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【第六十九話】 ドキドキ混浴パラダイス



 まさかすぎる王女の提案……否、暴走によって一緒に入浴してもいいこといなった俺は今なおげんなりと肩を落としたままのアンの後を追って風呂へと向かった。

 正直、今更ドキドキが止まらなくなっている。

 当初はテンションだけで心と体の両方でガッツポーズをしていたものの、こうして脱衣室に来てしまうと何だか興奮と同じぐらい恥ずかしさが沸々と湧き上がってきているからだろう。

 凄まじい速さの鼓動を感じながら、『振り返ったら両目を抉り出すから』とアンに脅されたため背を向けゆっくりと服を脱いでいく。

 後ろではお姫様が脱衣している衣擦れの音が聞こえているのだが、その服を脱ぐ行為までアンがやっているあたりさすがは一国の王女という感じではある。

 そのせいで俺が後ろを向かされているのだろうけど、それよりも恥じらいという概念やそういった習慣がないのか平気で素っ裸のまま入ろうとする姫様の体に慌ててタオルを巻かせたアンの存在と思考回路が残念でならない。

 もっとも、そんな状態で目の前にいられると鼻血噴き出して死にそうになる気しかしないのでどちらがよかったのやら。

「ふわ~、良い温度です。一日の疲れが流れ落ちるようですわ」

 やがて全員が裸になり、それぞれがタオルを体に巻いたところで浴室へと足を踏み入れる。

 要人ご用達だけあって広く、ちょっとした温泉にでもやってきたのかというぐらいの洒落た意匠や造形も相まって昼の長い移動や水軍見物も含め小旅行にでも来た気分がより増していく感じだ。

 勿論のこと見た目だけではなく、桶で汲んだ湯を浴び俺、アン、姫様の順に並んで腰かける湯舟は確かに極楽そのものだった。

 日頃使っているあの木で出来ているだけの似非ヒノキ風呂では狭い浴槽で膝を折って浸かっているだけに足を延ばしてもまだ余るだけの広さはマジで羨ましいし素晴らしい。

 それよりも何よりもこのシチュエーションがもうヤバい。

 正直言って今日死んでもあんまり後悔はないまである夢の混浴である。

 湯舟でも全員タオルを巻いたままだとはいえ、最後までブーブー言ってたアンも観念して一緒に浸かっているので神様ありがとうとしか言えない。

 きっちり俺と王女の間に陣取っているところは抜け目ない奴って感じだけど。

「本当にそうですねぇ、今日は姫様も大変でしたからしっかり疲れを癒さないと」

 そんなアンも会話を遮るような意地悪は王女にも失礼だと思っているのか、口を挟んだりはしない。

 というわけで俺が労いの言葉でポイント稼ぎしちゃったりしても文句を言わないし、対する姫様もにっこりと微笑んでくれた。

「悠希様もご随伴ご苦労様でした。見てください、星空もとても綺麗です」

 指差す先を見上げると、ほとんど雲のない夜空が一面に広がっている。

 天井の中心部がガラスになっているという、まるで今日この場で俺のためにそうしてくれたのではと思わずにはいられない仕様には賞賛以外に感想が無い。

 あと金持ちの道楽感が半端ねえ。

「綺麗ですね、姫様と二人でいると尚更に全てが美しく見えます。間に余計なのが挟まっていなければ最高だったんですけど」

「は? それ私に言ってんの?」

「他に誰がいんだよ」

「アンタがこの場で他の何にも勝る異物だって分かってる? この状況誰がどう見てもおかしいからね、陛下が知ったら大変よもう……」

 ギラついた目から一転、アンは大きなため息と共に項垂れてしまった。

 そりゃ俺だって分かってるよ、ワンチャン首が飛ぶ可能性あるってことも。

 でもさ、だからって自重なんて出来ないじゃん。俺、男だもん。

「まあ全員がやばいことになるだろうな。だからこそみんなで隠し通そう」

「……こいつに同意するのは癪ですけど、姫様もお願いしますよ? 私が罰せられるだけならまだしも、こいつも二度と姫様に会うことは出来なくなります。まあ、それは全く問題ないというかむしろ望ましいんですけど、恐らく姫様も謹慎を命じられるでしょうから」

「まあ、悠希様をお誘いしたことはそれほどまでに大事なのですか?」

「当然です、ご成婚の前に殿方に肌を晒すだなんて」

「でもアンリ、わたくしとて誰彼構わずこんなことをするわけではないのですよ?」

「それは分かっていますけど、これが姫様の婿となるかどうかはまだ分からないのです。むしろそうならない可能性の方が遥かに高いぐらいです」

「色々と酷いなお前。これとかチ〇コ人間とか脳みそ性器とかよ」

「あ・の・ね、こうして一緒に湯舟に浸かっているだけで特例で異例で異常なのよ? 感謝されても文句言われる筋合いはないわ」

「まあな、お前には感謝しかないわ」

「な、何よ急に……」

「だからさ、出来ればお前だけでもタオル取ってくんない?」

「死ね変態野郎」

 ビンタではなく、普通にグーパンチが俺の頬に炸裂した。

 すげえ痛い。

「姫様~、アンが俺に冷たいです。当たり前のように殴るんです」

「アンリ、およしなさいと言っているでしょう? どうして悠希様を目の敵にするの」

「姫様やロックシーラ様に近付く男は全てが敵です」

「こんなに紳士で優しい男はそういませんぜ」

「うるさいウジ虫」

「ひどっ、俺もそろそろ傷つくよ? いつでもヘラヘラしてると思ったら大きな間違いだよ?」

「傷ついて余りある役得だと思ってんでしょ?」

「ああ、正直な」

 これが今まで頑張ってきたご褒美だとするならば、やっぱり神様ありがとうって感じだった。

 言い合いをしながらもチラりとアンの向こうにいる姫様に目を向ける。

 湯が滴るほっそい腕やタオルを巻いた胸の谷間付近、あと肩や鎖骨の辺りがエロさ百倍増でもう涙が出そう。

「ほんっと下衆よね」

 これだから男ってのは。とかブツブツ言いながらアンリが立ち上がる。

 かと思うと、見上げる王女へと手を差し出した。

「さ、姫様お体を綺麗にしましょう」

「ええ」

「ここは俺が流しましょう」

「アンタは座ってなさい」

 王女に続いて立ち上がろうとも、グッと頭を押さえつけられ体が上昇を止める。

 脳天に伝わる握力が意地でもさせるかと告げていた。

「ちぇっ……わーったよ」

「そう易々と姫様の体に触れられると思ったら大間違いなのよばーか」

 憎たらしい顔で悪態を吐いたかと思うと、アンリはどこか諦めたように溜息を吐き、なぜか自分の体に巻いていたタオルを豪快に片手で取っ払った。

 必然、裸体が露わになる。

 小柄なアンとはいえリリと同じぐらいの胸が目の前にある、勿論下もすっぽんぽんだ。

 この景色を永遠に脳裏に焼き付けておかねばと瞬きすら惜しんでいると、これまたどういうわけかアンはそのタオルを俺の顔へと巻き付け後頭部でギュッと縛った。

 動くな、という言葉の威圧感に気圧され不動でいるしかない俺の視界は真っ暗になり、言うまでもなく何も見えない。

「姫様のお清めが終わるまでそうしてなさい。勝手に外したら二度と物が見えないように瞼を縫い付けてやるんだから」

「……はーい」

 王女の裸が見れなくなったのは大きな痛手だが……これはこれで何という興奮!

 なにせ女子が体に巻いていたタオルが顔面に装備されているのだから。

 そしてその塞がれた視界の向こうでは姫様が裸体を晒している!!

 見えないことで逆に妄想力が働き、よりエロさを増しているだとぉぉぉ!!!!!

 ダメだ、このままじゃ俺の下半身が爆発してしまう。

 もしもそんなのを見られでもしたらさすがに王女も引いてしまうだろうか……というよりは、アンに何されるか分からんのが一番怖い。

 全力で金的とかしてきそう。いや、むしろ刃物とか持ち出しそう。

「……こわっ」

 想像しただけで身震いしてくるわ。

 見えない興奮の後に見えない恐怖が襲ってくるとは……俺の股間も急激に萎えたぞおい。

 そりゃ俺だってリスクを承知で来ているとはいえ、ねえ?

 まだ使ったことのないもう一人の俺を失うわけにはいかないじゃん。

 そういう意味ではアンがいてよかったのかもしれない。これ二人きりだったら色々と我慢出来ず王女に何をしていたことやら。

 ここで冷静になれるというのも普段からマリアに自制心を鍛えられているおかげなのだろうか。

 どれほど襲い掛かりそうになっても見て楽しむだけ、こっそり触るだけで抑えてるものね。

 それを我慢と呼べるかどうかは知らんけど……マリアってば何しても一ミリも嫌がる素振りがないし、おっぱい触ろうがスカート捲ろうがされるがままだし、何が気に入ったのか隙あらば自分からそんな俺のベッドで寝ようとするし、最近じゃ風呂にまで乱入してくるし、もうほんと生殺しだよちくしょう。

「…………」

 いかん、二人がわちゃわちゃしているせいで聴覚からの情報だけでもどんどん俺を刺激してきやがる。

 やれ髪の毛は念入りに洗いましょうだの、お胸を持ち上げますね~だの、足を開いてくださいだの……もはやこれはこれで一種のプレイみたいになっているレベル。

「ほら、終わったわよ」

 煩悩と戦い続けた目隠し放置プレイも何分が経っただろうか。

 ようやく人が近付いて来る気配がしたかと思うと、目の高さに巻かれたタオルを乱暴に引っこ抜かれる。

 目の前にはアンが立っていて、予備のタオルでも使えばいいのに変わらず素っ裸のままだ。

「……お前はもう体を隠そうともしないんだな」

「姫様の御身を曝け出すより百倍マシ。別にアンタなんかに見られたって何とも思わないし」

「いいぞ、その心意気だ!」

「……なに興奮してんのよ気持ち悪」

「そのツンツン具合も慣れれば可愛いもんさ。姫様、今度は二人で入りましょうね~」

「ええ、是非」

「是非じゃないです!」

 マジギレ気味の怒声で喚くアンと二人に萌えているだけの俺、そしてそんな俺達を見て愉快そうに笑う王女。

 何だかんだでやっぱり役得だったという感想しかない賑やかな夜だった。 

 勿論、その後悶々として中々眠れなかったことは言うまでもない。


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