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【第七十九話】 ちっぽけな勇気



 アンが賊を蹴り飛ばしたことによって脱出を許された俺はすぐにレオナを背負って小舟の外に出た。

 突入時に全てを覆い隠していた白煙はほとんど薄れているため視界は良好だ。

 屋敷を襲撃し、レオナを攫っていったと思われる黒い鎧の連中は漏れなく地面に突っ伏しており既に意識もないらしい。

 つーか何でこうも当たり前に数的不利をひっくり返して無傷で鎮圧しちゃってんだこの人達。おかしいだろ。

 アメリアさんは隊長だから実力者だというのは分かるけど、もう一人ただのメイドさんだよ?

 いや、もはやアンをただの侍女とカテゴライズするのは無理があるんだけど……一体何モンなんだこいつマジで。

 きっと問い質したところでまたはぐらかされるんだろうけどさ……ぶっちゃけ密かに姫様の護衛を兼ねているんだろうなっていうぐらいの察しは付くよさすがに。

 あ~駄目だ、そんな難しいこと考える余裕ねえわ。

 とにかく今は無事に帰ることだけ考えておこう。

 そう決めて、若干よろめきながらもレオナを背負って船を降りると極度の緊張状態だった影響かヘロヘロの俺はレオナを地面に寝かせ、その横に座って二人が襲撃犯達を船に積んであったロープでグルグル巻きにしているのを待つことにした。

 そんな中でも動く気力もない俺に水をもってきてくれたり、それでも手伝わなければと申し出る俺に休んでおきなさいと言ってくれるアメリアさんはなんという優しさだろうか。

 俺が一般人だということも大いにあるのだとしても、レオナが心酔するのが分かる人柄である。きっと普段からこういう人で良き上官なんだろう。

 そのレオナは未だ意識が戻らず寝息を立てているが、曰く何らかの方法で眠らされているだけで外傷や呪いを受けた痕跡はないとのことだ。

 呪いと言われてもあんまり分からんけども、追手として現れた相手に薬を盛れるとも考え辛いので恐らくは魔法の類だろうとも言っていた。

「では隊長、私は一旦離れます。ロックシーラ様と、ついでにこの馬鹿をお願いします」

 一通り拘束の作業が終わると、林の中に繋いでおいた二頭の馬を引き連れて来たアンがそのうちの一頭に跨った。

 俺達を追ってきているであろう部下の人達をここに連れて来るためだ。

 万が一他にも敵が潜んでいた場合に動けないレオナと動けても何も出来ない俺が傍にいる以上は戦闘能力の高いアメリアさんが残った方がいいだろうという判断の結果である。

「ああ、君にも負担をかけてばかりになってしまうがよろしく頼む」

「つーか馬鹿って俺のことかおい」

 お気遣いなく。とアメリアさん返答し、俺に対してはベーッと舌を出すだけで何を言うでもなくアンは馬で去っていった。

 静けさの残る川のほとり。

 二人で遠ざかっていく背中を見送ると、座り込んだままの俺の傍らにアメリアさんが寄った。

 部下の人達がどの辺りまで来ていて、どの程度の時間で合流出来るのかは分からないけど、ようやく緊張感や張り詰めた空気が緩んでいく。

「悠希君、少しは落ち着いたかい?」

「あ、はい。今更ちょっと震えてきたりしてたんですけど、だいぶマシになりました。すいません気を遣わせて」

「君が頭を下げることではないよ。怪我でもさせていたら申し開きのしようもなかった、危険な役目を託してしまってすまなかったね」

「いえ、俺が勝手に首突っ込んだだけですから。むしろ何も出来ないくせに付いてきて余計な気遣いをさせてすいませんでした」

「レオナの危機だと知ってジッとしていられないという君の気持を蔑ろには出来ないさ。とはいえ、そのレオナのためにもあまり無茶はして欲しくないとは思うけどね。勇気や漢気を秘めているのは短い付き合いでも分かってきたつもりだけど、ちゃんと自分自身のことも大事にしなさい」

 ポンポンと、軽く頭を撫でるアメリアさんの声音はとても優しい。

 大人の包容力というか、自分のガキさというか、そういうのがよく分かる。

 だからこそなのか、衝動的な行動でしかない今この状況をフォローだとしても良い風に言われるのはむず痒かった。

「別に……そんな立派なもんじゃないですよ。俺の勇気だの度胸なんてちっぽけなもんで、毎度毎度怖い思いして、逃げるばっかりで、後悔して、二度と首を突っ込んでたまるかって一人で愚痴って……なのに何でですかね、分かってるのに待っているだけとか無事を祈っているだけとかそういうのがどうにも我慢出来なくて、感情的になっちまって、理屈とか理性とかを無視してこうなっちゃうんです」

「歳を取り、成長すればそういった衝動もコントロール出来るようになるものだよ。良い風にも悪い風にも、だけどね。今の若い君もこの先たくさんの経験をして、色んな物を見聞きして、時には失敗もして、きっとそういう大人になっていく。人のために動けることを、誰かのために何かをしなければと思える気持ちを否定してはいけない。君にとってそれだけレオナが大切な存在ということだろう」

「大切……すか。まあそうですね。レオナっていつも分かんねえように周りに気ぃ使って、お節介っていうか口うるさいっていうか、放っておいたらどんどんいい加減になってしまいそうな俺達に敢えて怒ってくれるような、そういう風にして俺も含め自由で好き勝手やってる連中の調和を保ってくれてるんですよ」

「ほう」

「そういう苦労とか気遣いを見せないようにしてるけど、結局は皆の中心みたいな存在で、知らず知らずに誰もが頼ってる。こういう仕事をしている以上は一番大変なはずなのに。そんなもんでまあ、一人ぐらいこいつのために無茶する馬鹿がいてもいいかなって。なんて格好付けたって大したことも出来ないですし、うちの連中だってレオナのためだったら何だってやると思うんですけどね。大別するなら友達っつーか家族っつーか、そういう関係なんでしょうけど……俺もそこに加わってしまったからにはしょうがないって感じですかね。ま、要約するなら惚れた弱みってことにしておいてください」

「ふ、そういうことが言える君はやっぱり良い男なんだろうね。願わくば今の言葉を直接レオナに聞かせてやって欲しいところだけど、どうやらその必要もなさそうかな?」

「……はい? どういう意味っすか?」

「おっと、足音が聞こえてきたね。どうやらお迎えの到着だ、賊の運搬は部下に任せるから私の後ろに乗るといい。事後処理やら何やらとやることが山積みだけど、ひとまず我々も帰るとしよう」

 俺の疑問に対する答えとは違った話題を最後に口にしてアメリアさんは林の方へゆっくりと歩いていく。

 これも溢れ出る大人っぽさという名のお姉さん成分なのか、持って回った物言いが多いせいでちょいちょいよく分からないことがある人だ。

 何はともあれ武装した人間の襲撃を受けるという未曽有の大事件はこうして一旦ながらも幕を閉じ、どうにか死傷者を出すことなく国王や王女、ゴリラのオッサン達がいる屋敷に戻る時を迎えるのだった。


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