表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/49

14.仲間

 小さな悪魔は、公園の樹から子どもたちを見ていました。


 みんな楽しそうに遊んでいます。小さなボールを投げて、それをバットで打つのです。男の子も、女の子もひっしにボールを追いかけています。

 小さな悪魔は、不思議でなりませんでした。


 あんなにひっしにボールを追いかけて、何がそんなに面白いのだろう? 


 見ているだけではわからない楽しさの秘密が、そこにはあるように思えました。だから小さな悪魔も、あの子どもたちの輪の中に入りたいと思ったのです。


 だけど、なかなかチャンスがありません。あの子どもたちは、いつもいっしょにいるのです。ひとりだけになることがないのです。

 小さな悪魔は考えました。

 そのうちチャンスがあるかもしれない。

 そう思って、この中の一番強そうな子どもについてまわることにしました。




 その男の子の家は、三件の家が連なった長屋でした。

 小さな悪魔は、この家の前にある小さな公園のブランコをこぎながら、この男の子の家をのぞいています。男の子のお母さんは、学校で働いています。お父さんは単身赴任で遠くに住んでいます。ときどきしか家に帰ってきません。

 お母さんは仕事が終わって帰ってくるとお酒を飲んで、男の子を殴っています。


 この子をお母さんから自由にしてあげて、あの躰をもらおうかな、と小さな悪魔は考えます。




 男の子の家の隣には、可愛い女の子が住んでいます。男の子と女の子は仲良しです。いつもいっしょにいるので、みんなそう思っていました。

 でも、おとなが見ていない小さな公園で、男の子は女の子に、砂場の砂をかけたり、髪をひっぱったり、ときにはなぐったりしていました。


 小さな悪魔は、ブランコからそのようすを見ていました。

 男の子はお母さんから怒られるたびに、女の子をいじめます。とても楽しそうに笑います。これでお母さんになぐられても、すぐにすっきりするのです。

 これでは、躰をゆずってくれないのではないか、と小さな悪魔は首をひねりました。




 ところが思わぬところからチャンスが飛び込んできました。

 女の子のお母さんが、女の子がいじめられているから、なんとかしてください、と学校にもんくをつけたのです。

 学校の先生はあわてました。その話をきいたほかのお母さんも、子どもが男の子にいじめられている、と言いだしました。


 今まで人気者だった男の子は、きゅうに仲間外れにされました。男の子はもうみんなが遊ぶ、あのいつも小さな悪魔のいる大きな公園にはいきません。ひとりでこの小さな公園でブランコに乗っています。


 小さな悪魔はささやきました。

「きみを助けてあげるよ」

「ほんとう?」

 男の子は喜びました。

「僕の言う通りにすればいい」

 小さな悪魔がささやくと、男の子は瞳を輝かせました。




 男の子は小さな悪魔の言ったとおりのことをしました。

 学校の家庭科の時間に、包丁を振りあげて女の子を教室中追いかけ回したのです。ほかにも何人かの子どもが見ていました。笑いながら見ていました。みんな男の子が女の子をいじめていることを知っています。この日も同じだと思ったのです。だから、手を叩いてはやしたて、笑いました。

 先生はその場にいませんでした。




 後からそのことを知った先生たちはおおあわてです。学校の授業中にそんなことがあったなんて、大事件です。だから額をつきあわせて考えました。なんとかやりすごす方法に頭をひねります。


 先生は言いました。あの女の子は嘘つきで、あの女の子のお母さんは頭がおかしい。ほかの子どもたちのお母さんやお父さんも言いました。あの子のお母さんは、みんなが仲良くしているのに、邪魔するようなことを言う、困った人だ、と。だって、子どもたちは、男の子が包丁を振りまわすその場にいたのです。それを笑って見ていたのです。そんなことが、事実であっていいわけがないのです。




 

 女の子の一家は、みんなから村八分にされて引っ越していきました。

 これで学校に平和が戻りました。みんなほっとしています。



 けれど小さな悪魔は、男の子の躰をもらいませんでした。


 小さな悪魔は、公園の大きな樹に戻ってきました。

 木の枝に腰かけ、子どもたちが遊んでいるのを見ていました。でもすぐに飽きてほかに楽しいことはないかと、視線をさまよわせています。

 


 小さな悪魔には、もうあの子どもたちの秘密がわかったのです。子どもたちがひっしにボールを追いかける理由(わけ)が。

 だって、うまくやらないと、あの男の子に後でなぐられるのだもの。はやく走らないと、けとばされるのだもの。

 楽しそうな口もとは、笑っているのではないのです。怖くて怖くて、固まっているのです。



 小さな悪魔は、あのおびえた目が大嫌いなのです。だから、あんな男の子の躰なんていらない、そう思ったのでした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ