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【第四十七話】 アメリアさん良い人説

 


 少ししてフィーナさんが用意した偽装工作用の手紙を受け取った俺はその足でグスターヴァ宮殿へと向かうこととなった。

 何だかそういう表現をするとより悪いことをしている気になってきて罪悪感とか後ろめたさが出てくるから嫌だな。

 そう、言うなれば代替品みたいなもんだ。そう思うことにしよう。

 ここから俺は宮殿で王様なり他のお偉いさんなりに例のなんとか監獄に行くのに必要な関所を通るための通行許可証を発行してもらわなければならない。

 もし実現した場合には少なくとも一泊の旅になるらしく、俺としては綺麗なお姉さんとの一晩の過ちに期待しそうになって然るべき状況になるわけだが……、


「ではよろしくね。そう急ぐ必要はないけれど、結果はどうあれここに集合ということで。もう一人声を掛けてる人がいるから、それまでには呼んでおくわ」


 という別れ際の言葉が全てを吹き飛ばした。

 いやいや、まだ分からないぞ?

 そのもう一人も女の子だったらプチハーレムパーリーじゃね? これあるんじゃね?

 うっひょおおおおい!!!

 とまあ、我ながら残念過ぎる性格な気がしないでもないが、そんな感じで心の中で叫び倒し、勝手にテンションが上がりまくりながら町中を歩いている間に宮殿が見えてきた。

 いい加減リアクションを取らなくてもいいぐらいには見慣れつつあるとはいえ、やっぱり目にする度に格差社会の壁を痛感させられるだけの見た目や雰囲気が高貴さに溢れていることを実感してしまう。

 馬鹿みたいにでかく、アホほどデカイ立派な宮殿の入り口である強固そうな門にはいつもと同じく二人の門番が立っていた。

「…………」

 毎度のこととはいえ、近付いていくだけで『何だあいつ?』みたいな顔で見るのをやめてくれないかな。

 ここに来るのもかれこれ三回目だよ?

 まあ……連中が常に同じ人であるとも限らないので何とも言えないんだけどさ。

 よし、これも良い機会だ。

 お姫様の未来の夫(予定)である俺の顔をそろそろ覚えさせてやるとしよう。

 そんなわけで俺はすぐにポケットから宮殿への立ち入り許可証である金属のカードを取り出し、全力のドヤ顔で二人に突き付けてやった。


「控えろぉぉぉい! この紋所が目に入らぬかぁぁぁ!」


 ふっ、決まったぜ。

 一回は口にしてみたいよね、この台詞。

「…………」

「…………」

 辺り一帯が静寂に包まれる。

 分かりやすく説明するならば『はあ?』みたいな顔がダブルで並んでいた。

 そりゃそうだ、伝わるわけがない。俺だって紋所の意味とか知らねーもん。

 ……何か恥ずかしくなってきたぞ。

「あの……すいません、これ持ってたら入ってもいいんスよね?」

 晒し者みたいな空気に耐えられそうにもない豆腐メンタルの俺だった。

 一転してヘコヘコしながら通行証を差し出す俺は営業職とか向いてるかもしれない。

「あ? ああ、見せてみろ」

 今度は素直に受け取ってくれた門番のお兄さんはマジマジと通行証を見つめるが、特に怪しむ様子もなくすぐに俺へと差し出してくる。

 といっても正真正銘の本物なので怪しまれる理由もないんだけど。

「本物のようだな、立ち入りを許可する。だが、一応身体検査はさせてもらう。これは決まりだ」

「ああ、どうぞ」

 やっぱそういうのもあるんだなぁ。

 前はこんなこと言われなかったはずだけど、それはレオナがいたからなのか。

 暗殺とかそういうのを警戒してのことなのだろうが、だから俺三回目だっつの。

 別に気を悪くはしないし、何なら映画の1シーンっぽくて感動さえ覚えるけども。

 そんなことを言っている間に両手両足と懐、ポケットを改められ、言うまでもなく危険物なんて持っていない俺はすぐに門を潜ることを許された。

 携帯のみ若干不審がられたが、武器じゃないと判断されたらしくこれといってお咎めもない。

 そうしてまた広く綺麗な庭園を歩く。

「とはいえ、どうすっかな」

 一人で放り込まれても何も分からないんだけど。

 どこに誰がいるのかとか、どこに何があるのかとか一切知らんぞ俺は。

 誰かに聞けば教えてくれるんだろうか。案内板ぐらい設置しといてほしい。

 あの王様のところに直接行けばいいのか?

 いやだから、そもそもどこにいるんだよ。

「ん~、取り敢えずレオナを探した方が早そうだな」

 それぐらいならその辺を歩いている鎧を着た人達やメイドさんでも教えてくれるだろう。あと許されるならお姫様にも会いたい。

「おや? 君は確かレオナの恋人? いや、友人の少年だったかな」

 さて誰に声を掛けるか、と辺りを見回していると、不意に横から声がした。

 振り返ると、そこにいたのは両肩に黒い十字架の入った白くてお洒落で格好良い軍服? みたいな制服を着た、スラリとした長身の大人っぽくもあり微笑と黒く長いストレートヘアがよく似合う落ち着いた雰囲気の綺麗なお姉さんがこちらに歩いてきている。

 肩やら胸の辺りに星やら十字架の記章? をいくつもぶら下げていて、腰にある細長いサーベルを含めて色々と記憶に引っ掛かりまくりだった。

 前に一度会った、何とか言う軍隊の隊長さんの一人でレオナの直属の上司だ。

「えーっと、確かレオナの上司の……アメリアさん? だっけ?」

 フルネームは忘れたけど、この風貌とお顔ははっきりと覚えている。

 その隊長さんは側まで来て立ち止まると、やはり何とも様になっている微笑を俺に向けた。

「おや、私の名を覚えてくれていたのだね」

「ええ、綺麗なお姉さんの名前は忘れたくても忘れられない能力が備わってるもんで」

 あれ、さっきも言ったなこの台詞。

「ありがたくお世辞を受け取っておくとしよう。それで、今日は誰のお遣いなのかな?」

「え、ああ、レオナを探しているんですけど……もしくはあの髭のおっさんでも可」

「髭のおっさん?」

「あ……」

 しまったでござる!

 この国では王様の悪口とか言ったら斬首される可能性あるんだった!!!

「いやいや、何でもないっす! こっちの話っす!」

「そうかい? ならよいのだけど」

「えーっと……それで、レオナってどこにいるか知ってます?」

「彼女は今輸入船の検査のために港に行っているから日が暮れるまでは帰らないと思うけれど」

「ええぇ……」

 あいつも忙しくしてんだなー。

「彼女に何か急な用事でも?」

「いや、あいつに直接ってわけでもなかったんですけど、王様に取り次いでもらおうと思って」

「陛下に? 差し障りがなければ理由を聞かせてもらってもいいかい?」

「実はですね……」

 と、俺はあれこれとここに来た経緯を素直に説明することに。

 勿論フィーナさんのことは話していないし、偽装云々も一切口にはしない。

 ただ手紙を届ける仕事を受けて、そのために何とか監獄に行かなくてはならず、関所を通るために通行許可証が必要だというぐらいの説明だ。

「ふむ……仕事で手紙を届けに、か。ちなみに今その手紙は持っているのかな?」

「ああ、これなんですけど」

 顎に手を当て、考える素振りを見せるアメリアさんにポケットから取り出した手紙を渡す。

 俺なんかの話をわざわざ聞いてくれるとは、このお姉さんいい人だな~。レオナもめっちゃ尊敬してる風だったもんなー。

「中を改めても?」

「大丈夫っすよ」

 フィーナさんが用意した物だ、見られても問題はないはず。何だかんだでやり手っぽいしな、あの人。

 というかそれは別として他人が他人に出す手紙の封を勝手に空けてもいいもんなのか?

 いや……囚人への手紙なら当然の処置か。

 アメリアさんは二枚に分けられた羊皮紙に目を通し、特に口を挟むでもなく元通りに折り畳み封筒へと収納した。

「特に問題はなさそうだね。しかし、その程度の用件で一般人である君を陛下の前に通すのも恐れ多い。私が許可証を出そう」

「え、まじすか。それは助かります」

「少し待っていたまえ」

 そう言ってアメリアさんは庭園を横切り、回廊の途中にある扉の向こうへと消えていく。

 どうしたらいいんだろう、と手持ち無沙汰で待つこと数分。

 再び扉の向こうから現れたアメリアさんは手に持った一枚の羊皮紙を差し出した。

「私の名の入った印が押してある。陛下や王女様が一目置く君なら心配はいらないだろうけどくれぐれも悪用しないようにね」

「はい、大丈夫っす。ありがとうございます」

 罪悪感ハンパねー!

 つーかこれやっぱバレたらやべえことになんじゃねえの!?

「ていうか、一目って?」

「例の月光花の話を聞いてね。言動の軽薄さはあるが中々どうして見所のある少年なのかもしれんな、と仰っていたよ」

「ほお……」

 あのおっさんが。

「王女様も、よく君の名を口にすると聞いている。滅多に宮殿の外に出ることのないあの方にとっては同年代の友人のようなものがいないからね。物怖じしないというか、私やレオナもそうだし、何よりも陛下を前にしても堂々としているし、上手く言い表せないけれど……どこか不思議な存在という感じがするよ君は。だからこそ君が王女様の良き友になってくれればと私も思うよ」

「任せてください、何たって俺はお姫様の未来の夫(願望)ですから」

「ふふふ、それはまた大きく出たものだ。影ながら応援しているよ、勿論レオナを悲しませてもらっては困るけれどね」

「ふっ、俺がそんなことをするとでも?」

 実際問題レオナと姫様のどちらを選べと言われたら俺はどうするだろうな。

 お姫様も相当な美少女だが、見た目で言えばレオナに軍配が上がる。

 というか俺史上レオナより可愛い女なんて見たことない。美形の究極系みたいな奴だからな。

 だが……お淑やかさとかおっとりとした性格、オパーイは姫様の方が上だろう。

 うーむ……難しい。俺って罪な男!

「…………」

 言ってて虚しくなってきた。

「どうかしたかい?」

「いえ、ああいう高嶺の花に釣り合う男ってのはどんな奴なんだろうなーと思って」

「地位だとか強さ、外見や心、男性の魅力として挙げられる要素は色々とあるんじゃないかな」

「ちなみにアメリアさん的に一番重要な要素は?」

「心、かな。多くの女性は例外じゃないと私は思っているけど、どこまで参考になるかは何とも言えないね。だけどまあ中身を磨くことは決して悪いことではないよ、お姉さんからのアドバイスだ」

「なるほど……大いに参考にさせてもらいまっす」

 中身かー、俺スカスカの空っぽだからなぁ。

「っと、あんまり時間が無いんだった。何か急に押し掛けたのに色々とありがとうございました」

「なに、気にすることはない」

「あ、そうだ。申し訳ないついでに一つお願いしたいことがあるんですけど」

「何かな」

「レオナに合ったら、仕事で明日まで帰れないと伝えてもらえないかなーと。飯は自分達でどうにかしてくれって」

「分かった、伝えよう」

「あざっす。では俺はこれで」

 綺麗なお姉さんとの会話を切り上げるのは滅茶苦茶名残惜しいが、一応これも仕事だし別の綺麗なお姉さんが待っているので仕方在るまい。

 返事の代わりに微笑を湛えるアメリアさんに改めて一礼して、フィーナさん宅に戻るべく俺はそのまま宮殿を去った。


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