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【第六十一話】 それでも明日へ向かって



 ぞろぞろと大人数で外に繰り出してみると、空は晴天に恵まれ綺麗な水色が一面に広がっていた。

 雲一つ無く気持ちの良い日光が木々の間から差し込んでくる、絶好の洗濯日和である。いや、洗濯とかどうでもいいんだけど。

 そう、絶好のピクニック日和である。って言いたかったんだ俺。

 そんな太陽の下、必要な道具と食材を皆で持って俺、マリア、ソフィー、リリ、ジュラ、ルセリアちゃん、ポン、リンリンという何人と何匹って表現がどうにも難しい面子で少しばかり森の中を進んでいく。

 なぜかリリは風蓮荘から出てもなおマリアに担がれたままだ。何なら靴も履いていないし、部屋着の黄色いワンピース姿のまま着替えてすらいない。

「ちょ、ちょっとマリアさんってば。分かりましたからっ、大人しく付いていきますからいい加減下ろしてくださいっ」

 肩の上で暴れながら抗議するリリだったが、マリアはノーリアクションな上にあの人外の腕力の前では抵抗も意味を成さずただ騒がしいだけの状態がずっと続いている。

 なぜか最近になって俺の指令に忠実なマリアだった。

 ソフィーは苦笑いを浮かべながら、そしてジュラは全然興味なさそうにその横を歩き、唯一ルセリアちゃんだけが一番後ろを歩く俺の横にいる。

 敢えてこの状況でソフィーの傍を離れるなんて珍しいこともあるもんだと一瞬思ったりもしたが、そういえばだいぶ最初の頃に『魔法使いが苦手』みたいな話を聞いたなあと今になって思い出した。

 結局深くは聞けていないので魔法が苦手なのか魔法使いが苦手なのかリリが苦手なのかは分からないままだが、そのうちソフィーにでも確認してみてもいいのかもしれない。

 リリが嫌われるような子だとは思えないので何か事情はあるのだろうけど……出来れば皆仲良くして欲しい。そんな俺の親心。

 事情はどうあれこうして俺にピッタリくっついてくる姿はマジ天使。少しずつながら多少は信頼も得てきたんじゃね? とついつい自惚れてしまう今日この頃である。

 それはさておき、ソフィーやレオナとは飲みに行くこともあったし仕事? の帰りにリリと飯を食ったりもするけどこんな風に大勢でっていうのも考えてみれば珍しいんだよな。

 次はレオナがいる時に何かやりたいもんだ。

 ニート軍団が遊び呆けて一人必死に働いてるんだからむしろあいつを一番労ってやらにゃならんぐらいだってのに。

 まあ今日はリリを元気づける会だからやむを得まい。

「悠ちゃん~、この辺りでいいですかね~?」

 数分も歩いた頃、木々生い茂る森の中でも少し開けた場所に到着するとソフィーが荷物を下ろし振り返った。

 この辺りなら日光もよく入っているし、地面も砂利だらけなので少し火を使うぐらいならば問題あるまい。

「だな、さっそく用意しようぜ」

 ビニールシートなんて気の利いたモンは存在しないので適当に布を人数分持ってきただけだが、俺の企画した網と木炭を使って食材を焼いて食う簡易バーベキューっぽい催しには十分だろう。

 昨日レオナに貰った魚や買い置きしておいた豚肉、あとはバランスボールに残っていた野菜をバケツ一杯分ぐらい丸ごと持ってきたけど、マリアがいるからこれでもなくなっちゃうんだろうなあ……他の面々が小食の部類だからいいものの、まーたエンゲル係数が上がるよこれ。

 ソフィーとジュラのリクエストでレオナに買った葡萄酒も勝手に持って来ちゃってるし。

「ええい、ケチくさいこと言ってる場合か! 今日は楽しめればゃいいんだよ」

「はい? どうしたんですか急に大きな声で~」

「ああいや、何でもねえ。ただの必殺開き直りだ。それより早いとこ焼こうぜ」

 キョトンとしているソフィー、マリア、ルセリアちゃんの視線が痛い。

 一瞬にして恥ずかしくなってきたので勝手に取り仕切り、足下の石を拾って網を乗せ持ってきた木炭の上に掛けるとさっそく発火器で火を点ける。

 この世界で魔法以外の方法で火を点けるのに使われている一般的な道具で、注射器みたいな形をしているこの世界ならではの生活用品だ。

 風蓮荘で暮らし始めた当初から使い方だけ聞いて意味も理屈も知らないまま利用していたわけだけど、偶然にも最近になってそれらを知ったばかりだったりする。

 何でも圧縮法とかいう原理で注射器の先を押し込んで中の空気を圧縮することで高温化し、それを中に入っている発火石とかいう電球代わりのキ○タマと似た部類の特殊な石を通して先端の穴から強弱様々な火がライターみたいに噴き出すという仕様である。

 教えてくれたのはレオナだが、やっぱ思い返してもあんま意味分からんな。石が光って電気代わりになっている時点で意味不明だからな。

 ま、そんなトンデモアイテムの理屈なんざどうだっていい。

 今は飯だ宴だバーベキューだ。

 というわけで楽しげにしていたりヨダレを垂らしていたりと様々な反応に変わった多くの視線を前に魚と肉、野菜をふんだんに網の上に並べていく。

 香ばしさと共に食材達の色合いが変わってきた辺りでそれぞれが自由に取り皿に移し、葡萄酒の注がれたグラスで乾杯し合ったところでなんちゃってバーベキューパーティーの始まりだ。

 一応は俺がホストなので一緒に焼く係をやってくれていたソフィーには気にせず飲み食いしてくれと言ってあるため食材を継ぎ足しながらではあるが、それでもアウトドア感の相乗効果も相俟ってただの野菜ですら普段の何倍も美味く感じられる。

 ワイワイガヤガヤと、それとなく賑やかな雰囲気がどこか心地良いのも原因の一つなのだろう。たかだか徒歩数分の近所も近所だってのに、自然ってのは偉大なんだなぁ~。

 なんてしみじみ思いつつ手の甲で額の汗を拭い辺りを見回してみる。

 ジュラとソフィーは葡萄酒を片手に談笑しているし、ルセリアちゃんはリンリンを傍に置きながら野菜を少しばかりではあるがちゃんと食べてくれているようだ。

 勿論リンリンは二つの頭で肉をハグハグ良いながら食べているわけだけど、アイツの場合別に焼かなくても普段から生で食ってなかったっけ?

 いや珍獣のエサ事情は置いておくとして、当の俺はというとほとんど焼く役を一人でやりながら網の前でリリやマリアと並んで座っている。あと言うまでもなく頭の上には一匹の鳥がいる。

 どうでもいいけど、焼く役ってちょっと面白いな。

「…………」

 うーん、せっかく良い空気感なのに何かこっちは会話すくねえな。

 確実に一人でひたすら肉のみを皿に取って一心不乱に口に運んでいるマリアのせいだねこれ。

 本当に肉オンリー。野菜、魚は完全無視だ。

「こらマリア、ちゃんと野菜も食べなさい」

「…………」

 俺のことも完全無視だ。

 もはや肉しか目に入っていないらしい。

 魚も野菜もめっちゃうまいのに何と勿体ないことを。

 味付けなんて塩胡椒だけなのに、なんで屋外でやるとこんなに美味く感じるんだろう。不思議だ。

「ふう……」

 さて、ここからが本題だ。

 マリアが使えない以上、どうやってリリを元気づけてやったもんか。

 ソフィーも何となく事情を察したらしく『男見せちゃいなYO』みたいな笑顔で親指を立てたっきり、話がしやすいようにするためか敢えて距離を取っているだけにどうしたって俺がどうにかせねばなるまい。

 リリは静かに、皿を片手に取ってあげた食材を眺めたまま食べるでもなく喋るでもなく、ボーッとしている。

 やはり精神的に相当参っているようだ。

 元気づけたい、励ましてやりたい……と口で言うのは簡単だが、はてさて一体全体どうしたものか。

 叱咤や無理強いはもってのほか、かといって俺みたいなのに偉そうに諭されてもウザいだろうし……こうなりゃ行き当たりばったりで思ったままをぶつけてみるしかねえな。

「なあリリ」

「…………」

 返事はない。

 ただそれでも耳にはしっかり届いていて、続きを待ってくれていることだけは分かった。 

「お前の気持ちは痛いほど分かってるつもりだ。俺だってびっくりしたし、悲しくもあったし、お前には言ってなかったけど帰る方法がなくなったと気付いた時には絶望もした。だけどそれで終わりじゃないだろ、お前の目標や人生ってのはさ」

「わたしも……分かってはいるんです、いつまでも落ち込んでちゃ駄目だって。でも中々簡単に吹っ切ることも前向きになることも出来なくて」

「それを責めてるわけじゃないさ。でもな、心配してくれて、励ましてくれて、背中を押してくれる仲間がいる、支えてくれる家族がいる。ここはそういう家だろ? 忘れろと言ってるわけじゃない、気にしても仕方がないと言いたいわけでもない。だけどせめて、前を向いて行こうぜ。お前が憧れて、目標に据えたあの人に恥じない生き方をするためにもさ」

「だったら……悠希さんも、支えてくれますか?」

「あ? 当然だろ。つーか、無事に帰る日を迎えるまでは意地でも離さないからな」

「ふふ、そうでしたね」

「無理矢理にでも引っ張って行ってやっから、引っぱたいてでも馬鹿な俺の背中も押してくれよ」

「……はい、そうします」

 ようやく、微かながら確かに浮かぶ笑みに俺も内心ホッとする。

 結局は格好付けようとして格好付いてもいなかったっぽいけど、どうにか少しは元気になったみたいだし何でもいいか。

「一つ、気になっていたんですけど……」

「ん? どした?」

「どういう理由であちこちで魔法使いばかりが狙われるようなことが起きているんでしょう」

「うーん……そればっかりは俺には何とも」

「もしかしたら、いつかわたしも狙われちゃったりして」

「それは大丈夫だ」

「どうしてですか?」

 心なしか期待に満ちた眼差しが俺を見上げる。

 だから俺はその期待に応えるべく、言ってやったのさ。

「厳密に言えばお前は『魔法使い』じゃない、ただの『魔法使いたい人』だからな」

「酷くないですか!?」

 どこか久々な気がして懐かしさすら覚える渾身のツッコミが森の中に響き渡った。


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