メくらいあれば確認できたかもしれないんだけどなー。


「ま、まあ、期待はしてなかったけどさ。いいよ、頑張って探してみる」


 学生課とか行けばわかるかもしれない。

 と思ったら、水無月さんが「ちょっと待って」と言った。


「外見の特徴とかならもう少し具体的に言えると思う」

「そう?」

「えーとね……髪はショートで、背は160センチくらい。目は二重で茶色がかった瞳してて、あとは……」

「待った待った! メモするから」


 慌ててショルダーバッグからノートと筆記具を取り出す。

 覚えきれないわけではないけれど、メモは重要だ。

 すると桜ノ宮さんも僕のショルダーバッグから勝手にノートを取り出した。


「じゃあ私は似顔絵描いてみるね!」


 ……勝手に取るなよ。

 ダメとは言わないけどさ。


「ええと、髪はショートで、背は160センチ……目は二重で……」


 水無月さんに言われた内容をもとにスラスラとペンを走らせる桜ノ宮さん。


「桜ノ宮さん、絵描けるの?」


 僕が尋ねると桜ノ宮さんは「まあね!」と自信満々に答えた。

 その自信満々な態度が逆に怪しいけれど、彼女は迷うことなくペンを走らせている。


 なるほど、もしかしたら彼女は芸術関係の仕事をしていたのかもしれない。


 そう思って、背後から彼女の似顔絵を覗き見ると。


「………」


 ……化け物がそこにいた。


「……桜ノ宮さん、なにこれ」

「なにって、小牧奈緒って子の似顔絵じゃない」

「ど、どうしたら鼻が目の上にくるのかな?」

「あれー? ほんとだ」


 ほんとだ、じゃねえよ。

 描いてる最中に気づけよ。


「それにあごの部分から足が生えちゃってるし……手にいたっては耳から出ちゃってるし」

「まあ、そういう人も中にはいるでしょ?」

「いねえよ!」


 超進化した新人類かよ!

 ピカソもびっくりのハイスペックな人間だわ!


「ええー、言われたとおりに描いたつもりなんだけどなー。ねえねえ、水無月さん、これどう? 小松奈緒ってこんな感じ?」


 そう言って水無月さんに描いた似顔絵を見せつける桜ノ宮さん。

 水無月さんは顔を引きつらせながら

「え、ええ……。奈緒にそっくり……かも……」

 と困りながらうなずいていた。


 無理しなくていいのに。

 気を使いすぎてて、逆に可哀そうになってくる。


「やった! アッキーノ・モッチッチ、そっくりだって!」

「……よ、よかったな、そっくりで」


 こんな人間がいたら大学中がパニックだ。


「よーし、この似顔絵をもとに小牧奈緒を探すぞー!」


 張り切っている桜ノ宮さんをよそに、僕は水無月さんに言った。


「とりあえず、学生課に尋ねてみるよ」

「はい、よろしくお願いします」


 頭を下げつつ、僕は水無月さんと別れた。



     ※



 結論から言うと、学生課では小松奈緒の情報は教えてくれなかった。

 というよりも、学生数が多いため有力な手掛かりは得られなかったのだ。

 それ以前に個人の情報は例え同じ大学の生徒でも教えられないのだという。


 そりゃそうか。

 同じ学科の学生といっても接点がなければ赤の他人だし。


 早くも暗礁に乗り上げてしまったけれど、ふと水無月さんが言っていた「詩集サークル」という言葉を思い出した。

 確か水無月さんは小松奈緒って子と詩集サークルに所属していると言っていた。

 とすれば、そこに行けば会えるかもしれない。


 そう思い、再度学生課に問い合わせてみると、それは教えてくれた。

 どうやら今日の夕方8号館の325室で活動をしているらしい。

 ちなみに、今は他の講義で使用されている。


「へえ、予約制なんだ」


 桜ノ宮さんが帳簿を上から眺めながら感心している。

 他の大学ではどうかわからないが、サークル活動で大学の講義室を使用する場合は事前に申請して許可をもらわなければならない。

 他のサークルや講義とダブルブッキングしてしまう可能性もあるし、怪しげなサークルが怪しげなことで使用するかもしれないからだ。


 まあ、許可なしでやってるところも多いだろうけど、そういうサークルは遅かれ早かれ大学側から排除されてしまう。


 こうして申請しているということは、それなりに健全なサークルということだ。


「使われるのは……今日の17時以降ですね」


 学生課の職員にいつ使用されるのか教えてもらい、僕はその場をあとにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ