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【第七話】 六畳一間の珍獣屋敷

1/4 台詞部分以外の「」を『』に統一



「どうぞ~」

 二階に上がり、部屋の前に到着するとソフィーはあっさりと扉を開き俺達を招き入れた。

 女子ってこういう場合恥じらいながら『片付けるからちょっと待っててっ』的な感じになるものだとばかり思っていた俺としては少々残念な気持ちになる。

「すんなり入れてくれるんだな~。女の子の部屋ってもうちょっと見られたくないもんとかあるもんだと思ってたよ俺」

「あの子達のおかげで綺麗にしてありますので大丈夫ですよ~」

「あの子達って、例の魔物?」

「はい~、家事も手伝ってくれる良い子達なんです~。さ、紹介しますので中へ」

 そう言って、ソフィーは先に中に入っていく。

 リリと二人でその後に続くと、室内に足を踏み入れる前からすげえ良い匂いが漂ってきた。

 女の子らしく床のカーペットも布団もカーテンも全部ピンクで、ちらほらと見える生活用品や小物なんかも同じく可愛らしい物が多い。

 俺にとって人生初女の子の部屋、その体験はプライスレス。

 と、思わず感動の言葉を述べそうになったが、その瞬間に目に入ったそれら(、、、)は一転して無言以外の行動を許してはくれなかった。

 部屋の中には俺達以外の生物の姿がある。事前に聞いていた話の通り、その数は四つだ。

 そのほとんどが俺にとって驚くとかツッコむとかではなく、現実逃避の遠い目をするしかない程に異形であり異常な姿形をしていた。

 まず一人目。

 見た目の年齢は俺と似た様な少女がベッドの上に行儀良く両足を揃えて座っている。

 色白な肌も相俟ってどこか芸術的でかつ繊細さ感じさせる儚げな美しさを持った少女は、しかしながらここまで取り敢えず否定から入ってきた俺にすら人間ではないことがすぐに分かってしまう違いがあった。

 背中まで伸びた真っ白な髪や同じく白いワンピース型のドレスのような服装はどこか神秘的で、明らかに人間とは異なる耳や爪の形といった見た目の部分を差し引いても全身を覆う不思議な雰囲気から否応なしに理解してしまうだけの異質さがある。

 そして二匹目。

 チェストの上にある止まり木? みたいな物の上にいるのは一匹の茶色い鳥だ。

 見た目もサイズも完全にフクロウだし、そう紹介されれば一瞬すんなり納得しそうになるのかもしれないが、それを否定する材料が一つ。

 なぜか、頭の上に角が生えているのだ。

 少なくとも俺の持つ知識の中にそんなフクロウはいない。というかそんな鳥はいない。

 大別すればフクロウなのかもしれないが、ただのフクロウということは絶対にないはずだとその一部だけですでに証明しているようなものだった。

 更には三匹目。

 もうこれが一番の問題児と言ってもいいだろう。

 その部分を除けば普通の……まあ、なんだろう、犬なのか狐なのか狼なのかはちょっと分からないけど、まあそういう類の動物だ。

 大きさも普通だし、全身真っ黒な毛というのが若干狂暴さを予感させなくはないけど、仮にペットだと言われても納得出来ただろう。

 しかし、どうしたってそれを受け入れられない理由が頭部にあった。

 なぜか……頭が二つ存在している。なんかもうケルベロス的なノリで、二つの顔が別々にはぁはぁ言っていて泣きそうにすらなってくるレベル。

 なんだこの珍獣屋敷は。

 おかしい。というのはもう言わないが、それにしたって無茶苦茶過ぎる。

 これが彼女の言うモンスター達なのか。マジでゲームの世界じゃねえか。

「ソフィア、誰だいこの人間の子は。見慣れない顔だね」

 固まるしかない俺に気付いていないソフィーがアームカバーを外したりブーツを抜いたりしている中、最後の一人が俺を見たかと思うとそんなことを言った。

 この人だけは多分普通の人間だ。

 えらいカラフルなTシャツに緑のロングスカート、そしてドレッドヘアで髪の毛がボーンとなっているという派手な格好をしているが、三十にも満たないであろう全然普通のイケイケ姉ちゃんという感じ。

 ちなみにというか、これは余談だけど俺やリリは普通にアパートの玄関で靴を脱いでいるのだが、ソフィーは靴を脱がずブーツのままサンダルみたいなオーバーシューズを履いて中に入っている。

 理由は脱いだり履いたりに時間が掛かるため部屋で休める時間になるまでは脱がないようにしているからなのだとか。

 確かにめっちゃ紐が長いし、右に左に穴に通しまくらないと履けないっぽいので無理もないけども。だったらそんな靴履かなきゃいいのに。

「この子は悠ちゃんっていって、今日から管理人さんになる人で~す。みんなに挨拶に来てくれたから仲良くするようにね」

 あれこれ考えている内にブーツを脱ぐ作業を中断し、ソフィーがにこやかに俺を紹介していた。

 そしてすぐに振り返る。

「さ、悠ちゃん。自己紹介をどうぞ~」

「え、ああ……今日から管理人になった桜井悠希だ。俺自身分からないことだらけだけど、同じ建物で暮らす人間として、まあ、よろしく頼む」

 全ての視線が集まる中、どうにか自己紹介をしてみる。

 なぜに犬やらフクロウまで俺をガン見してやがるのか。ちょっと緊張しちゃうだろが。

 俺なりにワケの分からん生物を相手に頑張ってみたつもりだったのに、カラフルドレッドなお姉さんはさほど興味がなさそうに『そうかい』とか言ってるだけだった。

「で、ソフィー。この二人と二匹は?」

「はい~、では続いてこの子達を紹介しますね~。まずこの子はルセリアちゃんです」

 そう言って広げた手でベッドの上の少女を指した。

 ルセリアと呼ばれた少女は見た目通り可愛らしい動作でペコリと頭を下げる。

「ルセリアちゃんはスノーエルフという凄く珍しい種族なんですよ~。この通り人間の言葉が苦手で口数は少ないですけど、とっても良い子なので仲良くしてあげてくださいね♪」

「スノーエルフ……か」

 勿論のことエルフが(なに)でどう珍しいのかなど一切理解出来ちゃいないが、そこはもう言わない。

「俺のことは悠希って呼んでくれ。よろしくな」

 俺はベッドの脇に寄り、握手を求める意味で手を差し出した。

 随分とフレンドリ-なキャラを装ってはいるが、ぶっちゃけマリアの時あたりからただ女の子に触りたいだけなのは内緒だ。

 ルセリアとやらはその手と俺の顔を交互に見つめ、すぐにその視線をソフィーへと向ける。

 まるで『どうしたらいいの?』と、答えを欲するように、困惑した顔で。

 それでも隣に立つソフィーがにこりと頷くと、どこか恐る恐るといった風でありながらもルセリアは俺の手をソッと掴んだ。

 数秒足らずの短い時間ではあったが、その際に『ユウ……キ』と小さく俺の名前を口にしていたことを聞き逃しはしない。あと超やわらけぇ。

 なんて変態的思考に塗れている間にもソフィーの紹介は珍獣達へと移っていく。

 第一号は角のフクロウだ。

「続きまして~、この子は一角梟のポンちゃんです~。この子もどちらかというと大人しい性格なんですけど、お仕事の時はとっても役に立ってくれる良い子なので同じく可愛がってあげてくださいね~」

「ポンちゃんは体は小さいですけど、とっても力持ちなんですよ悠希さん」

「必要なのかそうでないのかが難しい補足をありがとう。だがその前にリリ、お前居たのか」

「そんな扱いですかわたしっ!?」

 大袈裟に仰け反るリリを華麗にスルーし、その一角フクロウとやらの方へ近寄ってみる。

 いきなり襲い掛かられたりしないだろうかと若干の不安はあるが、あの恐ろしい犬が大人しくしてるぐらいだから少なくともソフィーの前では大丈夫だと信じたい。

「まあ、フクロウに悠希って呼べっつーのも無理があるかもしれんけど、よろしくなポン」

 言うと、ポンは一度だけ『ホ~』と鳴いた。

「よかったですね~悠ちゃん」

「お、おう。いや、良かったのか?」

 今の『ホ~』は前向きな意味だったのか?

 何が良かったのか全然わからねえよ。

「そしてこっちの狼ちゃんはリンリンです。種族は双頭狼(ロットウルフ)といって、右側がリンちゃん、左側がリンちゃんで合わせてリンリンちゃんと呼んであげてください」

「……どっちもリンちゃんなのかよ」

 なんで左右で同じ名前付けちゃったの? 馬鹿なの?

「人懐っこいですし、ここの住人に危害を加えるようなことはないですけど戦闘力は高いので怒らせないようにしてくださいね~」

「そうか……まあなんだ、よろしくなワン公」

 そういや飯食いに行って暴れたのってリンリンとか言ってたよな。明らかに敵を殺傷するための鋭利な牙や爪があるし、やっぱ狂暴なんだろうな。

 怒らせるなっつっても犬が何をすれば怒るのかもよく分からないけど、取り敢えず気をつけよう。エサとか横取りしなけりゃいいんだろ?

 傍に立つ俺を『ガル?』『バフッ?』と見上げるリンリンはあんまり警戒心とかは抱いていなさそうだが、逆に『何この人?』的な顔に見えるのは気のせいだろうか。

 次会った時に侵入者扱いされてワンワン吠えられたら俺泣いちゃうよ? 狼だからワンワン鳴かないだろうけど。

「そしてそして最後になります~。この子はジュラと言いまして私達の纏め役をしていると言っても過言ではないリーダー的存在です」

 この顔をよく覚えておけ。

 という意味を込めて二秒か三秒かリンリンの二つのお顔と見つめ合っているうちにソフィーの紹介が続いていた。

 残る一人は普通のお姉さんだけなのだが、ここにきて凄まじい事実が発覚することとなる。

「この子、なんて呼ぶのはおやめと言ってるだろうソフィア。それに、あたいをリーダーなんて言うんじゃない。あんたがマスターなんだからしっかりしな」

 頭ボーンのお姉さんは俺に目もくれずにソフィーを叱責し始める。

 そもそも二人はどういう関係なんだろうか。

「そうなんだけど~、いつもジュラのおかげでどうにかなってるし~、私としてはみんな家族なんだから助け合いの精神で……って、今は私がお説教されてる場合じゃないのっ。ほら、ジュラも悠ちゃんに挨拶して」

 ソフィーがプンスカしているためか、ようやくジュラという名前らしいお姉さんは俺を見た。

 なぜかギロリと、どこか睨み付ける様な鋭い目を向けられる。

「ソフィアが言うならよろしくしてやってもいい。だけど、これだけは覚えておきな人間。ソフィアを危ない目に遭わせたり泣かせたりしたらあたい達があんたを殺すよ」

 怖っ!

「いや……別にそんなことするつもりはないけどさ、ていうか人間って俺のこと? あんたも人間だろ」

「フン、馬鹿だね。そんなわけがないだろう」

「へ? どゆこと?」

「ジュラは普段は人間に化けてるんですけど、実態はメデューサなんですよ~。それからジュラ~、そういう怖いこと言わないの。みんな仲良く暮らさないと楽しくないでしょ~」

「それはこいつの態度次第だね」

「え? ちょっと待って?」

「はい~?」

「この姉ちゃん人間じゃないの?」

「そうですよ~。お仕事の時や戦闘時以外は今の姿で居ることが多いのでピンとこないかもしれませんけど、歴とした魔族なんですから~。一般的には蛇女と呼ばれる種族と言えば分かりやすいですかね~」

「蛇女……」

「信じられないって顔だね。何なら真の姿を見せてやろうか?」

「い、いや……遠慮しとくよ。何にせよ、よろしくなジュラ」

 同じ様に手を差し出してみる。

 しかし、ジュラがその手を取ることはなかった。

「言ったろう、よろしくするかどうかはお前の態度次第さ。まずはソフィアと仲良くすることから始めるんだね」

「…………」

 何を偉そうに! 俺管理人なんだぞ!

 と、言いたい衝動がハンパないが、ギリギリのところで自重した。

 ジュラ以前にリンリンに食い殺される未来しか浮かばないもの。

 俺だって何か一つ行動する度に言いたくないけどさ、殺し屋に挨拶に行って、珍獣屋敷で人間でもない生物達に小馬鹿にされる。

 とんだ新生活だなオイ。


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