表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

5台目「無機転連噺(むきてんつらなりばなし)」

 毎度おおきにー。いやー、外暑かったやろ……ささ、はよエアコン利いてるこっち側来ぃや。

 自分汗だくやんか、ちょっと待っとれよ、今粗品用のタオル持ってきたるさかい。……せや! そこの自販機のジュース好きに飲んでええから。

 は? いや自分客やろ。サービスやから、いやいや買う買わんは別にええねんて、そんな遠慮せんと飲んどき。氷抜きのボタン先に押さんと、一気に飲む時邪魔やから気をつけるんやで。あとアイスコーヒーはウチが言うのもなんやけどイマイチやからやめといた方がいいで。ほなちょっと待っててや。


 ほれ、タオル。

 そしたら……ああ、ええねんええねん。手元のビタミンCのよーさん入っとる奴飲んでからでええで。落ち着いたらどんな希望で来とるかだけは教えたってな?

 っと、忘れるところやったわ。まあ分かっとるやろけど、こういうのはお約束ってやつやからな。

 

ようこそ、BEアリ車専門の中古転生トラック販売ディーラー「T/E」へ。こちらではお客様のご希望に合わせた転生トラックを必ずご用意させていただきますさかい、何なりとお申し付け下さいまし。

 

さ、そしたら話そか。どんなん欲しいん?



 へ?



 あー……いや、おるおる。安心してええで、たまに来るよキミみたいなん……簡単に言うと「モノになりたい」って奴やろ? いやまあ何ていうの? あーその性癖みたいなトコの細部はええよ、聞いても理解出来んやろし……でも具体的に「このモノ」になりたいっていうのが無いとなぁ。

 ……いや実はな? 最近その、無機物転生はバリエーションが多すぎて絞りきれんのよ。剣になりたいとか靴になりたいとかあるならええけど……うん、キミのそのどこにでも喜びを見出してまう感じ、嫌いやないよ。せやけどそれやと対象多すぎてなぁ……

 しゃーない! せやったら片っ端から見てもらお! 何台か見て、この方向性かなー言うのがあったら言うてくれたらそこから絞ろやないの。な?


 うんうん、ヘタな鉄砲数撃ちゃ当たるってな、何も見んうちから何かを決めるってのは危ないもんな。せやったらこっち来て、外めっちゃ暑いけども、まあ我慢してついて来て、な?


 ええと、じゃあこっち曲がってもらって……この扉でええかなあ……ああ、何でもないよ、OKOK、着いて来とるな? んでこの奥で、っと。

 すまんなぁエアコンもない車庫で蒸し暑ぅて。でもほら、ココに並んどるの全部無機物転生系の車種や。これ、片っ端から乗ってみよ。え? ああ試乗っちゅうかな、()()()()()()()だけササっと見て行こ。まあ一台見たら意味はすぐわかるやろから、とりあえずそっち、うん、一応ベルトもしたってな?

 じゃあまず一台目「最強の武器になった男」のはじまりはじまりー。


 はい画面真っ暗やけど、これ現在の転生者、まあAさんでええか面倒やし。そのAさんの状況な? 実はこれ、宝箱の中やねん。舞台はええと、魔王と戦う勇者の世界だと思ってくれたらええわ。で、転生後すぐにこの暗闇で身体も動かせずに考え中。手足の感覚が無いことくらいはわかっとるかなー。

 にしたってとにかく情報が無さすぎるし、しゃーないわな。


 と言ってる間にほら、光差したで。勇者様が宝箱空けてくれたんやろな。

 急な明転でうまく周りとか見えてへんけど……声は聞こえとるな。

『これは……伝説の炎の武器、オメガフラムソード……』

 そんで両手でぐっと掴んでぶんぶんと振って、ありゃ、すぐしまってもうたな。

 まあそれでもうっすらと声は聞こえとるな。なになに?

『伝承では魔王は炎を恐れると聞く……これは切り札となろう……』

 この辺でAさんも少しずつ理解してきとるな。自分が武器になったということ、どうやら自分がこのあと魔王への切り札として準備されてること。まあ仕舞われてしもたからまた真っ暗やし、自分に意志があることを伝える方法がまだわからんようやけど、アレやな、ベタなところで行くと次に魔王戦で抜かれた時に「力を与えよう」みたいなこと言うたらキャラが立つヤツやなこれは。


 Aさん、これは割と順応性が高いパターンやね。もしキミが転生した場合も……いや本当言うと「転生対象者が理解した上で」飛ばされることはでけへんから、そん時はキミの記憶は一旦消すけども……それでもキミみたいなんはすぐ慣れるやろうし、これは見といたほうがいいパターンやで!

 うんうん、そしたらどうせ画面暗いままやし魔王戦まで飛ばそか。


 はい、魔王と対峙して……道具袋越しやからもごもご聞こえるけどお決まりの「世界を救う」だとか「滅ぼす」だとかそういう話しとるっぽいな。

 ん、どうやら決裂……というか最初(ハナ)っからそんな物語ではなかったんやろなあ。周りの音が急に物々しくなって、何度かの剣戟、そして突然開かれる視界!

 さあ出番やで、Aさんの転生したオメガフラムソード!!


 勇者の両の手にすっぽりと収まり……何かに擦られて、飛んだー!


 ん? なんやキミおもろい顔して。

 剣? 何言うてんのよキミ。この世界で

「ソード」

言うたらこっちの世界で言う

「爆弾」

のことやで。


 たーまやー!!


 見てみぃホラ、めっちゃ吹き飛んどるで魔王。いやー、特に魔法とか無い世界やったからなー、爆薬のダメージは相当のもんやろ。魔王は瀕死、多分このまま勇者が押し切って……Aさん? えっとぉ……あれで無事に見える? うん、理解が早くて助かるで。じゃあ……ええと……次いこか。降りて降りて、隣の車乗ってな。


 よっ……こらせ、っと。

 さて続きましては「願望確率機」やな。

 今度は真っ当な剣と銃と魔法と科学と、とりあえず結構雑多なファンタジー世界やね。いや大丈夫やって! 今度は消耗品やないって!

 じゃあ早速今度は転生者、Bさんが転生したモノを見てみよか。


 はいこれ!

 何コレて……キミこういうの見たこと無いか? あるやろ? せやったら見たままや、ほら言うてみぃ、口に出して。せや、その通り、「ガチャ」や。

 Bさんはいわゆるスマホゲーの世界に転生して、ガチャになったんや。

 一応世界観に合わせて説明すると、英雄の魂や記憶や伝承の武器を異界から呼び出すための召喚機……と言ってみたところで謎のコイン入りそうなところとハンドルついとるからな……

 いやいやいや、そう捨てたもんでも無いんやて! そら滅茶苦茶忙しいけど充実しとるんやで。ほら見てみい、ガチャの前でガッツポーズする奴、泣き崩れるやつ、表情を失って次々回すやつ、謎のハゲに祈ってから回すやつ、何故か時間を気にしながら回すやつに、乳首で回そうとするアホ。見てて飽きひんやろ。

 それにな、そういう奴らの一喜一憂を自分が掌握してるというのは、中々悪い気分やなかったようやで。ほれ、ガチャの中のBさんもニマニマしとる。


 せやけどな……Bさんかて人間や。いやガチャやけどな今、まあ元は人間やんか。

 目の前で喜ぶ人間に比べて、あまりに絶望する人間が多すぎる事にだんだんと心が痛みはじめたんよ。だからある日、気まぐれに一人のプレイヤーにとびっきりのレアを当ててやった……プレイヤーはもちろん喜び勇んで、世界中に向けてその超絶ウルトラアルティメットミリオン激レアを自慢するわなあ……それで全て終わりや。



 そのレアは「出してはいけないもの」やった。

 提供時期が決まっているいわゆる「期間限定ピックアップ」やったんよ。それを関係ない時期に排出した……となればそれは完全なランダムを謳う確率機を根底から否定する問題や。前回メンテナンスの後に使われた有償のアイテムは全て返還、開催中のイベント期間の変更、あとは謝罪に説明……で済めば良かったんやけど、どれだけ調べても原因が解明されへんかったことでプレイヤーの運営への猜疑心はついに堰を切ってもうた。集団訴訟に発展……ニュースにも結構なってもうてな、そんなゲームにプレイヤーが残るはずもなく、裁判の敗訴を待たずしてサービスは終了。

 まあ当然やけど、ゲームサーバーは閉じられたというわけや。


 ……Bさん? データとしての自我は残ってたと思うで。ただ、電源を切られたサーバーの中にある意識(じんかく)()()()()()()()については……まだ今の時代に普遍的な答えはなかったんとちゃうか? うん、せやな、次いこか……


 あ、まだ二台やけど随分汗かいてもうたな。スマンなあ、さっきも言うたけど冷房の一つもない車庫やさかい。ちょっと替えのタオルと飲みもん取ってくるわ。

 キミは何にする? さっきのビタミンのヤツでええか? 氷は? アリやな、まあ融けるやろしな。よっしゃまかしとき、そしたら次のトラック乗って待っとってくれるか。次のヤツは確かええと、せやせや、これは期待出来るんとちゃうか?

「意思あり巨大合体ロボ」やで! うんうん、そしたらすぐ戻ってくるな! ほなな!




 ゴメンて……いやほんとゴメンて……

 さすがに「ロボの五感とリンクしているせいで合体時はなんか気持ちええけど、分離時は四肢断裂の痛みで発狂する」のは想定外やったね……

 数を用意したせいで各々のあらすじまでちゃんと見とかんかったのは確かに悪かった。いや、でも言うてウチの店、BE(ワケ)ありで売っとる訳やしそこんとこは理解してもらわんと……いやゴメンて! せやから早く忘れて次行こ、な?


 ええと次は……ほらこれどうや! 「ハイヒーリング温泉」やで!

 剣と魔法の世界で冒険者が集う回復の温泉()()()()になってやな、傷ついた彼らを癒やしながら冒険の話を聞いたり、その話を元に別の人に助言したりする、物語のフラグを色々いじって転がしてくヤツ!

 

 それにしても温泉に転生ってこれ、液体なんやろか……いや、風呂釜とか岩とか? ……まあええわまずは見てから……ちょ、なんやねんもぉー。え? この資料……いやぁ、あんまりお客さんに見せてええもんとは……うぅ、せやな……じゃあちょっとだけ、やったら……

 ん? なんて? 「男だらけの盗賊団御用達」の温泉? うん……そっか、見落としとったなぁ……えっと……見る? そか、なんぼキミが何でもいいと言うても、まあ限度はあるわな。……一応聞いとくけど好みとしてそっちは……無い、ならヤメとこ。好きなら止めへんけど、ウチは優しい方やからな。


 じゃあ一台飛ばしてこっち、コレなんて書いてある? 「便器」? ……もういろんな趣旨変わってくるわ……ヤメヤメ。次、「棺桶」? オチが火葬か土葬しかないやんけ! 容れ物系はなんか総じてマズい感じするなぁ……他ない? 「本の帯」……アレか、キャッチコピーとか売り文句とか書いてある……それで何をするんやろ……あー、別の本にくっついて表紙のイメージ変えるヤツ? それロマンあるか……? あとアレすぐ破れるやろ。 次の「ストッキング」はキミ完全に見るべき映像のジャンルがちゃうし、これもまたすぐ破れるヤツや。「最下位球団のマスコットの着ぐるみ」は……すぐ敗れるヤツやんけー……って何言わすねんアホ! いや最後のヤツちょっと面白そうやな……一応見る?



 いや……確かにマスコットの身で弱小球団の面々を鼓舞して強くしていくのはなかなか見応えもあって面白かったけども、最後なんで優勝の翌朝に三塁側ベンチで冷たくなっとったんか全くわからんかったな……。

 ああいう伏線もへったくれもない唐突なヤツはあんまりロマンが無いんでなぁ……キミはどうやった? そかー……まあさっきまでのしょーもないのよりはええか……そろそろ「当たり」が欲しいとこやけど……もうちょいメゲずにがんばってこ! な?



 うぷ……お腹いっぱいやで……なんや最近の無機物転生車ってこんなに混沌としとんのか……おっ? ちょっと資料めくるのストップ!! ホラ、それはええんとちゃうか? 資料のその、ちゃうって「犬の首輪」やない、その下の!! ちゃう、「風見鶏」の一つ下や!

 ほれ「輪転機」やて! これなら時代によっては最大のマスメディア情報を改変したり出来るんとちゃう? え? うん、まあそら……チェックされるようになるわな……通っても最初の一回だけか……あんまりやると廃棄されると……せやな……あの、お客さん……次、どうする?


 ふぇ? おお! ほんま? ほんまかぁ!! それはよかった!

 せやったら早速それ見てみよ。善は急げや! なぁに、間違いなくBadEndやけど、もはやキミが満足さえしてくれたらなんでもええわ!



-------------


 ふわぁーあ……お客来ぉへんな……。

 ま、来たら来たで今回(ウチ)の出番終わってまうんやしそれはええけども……永らく退屈しとるくらいならなぁ……


!?


 びっ……くりしたぁ。電話? この店に電話なんてあったんやな……ああ、もしかしてアレの連絡か?


 はい、もしもーし。おー、おおきに。はいはい、あー、さいですかー。ええ、いえいえウチはBEアリ車専門でやっとりますんでね、「未使用車」やさかい、そちらさんでよろしくしたってやって下さい。

 ええ、もちろんですわ、その辺は問題あらしまへん。ちゅーか、「彼」めっちゃやる気やから、いい仕事すると思いまっせ。え? ああ、言いません? 車とかにも「この子」めっちゃ小回りきくんですよー、とか。そういうアレですわ、いえホンマ。


 あー、ちなみに、彼が「やらかした(BadEnd)」らウチでキッチリ売ったりますから、そん時はご連絡下さいな。ええ、ちょっとウチもね、興味はあるんですわ、彼がどんな仕事するかね。いや何せ、「他人の運命を無闇に(てんせい)左右する無機物(トラック)」にめっちゃ興味が……っと、いえいえこちらの話ですわ。はい、はい、ええそれじゃ。はーい、失礼しまーす。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ