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【第八十三話】 第一回レオナは俺の嫁評議会



「ただいまより、第一回レオナは俺の嫁評議会を始めますっ!!」


 翌日、朝食を終えてすぐ。

 風蓮荘の裏手に集合した会員達を一瞥し、俺は高らかに宣言した。

「はい~?」

「……何ですかその初耳な上に絶妙に残念なネーミングは」

「すぅ……すぅ……」

 想定通りとはいえ、反応は芳しくない。

 ソフィーは苦笑いを浮かべながら首を傾げるだけだし、その隣に座るリリはジト目を向けるだけでやる気の欠片も感じられない。

 ついでに呼んできたジュラは呆れるのを通り越して可哀そうな奴を見る目で俺を見ているし、マリアに至っては胡坐を掻いて座る俺の太ももを枕にして寝息を立てていた。

「呆れるな憐れむな蔑むな。やる気を出せ会員達、我が家の一大事なんだぞ!」

 事情の説明を後回しにして取り敢えず連れ出したのだ、皆がそうなるのも無理はない。

 だが、そんなことは言っていられない。

「一大事って、何があったんです?」

「どうせまたくだらない相談でもあるんだろうさ」

「だまらっしゃいジュラ。俺がいつくだらない相談をした」

「自分の胸に聞いてみるんだね」

 話を聞く気になったらしいソフィーとは対照的に取り付く島もないジュラ。

 恐らくは月光花の時の話をしているんだろう。

 事の経緯やその後の自己嫌悪など、飲みの席でチラっと愚痴ったことがある。

 あの時はヘラヘラと鼻の下を伸ばしているからだ、と叱責を受けたっけか。

「ひとまず全員聞け。そしてマリア、横になっていてもいいからせめて起きろ」

 完全に寝息を立てているマリアの頬を摘まんでフニフニすると『んにゅ……』と若干嫌そうにしながらも目を開いた。

 あからさまに帰りたそうなジュラはもう敢えてスルーして、俺はようやく本題を切り出すことに。

「実は昨日の夜……」

 そう、議題は昨夜のレオナの宣言である。


『あたし……結婚することになったの』


 そんな去り際の台詞に、言わずもがな驚いたし戸惑いもした。

 そして同じぐらい見過ごせなくて、看過できなくて、どういうことだと問い詰めもした。

 結果は『今はそれ以上言わないで』という、どこか有無を言わさぬ目と口調がそれ以上の追及をさせてはくれなかった。

 レオナがどこの誰とも分からん馬の骨と結婚するなど許せん。

 そんな気持ちは勿論ある。

 俺が彼女の何かと問われりゃ、まあ……ただの友達なんだろうし、この世界においてはむしろ俺の方が馬の骨どころか牛の糞みたいなもんかもしれないけど、それでも我慢出来んもんは出来ん。

 外見だけで言えば世界一のイケメンかつ大金持ちみたいな奴でもないと釣り合いも取れない神の産物と言っても過言ではない容姿の持ち主だからこそ、他の誰かに取られるなんて認めねえ!

 そんな負け犬の無様な遠吠えみたいな気持ちも半分、いや八割ぐらいはあるのだけど、そうでなくてもあの去り際の最後に見せた悲しそうな目が、どうしても俺には助けを求めているように見えたんだ。

 事実がどうかは知らん。

 勘違いか、無意識に都合の良い解釈をすることで理由作りをしているだけの可能性もあるだろう。

 だけどそれでも、気に入らんというだけで俺が動くには十分過ぎる理由だ。

 それでいて一人で何が出来るのかという話ではあるし、もっと言えば同じ家に住む者として皆も無関係ではないだろうということで協力と知恵を求めることにしたわけだ。

「あー……聞いちゃったんですか~」

 諸々の説明が終わると、唯一ソフィーだけがどこか合点がいったように苦笑いを浮かべ、頬を掻く。

 その反応から何らかの情報を持っていると感じたのは俺だけではなく、一転俺の話を聞いて唖然としていたリリが疑問を口にした。

「ソフィアさんは知ってたんですか? というか、どうして急に結婚だなんて……」

「相談を受けたとかそういう話ではないんですけど、少し前にお酒の席で愚痴を聞いたもので~。あの子酔うと結構素が出ちゃいますし……」

「ソフィー、そこんとこ詳しく」

「のちほど正式に全部決まってから自分で話すから黙っておいてくれと言われているんですけど、こうなってはそうもいかないですね~。実際に決まったのは結婚ではなくただのお見合いということらしいですけど」

「え? そうなのか?」

「ええ、確か相手は貴族の跡取りだとか。勿論レナちゃんは全く乗り気じゃないんですけど、何でもあのジャンバロック隊長の紹介だとかで断り辛いみたいで、なし崩し的に話が進んでいったみたいです」

「ジャンバロック? なんかどっかで聞いたことがあるな」

「……ヘンリー・ジャンバロックというクルセイダー隊の隊長さんで、名実ともに王国最強の戦士と呼ばれている方です」

 知っているはずもない俺に解説してくれるリリの顔はどこか浮かない。

 そんな奴に持ちかけられたら断り辛いというのは……まあ分からんでもないが。

「立場上断り辛い上に、いざ話が進んでから破談してしまってはジャンバロック隊長の顔に泥を塗ることになりますからねぇ。話があったのは少し前の話みたいですけど、考えさせてくださいと引き延ばすのにも限度があったみたいで……」

「あいつは……きっと嫌々話に乗った。そんな政略結婚みたいなので幸せになれるはずがない。それに、口にはしていなくても助けてっていう目をしてたんだ。だから俺達で阻止するぞ!」

「そうです! レオナさんが暗い顔をするような結婚なんてわたしも認めません」

「良く言ったリリ!!」

「まあ、それ自体は私も賛成ですし、実際考え直すようには言ったんですけど本人が諦めているみたいだったんですよねぇ」

「ま、騎士様だの貴族や商人の家に生まれた女じゃどこにでもある話さね」

「だまらっしゃいジュラ。そこにどんな事情があろうと泣きを見るのが分かっていて見過ごせるわけなない。あいつもここで一緒に暮らす俺達の家族だ」

「それはごもっともですね~」

「そうです」

「そして俺の嫁だ!」

「いやそれは違うんじゃ……」

「あはは~……」

 一致団結した感じなんだから否定してくれるなよ。

「ごほん、とにかくだ。無茶でも無謀でもやるっきゃねえ。ソフィー、詳細をさりげなく聞き出してくれ。自分から明かしたお前じゃないとレオナも話す気にはならないだろ。相手が誰かとか、見合いの日取りとか場所とか、必要なのはそういう情報だ」

「そうですねぇ。わたしもレナちゃんが泣くのは見たくありませんし、頑張ってみますか~」

「リリ」

「はいっ」

「相手が分かったらそいつのことをさりげなく調べろ。どんな家なのかとか、どんな息子なのかとかだ。怪しいことして捕まったら元も子もないから聞き取りとか遠くから観察する程度でいい」

「分かりました、頑張ります」

「そしてマリア」

「……?」

「調査の結果そいつがどんな野郎であろうと全力でブチのめせ」

「こらこら……」

 呆れたソフィーの声はさておき、ここに『レオナは俺の嫁大作戦』ではなく『レオナの結婚を阻止する同盟』が結成された。



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