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13.社長

 小さな悪魔は、働いています。


 彼は今、大きな会社の社長です。妻と息子に去られた彼は、退屈をまぎらわすため、せっせと会社の仕事をしています。


 小さな悪魔は、いぜんにも会社ではたらいたことがあります。でも、今回はちょっとちがいます。彼は社長なのです。何でも好きにできました。小さな悪魔は、会社をもっと大きくすることに決めました。

 彼のいうとおりに動く社員を、もっとたくさん増やそうと思ったのです。




 小さな悪魔の会社は、発電会社でした。利益は安定しています。ですが、大ぞんすることもなければ、大もうけすることもない仕事でした。町の人たちが困らないように、毎日電気をとどけることが仕事です。


 でもそんなの小さな悪魔には、面白くもなんでもありません。小さな悪魔は、もっともっと自分の会社を大きくしたいのです。たくさんの社員がほしいのです。

 だから彼は、ほかの分野の仕事もすることにしました。子会社をたくさん作りました。電気でかせいだお金で、新しい会社を買収していきました。それらはいい会社ばかりではありません。赤字の会社もたくさんあります。

 そんをしたぶん、小さな悪魔は、会社の帳簿をごまかしました。本当は、もうけなんてないのに、とても業績の良い、りっぱな会社のように見せかけました。

 

 小さな悪魔の会社は、どんどん大きくなっていきます。社員もどんどん増えていきます。小さな悪魔は、もっともっと面白いことをしたいと思います。自分も、社員たちも、大笑いできるようなことをしたいと頭をひねります。


 



 小さな悪魔は、高そうビルのてっぺんの社長室から下界をながめています。そして、にっこり笑います。いいアイデアを思いついたのです。


 小さな悪魔の会社は、もともと電気を作る会社なのです。電気の値段を上げればいい。


 どうして今まで気づかなかったのだろう!


 小さな悪魔は笑っています。



 猛暑による水不足で発電があまりできなかった。そう言って小さな悪魔は、となり町の電力会社に売る電気の値段をひき上げました。電力会社は困っています。でもしかたがありません。どんなに高くても、電気を売ってもらわないと、町の人々に電気をとどけることができなくなるのです。


 電力会社の買う電気の値段は、どんどん高くなっていきます。でも、電力会社が町の人々に売る電気の値段はかわりません。電気の値段はそんなに簡単に上げることはできないのです。


 電力会社はほとほと困っています。


 電力会社は、高く買った電気を安く売っているのです。もうけがないばかりか、そんしているのです。倒産するんじゃないか、と噂が流れ始めます。小さな悪魔の会社以外の、べつの発電会社も電気を売ってくれなくなりました。


 電力会社は、とうとう町にとどける電力がなくなってしまいました。



 

 小さな悪魔は、高いビルの上から町のようすをながめます。このビルのまわりは、宝石のようにキラキラとした灯りがきらめいています。その少しさきは、ぽっかりと闇にしずんでいるのです。それは大きな沼のようでした。地獄までつづく黒いトンネルのようでした。


 小さな悪魔は、手をうって笑いました。

 多くの社員も、停電で困っているとなり町を見て笑っています。


 停電の間に、町じゅうのお店がガラスをわられてあらされ、品物を盗まれていました。セキュリティの解除された銀行からはお金が盗まれています。町の人々は、さむい冬の日に暖房が使えずふるえています。

 

 夜が明けると町のようすはすっかり変わっていました。


 小さな悪魔のしたように、ほかの会社も電力会社に電気を売りしぶるようになりました。その方が電気を高く売れることがわかったからです。


 となり町の電力会社はとうとう倒産してしまいました。となり町は困って、政府が電力を買うことになりました。





 翌年は冷夏でした。エアコンがいらないくらい涼しい夏でした。使われる電気の量がガクンと落ちて、電力の値段は暴落しました。発電会社が売ろうとしても、国じゅうの電力会社がたりていると買わなかったからです。


 小さな悪魔の会社は、市民団体にうったえられました。電気の値段を必要いじょうにつり上げたのが理由です。


 ごまかしていた帳簿の損失が、あかるみにされました。もうごまかしようがないくらい、損失がふくらんでいたのです。会社の株価は大暴落しました。

 小さな悪魔は、株主にうったえられました。


 会社は、もうじき倒産するでしょう。小さな悪魔の錬金術はもう期限きれのようです。



 小さな悪魔は不思議でなりませんでした。


 いままで自分をチヤホヤしていたれん中が、不正がばれたとたんに、手のひらを返してさげずむのです。小さな悪魔のことを「悪魔」というのです。小さな悪魔は、みんなの喜ぶことをしてやったのに。多くの社員に富をあたえてやったのに。みんな、喜んでいたじゃないか。


 小さな悪魔は、なにもかわっていません。でも、人間はどんどんかわっていくのです。小さな悪魔は、首をひねります。そしてため息をつきます。


 たくさんいたって、アリのようにウロウロしているだけの人間なんてちっとも面白くない。



 小さな悪魔は、高層ビルの屋上から、社長の躰を捨てました。地面にたたきつけられた躰は、アリのように黒く、小さく見えました。


 


 


 

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