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第三話

「そんなわけで、わたくし桜ノ宮やよいはアッキーノ・モッチッチの彼女になりましたー!」

「いや、待て待て待て待て。彼女にした覚えはない」

「なんですとー!?」


 っていうか、誰に向けての報告なんだそれ。


「ひ、ひどい! 昨晩、私を抱いておきながら、彼女じゃないだなんて……!」

「誤解を招くような言い方をするな! 初めて会った時(一話め)から30分も経ってないわ!」

「あれ、そうだっけ?」


 この人、ほんとに年上か?

 思いっきり女子高生のノリだぞ。


「ならばもう一度問おう。アッキーノ・モッチッチよ、私を彼女にしてたもう!」

「お断りいたす!」

「むねーん!」


 こらこら、地べたに倒れ伏すな。


「ううう、もう生きていけない……死ぬしかない……」


 ……これはツッコむべきなのだろうか。


「ああ、可哀そうなやよい。あなたは死してもなお、恋人ができないのね?」

「そういうのは別の人に頼んでくれない?」

「神様、仏様、アッキーノ・モッチッチ様、なにとぞご慈悲を……」

「まずはその呼び名をやめてもらおうか!」

「私にはあなたしかいないのですー!」

「ええい、離れろ!」


 つーか、密着してくる幽霊ってどういう体質だよ。


「もしも私を彼女にしないと、あなたの近しい人を毎日一人ずつ呪い殺しますよ?」

「いきなり方向性を変えるな!」


 ああ、ほんと。

 面倒くさい幽霊に絡まれちゃったなあ。


「わかりました、ではこうしましょう」

「……?」

「一週間、仮の恋人として過ごし、彼女にしてもいいと思えるようであれば採用。やっぱり無理なら不採用ってことで」

「い、一週間……?」


 一週間かあ。一週間は長いなあ。

 でもこれは逆にチャンスかもしれない。

 それまで我慢すればこのウザい幽霊から解放されるということだし。


「ちなみに不採用であっても私が望めば再チャレンジできます」

「何その激アマ設定!?」


 自分に優しすぎるだろ、それ!

 全然仮じゃないじゃん!

 場合によっちゃ、一生ついてまわるってことだよね?


「さあ、どうする!?」

「どうするも何も、却下だよ却下! そんな提案に乗るか!」

「じゃあ本採用ってことで……」

「なんでだよ!」


 まずい。

 めちゃくちゃ彼女のペースに巻き込まれている。

 このままだと本当に恋人にされかねないぞ?


「んー、なんで拒否するのかなー」

「自分の胸に聞いてくれ」


 正直、こんな感じで毎日こられたらこっちの身が持たない。


「わかったわ、どうしても私を恋人にはしたくないのね」

「恋人にしたくないというよりは、付きまとわれたくないだけだ」

「ふふふ、おあいにく様。私を認識した時点であなたは私に付きまとわれる運命よ」


 ひいっ、鬼畜!

 こんなことなら手なんて差し伸べるんじゃなかった。

 彼女が体勢を崩したから思わず手を出してしまったけど、そうでなかったら今頃は大学に着いて優雅にコーヒーでも飲んでいただろう。


 それを思うと、手を差し伸べたことが悔やまれる。



「……にしても、桜ノ宮さんはいつからあそこにいたんだ?」


 僕は素朴な疑問を口にした。

 そもそもだ。

 今まで何度も通った道なのに今日に限って彼女がいるっていうのが解せない。

 桜ノ宮さんがここにいるっていうことは、この界隈で彼女が死んだということだ。

 けれどもここ数日、この近辺で誰かが(しかもうら若き女性が)亡くなったという話は聞いたことがない。


 ……単純に僕の情報収集能力が足りないだけかもしれないけど。


「んー、いつからだろ。気づけばいたというか、目が覚めたらあそこにいたというか……」

「つまり、覚えてない?」

「うん。でもなんだかすごく清々しい気分で、ひらひら舞い落ちる桜の花びらを見ていたらくるくる回っていたの」


 やっぱり腑に落ちない。

 幽霊っぽくないっていう点でもそうだけど、記憶がないっていうのがよくわからない。

 何か大事なことを見落としてる気がする……。


「もしかして、何か重大な事件に巻き込まれたとか?」

「お! ミステリーだねー。美人OL殺人事件。桜ノ宮やよいは犯行現場を目撃して殺された!」


 笑えない冗談だ。

 でも、可能性はゼロではない。

 現に幽霊となった彼女がここにいるわけだし。

 何かしらの理由で死んでしまったのなら、殺されたという可能性も否定できない。


 ………。


 僕はふと、家にいる両親と妹の顔を思い浮かべた。

 もしもこの近くに殺人犯がいるのだとしたら、一刻も早く捕まえないと。


「……わかったよ」

「はい?」

「恋人になってやる」

「ほ、ほんと……!?」


 瞬間、桜ノ宮さんは後光が差したかのような眩しい笑顔を見せた。

 あまりの眩しさに目がくらむ。


「ほんとにほんとにほんとにほんと!?」

「ああ、ほんとだ」

「嘘偽りない!?」

「くどいな」

「モケモケびっち様に誓って!?」

「誰!?」


 誰だよ、モケモケびっちって。

 聞いたことないよ。


「やったー! 生まれて初めて……じゃなかった、死んで初めてカレシが出来たー!」

「ただし、死んだ理由と成仏できない理由がわかるまでの間だからな」

「ありがとう! ありがとう!」


 そう言って、桜ノ宮さんは抱きついてきた。


「わっぷ!」


 避ける間もなく、桜ノ宮さんの柔らかな身体が僕の身体を包み込んだ。

 っていうか、スキンシップ激しすぎだろ。


「嬉しいなー。嬉しいなー。嬉しいなったら嬉しいな」

「ぐおお……離れろおぉぉ……」

「では、誓いのチューをば」

「するか!」



 僕は改めて思った。

 これはとんでもない幽霊とかかわりをもってしまったと。





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