電車女には気を付けよう
鉄道オタク。
撮り鉄というもの。
「今日はここと、あの電車にしましょう」
最近では、鉄道女子=鉄子なんて、可愛いらしく女性の鉄道好きを指すこともある。
そこに彼女も含まれるだろうか?
答えは、NOだ。たぶん、NOだ。
帽子被って、ちょっと変わった形のショルダーバッグを抱え、女性だって目立つくらいの恰好をして(いや、女子なんだけど?)、奴が乗り込んだのは先頭車両。
騒がしくて、五月蠅くて、窮屈で、辛い辛いの言葉を並べた社会の事象。
『発車しまーす。無理な駆け込み乗車は止めましょう』
プーーーッ
朝のラッシュ。名物、満員電車。
女性の威厳、尊重を謳った、先頭車両は進んでいく。
ジーーーーーッ
男という嫌な生き物を排除した安心空間に、女という男を上回る嫌な生物は蠢く。
これが金になっちまうと知ったら、すれ違ってバイバイになる女性を利用するなんざ、悪と悪を抱えた女性にとっては軽いこと。
”電車女”には恥も外聞もなく、バレない罪が生む利益を求めた。
「きゃぁっ」
「あーもっ」
ちょっと香水キツイ車両。女は男以上に見かけがかけ離れている。イケメンと不細工の差じゃない。女神と豚の差ってくらいだ。選ぶべきは自分以上なんてという、ちょっとした屈辱を噛みしめながら、それでも金のためなら選別して進んでいく。
「!」
良い獲物を見つけ、顔をしかと映してからゆっくりと、下に降りていき。標的のがら空きの股下にショルダーバッグを忍ばせる。スマホを手に持っていても、別に怪しまれるわけじゃない。周りだってしている。そもそも、安全と安心を買って。この車両に乗り込んだ時点で勝ちは確定だ。
プーーーーーッ
約14分。動画一本としては、丁度いいところだろう。
編集作業してちゃんと、分かりやすいものに仕立て上げよう。
”電車女”は、満足して、指定の駅に降りる。何をされたかなんて分かっていない女性はそのまま乗車。電車は行ってしまう。大切なものを盗まれたまま。
「いやぁ~、上物だったー。やっぱり年上良いねぇ。動物パンツ可愛い」
男っぽい言葉を吐露してしまうが、”電車女”は女。それも女子高生。
通学途中でちょっとした危険な遊びと、金儲けができれば良いと思って始めたアダルトな副業。
素人による”盗撮動画”の販売。
ちょっとしたサイトでは、”電車女”の盗撮動画はそれなりに閲覧されている。これでちょっとしたお金が稼げて、編集技術や撮影技術の向上にも繋がるのだから、願ったり叶ったりな商売。通学中という憂鬱な時を最高にも引き立てる遊び稼ぎで病みつきになる。
ハンドルネーム、”電車女”。
嶋村という、動画好きの女子高生が語る、存在だ。
◇ ◇
ジーーーーッ
「……………」
今日の社会人はモデルとしても良く、撮影もキチッとできていた。ちょいと揺れているが、それでもその人の各部を正確に撮影していて、素材として扱うのには撮影者としても、編集者としても興奮してくる。
授業中、スマホに移動させた元の盗撮動画を確認するのが、嶋村の学校での行動である。真面目に授業を受けなさい!
「………………」
健気で良いわー。まったく、撮られている事を自覚していない。この無防備っぷりが良いのよ。
とはいえ、まだまだ甘いところもある。撮影に足りない技術力というのを発見し、検索し、調査、工夫、改善する心意気。授業を受けていないが、勉強する姿勢は立派そのもの。犯罪行為であるけれど。
キンコンカーンコーン
「さーって、帰るね!」
「じゃーね、嶋村。つーか、部活は?」
「定休日。今日は家が恋しいのよ、御子柴」
この趣味は、当然ながらクラスメイトに伝えているわけがない。動画を投稿している事は知っているだろうが、それは別の健全とふざけた動画くらいだ。
こんなことはバレてはいけない。
「嶋村ー」
「なによ、舟。私は忙しいんだけど」
「そーいうな。お前に頼みたい事があるんだけど」
男子馬鹿2号が絡んできた。今は正直鬱陶しい。
「お前、女子更衣室の盗撮ってできねぇの?」
「!!」
「いやー、お前って動画研究部の一員じゃん?ここいらで、健全な男子高校生のためになる動画を提供して欲しいのですが……」
「無理ね」
こいつ。どこかで私が盗撮したのを知ったのか!?
落ち着きなさい。私。私は御子柴と同じ、意地悪ごとに強い女。
「だってよ~、相場がアダルト動画を自慢するんだぜ。四葉はモテモテだし、坂倉には彼女いるしー」
相場がただただ不幸って言っているような気がする……。
「だったら俺はやっぱり、地元の花。可愛らしい幼馴染ってか、同学年の薔薇達を観たい……と思ってな」
「高校生にもなって幼馴染がいるって設定、あんまりないわよ。男の腐れ縁ってとこが限度」
「はっ。悲しいこと言うなや。ともかく、なんでも良いから。エロい動画ください!」
「無理」
「じゃあ、盗撮の極意的なもの!」
「っていうか、盗撮で発散されるわけ?あんたは」
盗撮を商売としている私が言うのもなんだけどさ。
「されるわけないけど!気がまぎれるのは事実だ!」
「そ……………」
なんか、こう……やる気が削がれる事を言うわね!
「やっぱり、リアル彼女が欲しいわ。でも、夢や写真、ゲームで我慢するかー。俺は部活だけどよー」
まったく、何しに絡んできたのか。ドキッとしたわよ。あー、やっといったか。ん?
「ちょっと待て!動画編集部覗いても良いか?面白いのあるか!?それも聞きたかった!」
「……私は定休日なんですけど?」
「だからだよー。休みって事はフリーダム!なんでも見放題だろ?部活は俺が休む」
「製作途中の作品を見られるのは屈辱なんだけど」
「完成されてるのでも良いってば!」
あーーーっ、鬱陶しい。離れろーーー!
「私は忙しいんだ!今日の朝!撮った動画編集があるの!!」
「お?なにそれ、面白そうじゃん。俺にも編集やらせろよ」
「遊びじゃないわよ!」
この言葉はマジ!私にとってのマジ!まさかこんな展開で、盗撮してる事がバレたらマズイ!
「何を撮ったんだよ。授業中から弄ってたのは、俺も知ってるぞー」
「そ、それは……言えない!!」
「余計気になるだろ!」
ウザいしつこい!それじゃあ
「送ってあげるわよ……現生よ。しかも、ご希望の……」
「お、すげー気になるわ」
ちょっとした方法で動画を舟のスマホへと送ってあげる嶋村。そして、舟が再生ボタンを押した瞬間のこと
「いやーーーー!」
「ふぁっ!?」
「舟が!舟が、盗撮動画を私に送ってくるんですけどーー!」
「へぁっ!?」
「最低なんですけど!!盗撮動画自分で撮って、私に自慢してくるんですけど!」
叫ぶ演技も、泣く演技も、……色々な痴漢冤罪動画で勉強済み!
「なに!?」
「なんだなんだ!」
「いや、違うぞ!嶋村の動画をもらっただけ!た、た、確かに動画が如何わしいけど」
「私がそんなことするわけないでしょ!変態!冤罪!!」
「いやいやいや!待て待て」
「ちょっと職員室に来ようか、舟。動画は削除だ」
「誤解だ!つーか、なんもしてねぇ!嶋村、テメェーーー!!なんてもん送ってくるんだー!」
「変態は何を言っても無駄よ!バーカ!」
これで馬鹿は消えた。やっとこれで、安心して動画作りができる……。
◇ ◇
「ん?」
『電車女さんへ。友人が今日、盗撮冤罪容疑で捕まりました。釈放後、どうしたら、盗撮しても捕まりませんかと相談を受けました。どう答えれば良いですか?』
これは……。真夜中のレスにしては、なんか身に覚えがある。
『悔いのないよう、盗撮から痴漢に切り替えてください』
『ご教授、ありがとうございます。電車女さん』
「私は知らんふり」
向こうは分かってないだろうけど、クラスメイトに私の動画閲覧者がいた。
嶋村とか御子柴の挿絵は、その場のノリで描いた感じです。
たぶん、嶋村。髪は赤色だと思ったけど、長髪じゃねぇだろ。あと、この胸はどう考えてもパッド使ってますわ。嶋村には胸がない設定なので。
ま、そこらへんは、自分も勉強中ということで。気にせず。
次回は相場をテキトーに描いてみようかなと。
どうでも良くありませんが、盗撮は犯罪なので。こーいう商売もありますけど、通勤通学で小遣い稼ぎをするのは止めましょうね。