3台目「勇者レベル99」(後編)
たっだいまー。はいコーヒーのブラック。ホットだよ。ひっ!? 冗談だよぉ。 はいアイスのミルク多め。まあ無駄だと思うけど、どうぞ。
さってー…と、じゃあ続きだねー。王様がブイさんに旅立ちを決意させるシーンから行こう。
そう、王様がブイさんに伝えたのは褒美でも何でもない。ただ「魔王のレベルを教えた」の。うん、お客さんが「相手が自分より弱いとわかった」っていうのが正しい。
『おお、お主が勇者ブイか。あの恐ろしい魔王、音にも聞こえるレベル72の魔王を倒して国を救ってくれ』
ってね。聞いたところバカみたいだけど、レベルが測れる世界ではその数字にそれくらいの恐ろしさがあるって話だよ。でも、もちろんそれを聞いたらブイさんは二つ返事だよね。
そりゃまあね、自分が99で魔王が72ってんなら、当選の分かってる宝くじみたいなもんだからね……
というわけで翌日にはもう、ありとあらゆるクエストを力技で突破する勇者の英雄譚が始まっちゃったってワケ。もうこのへんはダイジェストでいいよ、いいよね、だってもう全部一緒だし。行く先々の人の頼みを聞いて要所要所にいるボスをワンパンで倒して仲間が増えるだけだよ。
まあ仲間って言ってもさ、勇者ブイ様がレベル99だってわかるとザコ相手の露払いくらいしか出来ないから、みんなだんだんやる気無くなってくるし、レベルもそこそこまでしか上がらないまま、とりあえず歩くポーションとか喋る焚き火とかそういう感じになってくるよね。いやブイさんにそんな気なくたってそうなってくるんだって。絶対的な強者にくっついてく人なんて、そんなもんだって。
でもさ、そりゃそうだよね。このレベル99の人について行けば、ついて行けさえすれば地位と名誉が約束されてるんだよ? だったらさー、まあ多少危険はあるだろうけど……ついていくよねー♪
そんなこんなで仲間が10人くらいになったあたりで、ついに魔王の居城にやってきた一行のところから普通に見てもらおう。はい、魔王の城を守るモンスターの平均レベルは55くらい。なんと即死魔法を使ってくる恐ろしいヤツもいるけど、ブイさんINTとLUCが999あるから成功率0%なんだよね。だから『なんか特定の敵が叫ぶとたまに仲間死ぬな』くらいで進んでく感じ?
怖いよねぇ、世界の敵を倒しに来てるのに緊張感のない、危機感もない、使命感もない、あとなんだろう現実感もないだろうなー、そういうパーティー。レベル差が無くたって魔王からしたら恐怖の対象だよ。
んで、当然のようにノンストップで玉座の間へとご到着。
いや、名誉のために言っておくとさ、魔王さまも健闘したんだよ。仲間を全滅させて、勇者とのタイマンまでは持ち込んだんだけどさ、そりゃまあ……30近くレベルが違うって、この世界だと大人と子供以上の差だもん。ミミズとカラスくらいの差だもん。無理だよね。
でも、ほら見て!! 魔王さまの最後のパワーを! 全てを捨てて異形に変身したよ!! レベルはなんと85!!! うん……だいたいカマキリとカラスくらいの差かな……はい、戦闘終了。うん、そうだね、でもよく見て。何よそ見してんの?
――ここからが本番だよ。
ブイさんをよく見てみて、なんかおかしな顔してない?
ね? えっとね、この時ね、これが聞こえてたの。
特別にお客さんにも聞かせてあげるね。
ぱらららっぱっぱっぱー
ん? 知らない? まあそうか、これね
『レベルアップの音』
だよ。
じゃあこれも特別。この時のブイさんのステータスがこちら
------------------------------------
NAME:ブイ
LV:100
HP:10028
MP:10005
STR:1013
AGI:1008
INT:1003
VIT:1022
LUC:1000
EXP:100000000470
------------------------------------
うん、上がってるね。
そうなんだよ。
ずっとね、ブイさんだけじゃない、世界の誰もが勘違いしてたんだけどね……この世界のレベルキャップは、99じゃないんだ。99は最強じゃないんだよ。
ほらご覧!! 来るぞ!!
城がまるごと崩落する貴重映像だよ!! 真下に空いた大穴にそのまま全て飲み込まれて、轟音とともにどこかに落下。まあ持ち前のVIT:1022で無事だったブイさんだけど、周りを見回して呆然。
でも考えてられないからとりあえず一面の瓦礫をSTR:1013を活かしてどけて仲間の死体を引っ張り出し、一応持ってた蘇生アイテムで回復役を生き返らせて、残りも順次復活させて、瓦礫の城跡から抜け出したんだ。でも、どんなに落ち着いても、落ちてきた時に見たそれは消えなかったんだ。
はるか遠くに見えるくせに、明らかに今崩れた城の何十倍もあることが解る禍々しい城や、厚い雲に覆われたような暗い空や、重苦しい空気の中に漂う血生臭い瘴気。ここが先程までいた地上でないことを如実に物語ってた。
そして、その空に大写しになる影。
『我はこの世界を統べる魔神だ……あまりの無力さ故に地上世界に追放したとはいえ、我が末子、貴様らが魔王と呼んだ我が血族を殺した貴様ら、決して許さんぞ……この地下暗黒世界で朽ち果てるがいい』
そうだよ、これが本当のボスだった。魔王? さあ? プロローグかチュートリアルの敵じゃないの?
ブイは咄嗟にその影、明らかに本体ではない、のレベルを見て、そのまま気を失った。
そこに出ていたのは4771レベルという、途方もない数字だったとさ……
その後? さあ、必ずしも最後まで見る必要はないと思うけど?
だってその後戦ったそこら辺を歩いているモンスター(レベル101)に総力戦でギリギリ勝って、命からがら最寄りの村に逃げ込んだら村人の平均レベルが110だったらさ、どうすると思う? ねえ、お客さんならどうする?
運だけで自分が世界一になったと思ってたら足元にも及ばないとんでもない敵が出てきて、もう周りには自分より強い人しかいなくて……生まれたときからそうだったらまだしも、自分より弱い相手としか戦ったことがない、自分が世界一だと思ってただけの人は、そこから頑張れるの?
この先はもう資料を読むのも飽きちゃったから見てないし、映像にももう見るべきロマンはないと思うからここで切るけどさ……この車がここにある、ってことはBadEndだよ。それだけは間違いない。
どう? ミルクたっぷりのアイスコーヒーは美味しい?
ねえお客さん……次の世界戦を前に、どうしても勝てない相手を証拠を残さず何処かにやってしまえば世界一になれる、なんて思ってる、格闘技界永遠の二番手とか言われてるお客さん……さっきは答えてもらえなかったけど、もう一回だけ聞くね……
貴方は、誰をこのトラックで転生させようと思ってるの?
--------------------
あーあ、こないだの仕事はつまんなかったなー。
店まで来たからには相応の願いがあったんだろうけど、ああいうのは勘弁だよホント。
んー、今日は誰も来そうにないかな……たまにはテレビでも見るか……あっこれこないだの世界戦ってやつ……なぁんだ、直前の事故で不戦勝……ふーん……やっぱ、つまんないわ。
ホント、ばっかみたい。