皐月
そんなに高くないところから落ちた時に、打ち所が悪かったら死ぬぐらいの時に、人は本当の恐怖を感じるのかもしれない。
生きようとする意志が最も滾るその瞬間を見逃すわけにはいかないのだ。
皐月は小さい頃から人に忌み嫌われていた。それは彼が一種の精神障害を抱えていたからかもしれない。
彼の母親は彼が4つの時に病に倒れ、6つの時に命を引き取った。彼はあろうことかその母親の遺体を自分の力だけで近くの山まで持って行き埋めたのだ。ゴミ袋に入れたその遺体をリアカーに乗せて近くの山の麓まで持っていき、そこから引きずって山の中腹まで持っていき埋めたのだ。母親の死に対してあまりに無情かつ不可解な行動に父親も皐月を恐れるようになった。
「ママがそうして欲しかったって‥」
皐月はただ母親の言われた通りにしたんだと説明した。
人が生きているとか死んでいるとか、そんなこと彼には重要じゃないのかもしれない。人の意志を尊重し、自分の思ったことをしただけなのかもしれない。
しかし、そんなことは周りの人間に容易く理解できるわけもなく、大きく変わり続けるこの社会の波に飲まれ、本物を見つけられない人たちは皐月を異質な存在として扱うようになった。