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【第六十七話】 また出たニューフェイス、いやニューお姉さん


 水軍基地の視察を終えた俺達は一泊するための屋敷でしばし休息の時間を得た。

 とはいっても待ち侘びたお姫様の好感度ゲットするぜタイムが訪れたわけでもなく、飯まで部屋で休んでいろというぐらいの余った時間だ。

 しかしながら今や我が家代わりである風蓮荘と違ってサービス精神は行き届いており、メイドさんが紅茶とクッキーみたいなのを持ってきてくれたのでくつろぎ、疲れ切った体を労わるには超ありがたい。

 もうほんとヘトヘトだよ、移動ばっかなのもそうだけど立ちっぱなしってのは思ってる以上にキツいのな。

 洞窟を探索したり森を探検したり化け物の巣窟を徘徊したりしたけど歩いているよりジッと立ってるだけの方がマジキツい。

 そりゃ前者だって疲れはするけども、目的があって歩いているのと違って絶望的なまでの退屈さを携えて棒立ちってある意味拷問だからね? なんかもう始業式で定番みたいになっているクソなげえ上に誰も聞いていない校長の話が終わるの待ちみたいな。

 とまあ余談はさておき、クッキー食ったらまた眠くなってきちゃった俺であったが、姫様は無理でもあの隊長達と同席はさせてもらえるらしく、すぐに呼びにくるだろうから寝るなとレオナがうるさいので昼寝も許されず。

 幸運にも同じ部屋を宛がわれたことに感謝しつつ雑談に付き合わせることで暇な時間を消化していた。

 他愛もない馬鹿話に始まり、途中からはあの隊長達の話がメインになっていただろうか。

 例えばあのフレア・カルカロスとかいうおっさんは見た目通り熱血で通っているらしく、部下共々気合と根性が売りというか気合と根性の押し売りみたいな連中だらけなのだとか。

 おっさんが率いるのはベルセルク隊という多目的部隊とのことで、色んな仕事を幅広く請け負っているという話だ。

 ついでに言えば見た目の印象通りというか、隊長というだけあってクソ強いらしい。こちらも見た目通りバリバリのパワーファイターでありながら見た目ほど愚直な戦いをするでもなく、最年少で副隊長の地位を得たレオナですら到底敵わないんだってさ。

 だからといって欠点が無いわけではなく、他の隊長や王様からの信頼も厚く頼りにはされているもののその根性論の押し売りっぷりに女性陣からは少々暑苦しく思われているとのことだが……すげえよく分かるわ~それ。

 ちなみにレオナやアメリアさんはヴァルキリー隊という女性のみで構成されている部隊で、主な仕事は王都の守護や王様の護衛などになるようだ。

 更に言えばあの綺麗で可憐でお優しいアメリアさんは剣士としての実力で言えばトップクラスで、あの筋肉だるまをも軽く上回るっていうんだから心底すげえっつーか人は見掛けによらないわマジで。

 で、他にはどんなのがいるのかというとワルキューレ隊って国境警備をする部隊とクルセイダーって戦場で主戦力になるエリート部隊があるんだと。

 そういう難しい話にゃ大して興味ねえけど、そのエリート軍団の隊長とアメリアさんがこの国のツートップってことらしい。

 レオナが大層な地位にいることも含め、人は見た目じゃ計れないもんだよ。

 そこにどれだけの努力や下積みがあったのかなんて知りやしないけど、うちのニート共に爪の垢でも飲ませてやりてえわ。

「腹減った~、飯だ飯~」

 そんなこんなで最初は面倒臭そうにしていたレオナが日頃から主にリリやマリアに向けられている面倒見の良さを発揮してくれたのか長々と話に付き合ってくれたおかげでいつしか時間も過ぎていき、日も暮れ始めた頃に飯の時間だとお迎えがやって来る。

 相変わらずの王制であるゆえのルールで王様達の食事が終わるまで臣下はお預けという理不尽を食らっていたせいでもう腹ペコだ。

「申し訳ありません、遅くなりました。ほら悠希も早くしなさい」

「お? おう……」

 所謂晩餐室ってやつなのか、でっけえテーブルが置かれた部屋への扉を開くなりレオナが慌てた様子で後ろにいる俺に手招きをした。

 既にアメリアさんやおっさんは席に着いているため俺達が最後になってしまっているせいだろう。

 そういう上下関係も社会人ならではのものか、はたまた軍隊という規律に重きを置く組織に身を置く者であるがゆえか。

 バイトの経験があるでもなし、部活をやっているわけでもなければ学校で上級生の知り合いがいるでもない俺には今一つ分からない感覚ではあるが、待たせていることは事実なので言われた通りそそくさと空いている席に腰を下ろす。

 男女で分けているのかレオナがアメリアさんの横に座ったので必然的に俺はその正面であるおっさんの横を選ぶしかなかったわけだが、ここで疑問が一つ。

 テーブルには肉に魚に野菜に果物にパンにとたくさんの皿が並んでいて、テーブルの周りにはどこから連れてきたのかアンが居ない代わりとばかりに六人ものメイドさんがいるのだけど、それだけではなく右斜め前にもなんか知らん人がいる。

 リリみたいないかにも魔法使いっぽい薄青色のワンピース型のローブの上に白いマントを重ねている、恐ろしいまでに眼鏡が似合う金髪の美人である。

 歳は二十歳過ぎぐらいだと思われるアメリアさんよりも少し上になるだろうか。大人っぽい顔立ちがそう思わせているのかもしれないが、推定では二十台半ばかそれ以上かといった感じだろう。

 いかにも生真面目そうな、王都でよくリリと一緒に会いに行った委員長を思い出すぐらいに冗談とか全然通じなさそうなタイプだ。

「うし、全員揃ったところではよう飯にしようぞ」

 その人物が誰なのかの説明を求める前におっさんが勝手に夕食の開始を宣言しちゃった。

 それどころか俺の疑問になど露程も気付く気配のないままその誰かに一人で話し掛ける始末である。

「セシル、ご苦労じゃったの。兵の引率は本来ワシの仕事なんじゃろうが、陛下の護衛を人任せにするわけにもいかんかった。あの頭足らず達を纏めるのは大変じゃったろう。お前の気合と根性があれば問題はなかろうが助かったぞ」

 一切れの肉の塊をフォークで突き刺し口に運ぶと、おっさんは眼鏡美人に労いの言葉を投げ掛けた。

 対する眼鏡お姉さんはというと、

「恐れ入ります。私は気合や根性を職務に持ち込んだことはありあませんが」

 しれっと全否定した~!

 にこりとも笑わず、素の表情と冷静な声音でおっさんの根性論をバッサリとぶった切ったよこの人!

「あ、どうもっす」

 心の中で全力ツッコミを入れている隙にその眼鏡さんはふとこちらを見た。

 目が合ってしまった気まずさを誤魔化すように会釈をすると、一瞬『誰だこいつ?』みたいな怪訝そうな顔こそ見えたものの、あちらも見た目の通り常識人なのかペコリと頭を下げてくれた。

 俺はついさっきレオナからちらっと話だけは聞いたが、あっちはどう考えても俺のことなんて知らないよなぁ。

 自己紹介とかした方がいいのか? なんて思っていたその時、高スペックお姉さんことアメリアさんが横から割って入る。

「君にも紹介しておかなくてはねセシル。彼が今話題の少年、悠希君だよ。悠希君、こちらはカルカロスの部下でセシル・グリムホーク副隊長だ。見ての通りの魔法使い、そして見ての通り仕事の出来る優秀な御仁さ」

「セシル・グリムホークと申します。悠希殿のご噂はかねがね、以後お見知りおきを」

 やはりにこりとも笑わないセシルというらしいお姉さん。

 いや、この場合グリムホークさんになるのか。

「桜井悠希っす、よろしくお願いします……って、噂?」

「少し前から姫様がよく貴方に会いたがっているだとか、陛下に目を掛けられているといった話を幾度となく耳にしたのですが」

「え? そうなの?」

 全然初耳だけど。

 プリンセスが? 髭親父が? それってなぜ?

「なんじゃ、当の本人には届いておらんかったんか。ロックシーラも教えてやりゃあええもんを」

「そうだそうだ」

「別に隠してたわけじゃないです。どうせ舞い上がってまた馬鹿なことをするだけなんですから」

 おっさんの指摘にも俺の合いの手にも悪びれることなくレオナはそっぽを向く。

 あともう一個言わせてもらうと料理すげえ美味い。

「つーか、心外極まりないぞ。俺みたいな紳士を捕まえてよ」

「うるさいわよ下心の化身」

「誰が下心の化身だぁ!」

 思わず立ち上がるが、向かいに座るレオナはべーっと舌を出し憎たらしい顔をしているだけである。

 そんな俺たちを見て愉快そうに相好を崩すのはアメリアさんだ。

「目に掛けられているかどうかは何とも言えないけれど、月光花(フェガロフォス)の一件で見直されたのは事実だろうね」

「それも分らんでもない話じゃがのう。あの化け物の巣窟にゃ上級モンスターがうじゃうじゃいよるし、そもそも黒霧谷(ブラック・ネスト)に辿り着いたところでどこに咲いとるかも分からん超希少種じゃ、それをたった一日で採ってくるなんざワシらでもそう簡単に出来んわい」

「そういうもんっすか」

 まあ名だたる戦士でも割に合わんからと受けないぐらいの仕事だとは聞いたけど、あれって俺なんもしてないからなぁ

 たまたま在りかを知っているバンダーに出会って、バケモン達を軽くぶっ飛ばせるマリアが一緒にいてくれたおかげでしかない。

「ちなみに姫様の方は?」

「度々お前の名前を口にすると聞いとるぞ?」

「マジ?」

「まあ、シルヴィア様にとっては生まれて初めて王族と家臣という以外の人間関係だからね。そんな背景もあってもしかすると君は特別な存在になっているのかもね」

「特別な存在……」

 何そのハッピーな響き。

 逆に照れるんだけど。

「ていうか、だったら飯ぐらい一緒に食わせてくれてもいいのにさ」

「それに関しちゃあ陛下の言いつけだからしゃーなかろうぞ。一応明日ミルフォード王に会わせるまでは公務っちゅーことになっとる。それまでは我慢せえと言われとった」

「我慢って?」

「さっきの晩飯の時も、途中で立ち寄った昼飯の時もお前を呼べんのかと尋ねちょったぞ?」

「ほんとかよ! それを先に言えよオッサン」

「がっはっは、誰がおっさんじゃ」

 豪快な笑い声が響くと同時に頭の上に手を置かれる。

 顔は笑ってこそいるが、脳天から伝わる圧迫感が『次言ったら笑い事じゃ済まなくなるよ?』と言外に告げていた。

「いたたたた、嘘です冗談です。気合と根性と筋肉が大好きっス自分」

「ったく、お調子もんめ」

「明日、ミルフォード王への顔見せが済んだ後は自由時間という話だから、その時には是非相手をしてやってくれたまえ悠希君」

「図に乗ったら鉄拳制裁だからね」

 言うまでもなく、浮かれ具合急上昇の俺にレオナの忠告は届かない。

 なんだか今になって少し楽しみになっちゃったりしつつ、絶品揃いの残りの料理を掻き込んだ。




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