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2台目「古き良き悪役令嬢」(後編)

 はいおかえり。スッキリしたかい? いやゴメン。流石にデリカシーがなかったね。

 さ、もう一度助手席に座りな。このトラックが起こした物語の終わりはもうすぐそこさ。ただね、分かっちゃいるだろうけど……コレは、()()()()()()()()だよ。それを忘れずにね。うん、じゃあ続けよう。


 王妃選考会の朝、ケイちゃんはとても晴れやかな気分で目を覚ます。

 彼女は確信していたのさ。今日、自分が選考会で()()、主人公が一人の王子を射止める。そしてトゥルーエンディングに入る事をね。

 それは世界に定められた敗北ではあったし、まあやりようによっちゃ主人公はバッドエンドに、自分が王妃にっていうエンディングも可能ではあったんだけど、そんなことを彼女のプライドが許せるはずもなく……あ、この場合の彼女というのはゲーマーとしてのケイちゃんだけでなく彼女が転生したルゼッタのプライドでもある。

 この一線を違えたら彼女は悪役令嬢では無くなるのさ。ケイちゃんにルゼッタとしての人格は無いけれど、ケイちゃんの中にルゼッタは確かに()()んだからね。始めこそミーハーに動いたけれど、やはり彼女は己が愛する世界で変わることも、己の愛する世界を変えることもできなかったんだ。そしていつしか、「世界(ゲーム)が求める主人公のライバル(ルゼッタ)としての人生」を受け入れて、そうあれかしと動いていた。


 そして選考会の会場……もちろん王宮にて邂逅するケイちゃんと主人公。

 それまでのフラグが積もり積もって、今までのライバルの行為がただ自分を邪魔者扱いしているだけでないと気づく主人公。『何故自分を助けるようなこと』をと問いかける彼女に、原作通りに「助けてなどいない」と突っぱねるケイちゃん(ルゼッタ)。言いたいことがあるなら選考会のあとで、と言い残してその場を去る名シーンさ……舞台が王妃決定のクライマックスシーンへと切り替わる前の最後のカットだね。


 でもね、そう思っていたのはこの世界でケイちゃんだけだったのさ。


 ほら見てご覧……柱の影にいるのはね、選考会じゃ勝ち目の残っちゃいない、とある貴族の娘さ。ステータスの高低の問題じゃないよ、ケイちゃんがやったんだ。

 実はね……選考会当日(この日)を迎えるために、ケイちゃんはありとあらゆる手を使ってきた。裏金、醜聞(ゴシップ)、脅迫、相手が暴力に訴えてきた場合は相応以上の力で応えた。相手? 違うよ、主人公じゃない。主人公やケイちゃんと同じく王妃の座を狙う有象無象(モブ)達さ。そう、そいつらがいるとね、このゲームが「ブレる」んだ。不確定要素になってしまう。主人公にトゥルーエンドを迎えさせることが出来なくなる可能性が上がるんだよ。

 だから排除したのさ、「主人公」と「ライバル」以外を徹底的にね。本来のゲームでは描かれなかった部分だけれど、少なくともケイちゃんは「やった」んだ。

 だからね、柱の影のあの()が手にナイフを持っていることも、その刃がルゼッタの腹に吸い込まれることも、全ては運命(シナリオ)だった、決まっていた事だったんだ。


 実はね……彼女が、このゲームに本当に精通しているはずの転生者(ケイちゃん)が知らない事がひとつあったんだよ。

 彼女が遊んだ「エンジェライク」は、携帯ゲーム機に移植されたものだって話は少ししたよね。移植作……じゃあもちろん元があるはずさね。

 そうだよ、オリジナル版の「エンジェライク」はPC用のいわゆる「女性向け18禁ゲーム」だったんだ。

 あまりの人気で全年齢版の移植が相次いだから削られたけれど、本当は学園のチンピラに襲われるシーンや個別ルートが確定する夜のシーンなんかに、子供には見せられないような過激な絵の入るシロモノだったんだ。

 そして万人向けに作り変えた際に削られたのは、性的なシーンだけじゃなかったのさ。

「主人公と切磋琢磨していたライバルが、蹴落としてきた子の恨みを買って最終選考の直前に刺される」

 このショッキングなシーンは、アラフォーのお姉さま方なら知っている人も多かったんだけどね……最近は、第二王子と婚約して主人公をサポートする良き親友ルートが正史扱いになってるから、PC版の存在自体は知っていた若い子であっても「ルゼッタが刺されるトゥルーエンド」を知らない事が往々にしてあったんだよ……


 さて、物語の結末はというと……ルゼッタはそのまま、刺された傷を隠して選考会に出場。オロオロする主人公を一括し、覚醒した主人公が王子を射止めた後にルゼッタが死んでおしまい(エンディング)さ……自分のところに転がり込むであろう第二王子の好感度調整を多忙な中必死に行っていたケイの努力も全部無駄だったし、ようやく手にした主人公との友情もブラックアウト。望まない転生をして、自分のためではない努力をして、何かが残ったかって言えば、死に際の苦痛くらいじゃないのかね……? ハ! ロマンの欠片もありゃしない、くだらないハッピーエンドさ。


 さて、それじゃあこの映像は、不思議そうに椅子から崩れ落ちるケイちゃんを見ながらお別れといこう。仕方ないよね、彼女だって何故こうなったかまるでわかっちゃいないんだ。

 あるいは……刺されてすぐに大声で警備兵や医者を呼べば一命はとりとめたかもしれない。でも、彼女は結局「ルゼッタ」であることを選んでしまった。彼女の知る高貴なる悪役令嬢はそんな場面では取り乱さないからね……そうして「そうしなければ前に進まない世界」と「彼女が世界にいるために与えられた役割」を言い訳にして、変わることも変えることもせずに、原作を知りもしないのに「正しいエンディング」に自分自身を「置き」にいったのさ。

 ……どうしたんだい、お客様? 随分と顔色が悪いじゃあないか。まさか、覚悟していなかったとは、言わせないよ。



 へぇ、じゃあアンタは、自分を轢くためのトラックを探しに来たわけだ。

 うーん……居なくは無いよ、そういう人もね。ただ、自分で自分は轢けないからさ、そういう人は「二人連れ」で来るのさ。……そうかい、まあ……わかるよ。「今」がどうしようもなくなって、転生に望みを賭けたいヤツなんてわんさかいるからね。他にいい方法も思いつかず、転生トラックの話を聞きつけて、金も無いからココに辿()()()()()()()バカなヤツ……そりゃいるさ。

 でもねぇ、覚えておきな。ケイちゃんだけじゃない、誰だってそうさ。

 変わるんじゃない、変えるんだよ。足掻いて足掻いて、抜け道を探して、手持ちのカードを使い切って、その果てに筋書きを書き換えた奴がロマンを生むんだ。

 うん……それでもね、本当にどうしようもなくて、本当にどうにもならなかったらまたおいで。アンタにゃ売ってやれないだろうけど、とっておきの車で帰り道に轢いてあげようじゃないか。

 ハハ……うん、よし……じゃあお帰りはあちらだよ。おすすめのココアは次の機会にとっておこう。さあ足元に気をつけて、っと……そうだ忘れてた。なんでアンタこんな「古い恋愛ゲームへの転生トラック」を探してたんだい? その、アンタの話からすれば、転生できればなんだっていいじゃないか、実際。



 …………プッ……クハハハハハ!!! そうかい! 好きな男の子によく似た! なるほどなるほど! ハッハハハハハ!! どのゲームに飛ぶかは分からないにしても、そりゃせっかくならねぇ! いや悪い、ゴメンよ。気を悪くしないでおくれ。いや馬鹿にしてるんじゃない。安心したのさ。

 はー笑った、いいよ、ココ最近で一番のロマンだった。

 大丈夫だよアンタ、ちゃんと歩ける、こんな裏路地に入らずに光に向かって行けるさ。


 でもちょっとだけ残念だね……どうやらアンタにココアを飲ませてやる機会はなさそうだ。たまには甘ぁくしてやるのもいいかなんて思ったけど、いやはや残念残念。さて到着……どうだい? 随分長居した気がするだろう? ようやくの出口だよ。



 コホン……それでは、お客様……本日はご来店まことにありがとうございました。二度の来店が御座いませんよう心からお祈りいたしておりますわ……どうぞ帰り道ではくれぐれも、車にお気をつけ下さいますよう。

 ええ、それじゃあ。

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