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2. 世界

――世界

 まずは、この世界について説明せねばなるまい。

 かつて我々が暮らしていた地球は、半径約6370kmほどの、やや扁平な球体であった。

 私は当然、今現在我々が立つこの大地も、同様に球体であろうと考えていた。いや、考えるまでもなく、そう思い込んでいた。

 しかし、それはただの先入観でしかなかったのだ。



 その事実は、我等を保護してくれた“渡り人”達の隠れ里に近づいた時に、実感させられた。

 彼らの隠れ里は海が見える場所にある。

 しかしそこは、海沿いの場所という訳でもない。やや内陸の場所であったのだ。

 海岸線まではこの世界の距離の単位にして、5ラン。メートル法にして20kmは離れているとのことであった。

 地球上で見通せるのは、人の目の高さでは約4km。しかしここでは、同じ条件でその遥か先まで見通せるのだ。とはいえ残念ながら、ヒトの視力ではほとんど霞んでしまうのであるが……。

 そして水平線の高さは、ほぼ目線の位置にある。つまり、この世界は限りなく平面に近いという事であろう。

 あるいはとてつもなく巨大な天体の地表にいるか、だ。

 しかしこれは、この地の重力も地球とほぼ同じ――すなわち1G――であり、また地球型惑星の物理的な限界からしても、その可能性は低そうだ。

 どちらにせよ転移直後にいたあの平原は、盆地の中などではなく本当に真っ平らな場所であったのだ。



 そうした事から、この世界における普遍的な宇宙観においても、世界は平面であるとされている様だ。

 こういった説は、地球上の古代の宇宙観においても各地で見られたものである。

 しかしこの世界の場合は、事情が違う。

 目で見る光景すべてが、この世界が平面であることを示しているのだ。

 ともなれば、この世界の端はいかなる姿であるのだろうか?

 この世界での通説によれば、中央に大地があり、その周りを海が囲んでいる。そして、更にその周囲に壁があるという。

 空は、その壁から続くドーム状天蓋が上空を覆っているとの事だ。太陽や月、星々は、天蓋に映し出された映像とされている。

 これは、古代の宇宙観に酷似している。

 いや……もしかしたら、本当にその様な姿なのかもしれない。

 とはいえ、本当に世界の端まで行ってきたという者の話は聞かないが。



 宇宙観の話となれば、天蓋に映し出される天体についても記さねばならない。

 この世界を覆っているとされる天蓋には、様々な天体が映し出されている。

 太陽、月、惑星、そして数多の星々。

 それらは、地球上から見るそれと、非常によく似ていた。

 いや……そのものと言っても良いであろう。

 最も顕著な例として挙げられるのが、月と思しき天体である。

 表面に見える、“海”からなるあの特徴的な模様――老婆、カニ、ウサギ等々――は、まさしく地球の月と同じであったのだ。

 昼間この世界を照らす恒星も、極めて太陽に酷似している。視直径、そして色。まさしく太陽と同じ、G型と呼ばれる黄色の恒星だ。

 私は天文学者でもないし、スペクトル分析をした訳ではないのではっきりとは言い切ることはできない。だが、あれはまさしく太陽と同一の存在なのではないのだろうか?

 そして、惑星や星々。

 火星、木星、土星と思しき天体を見ることができた。また、明けの明星、宵の明星も。水星は……もしかしたら、観測できるのかもしれない。流石に天王星以遠の天体は無理だが。

 そして、星座。

 私は子供の頃、天体観測が趣味であった父と共に高原で星を見ていた。

 その私にとって馴染みのある星々が、鮮やかにこの世界の空を彩っているのだ。

 シリウス、ベガ、カペラ、リゲル……

 やはりこれは偶然ではあり得まい。この世界の“空”は、地球から見るものと同一であるのだ。

 


 ここまでくると、もはや偶然の一致とは言えまい。

 あの天蓋を通して見えるのは、おそらく地球から見える星々なのだ。

 いかなる原理かは不明であるが、おそらくこの“世界”は、地球近傍に“浮いて”いるらしい。

 無論、地球と同一の次元という訳ではないだろう。地表近くであれば、航空機。宇宙空間であれば、人工衛星が地球近傍を飛び回っているのだ。

 何らかの仕掛けで姿のみ消したところで、隠れることは不可能であろう。

 おそらくここは、“異空間”。

 地球が存在する宇宙とはわずかに“ずれた”時空の狭間に、この世界は潜んでいるのではなかろうか……

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