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【第四十五話】 思わぬ展開に?

 


 十字路の向こうに消えていった白装束の魔女お姉さんの後を慌てて追い掛ける。

 角を曲がった先に居たその姿はすぐに建物の中へと消えていった。

 それは一軒の店で、名前をホットリバーという俺も何度か入ったことのあるバーみたいなもんだ。

「…………」

 しかしまあ、昼間っから酒をご所望とは……聞いてた通りの駄目人間なんだな。この国で一番偉い魔法使いって話なのに。

 いや、今の俺にとっちゃ暇を持て余していてくれた方がありがたい。

 とはいえ泥酔でもされちゃあ目的も果たせなさそうなので急ごう。

 そんなわけで、俺もすぐに後を追って店の扉を開き中へと足を踏み入れることに。

 そして早くも一番奥にあるカウンター席に腰掛け店主に注文を始めちゃってるお姉さんの元へと駆け寄った。

「あの、ちょっといいか?」

「ん?」

 若干躊躇いつつも声を掛けると、向こうは俺のことを覚えていないのか不思議そうな顔をした。

 しっかし、改めて正面から向き合ってみると懐かしさすら覚えるこの胸元の開いたドレスみたいなローブは眼福だなぁ。

 風蓮荘も可愛い子だらけだし色々と目の保養も耐えない生活を送ってはいるけど、何というか大人の魅力みたいなもんがある。

 セクシーさというか、いっそのことエロさとでもいうのか。歳は二十五歳とか言ってたっけな、風蓮荘最年長のソフィーも大人っぽさはあるけど違った良さがあるよね。

 もうこの景色を肴に一杯やりたい気分。

「どちら様だったかしら?」

 おっと、グレイトOPPAIに気を取られている場合ではない。

 やるべきことをやらねば。 

「前に一回会ったことあるんすけど、覚えてないですかね? ほらリリと一緒に来て、転送魔法がどうたらって話をしにきた」

「ああ、あの時の」

 どうやら思い出してくれたらしい。

「それで、リリちゃんのお友達の坊やが何か」

「あんたに聞きたいことがあって。えーっと……フィーナさん? だっけ?」

「あら、名前を覚えてくれたのね」

「ああまあ、綺麗なお姉さんの名前は忘れたくても忘れられない能力が備わってるもんで」

「うふふ、若いうちからお世辞なんて覚えるもんじゃないわよ。ちょうど暇してた所だし、話があるなら聞いてもいいかしらね。まずはお座りなさいな。マスター、この子にも同じ物を」

 そう言って、フィーナさんは横の椅子を引く。

 ひとまず言われるまま座ってると、すぐにグラスに入った葡萄酒らしき飲み物が俺の前に置かれた。

「え……何か奢られる流れになってません?」

「ご不満かしら? 私からのお酒は飲めない?」

「いやぁ、後から十倍にして請求されそうで怖いっていうか」

「どんな守銭奴なのよ私は。お金は大好きだけど、酒の席で出し渋るほど無粋じゃないわ」

 酒の席なら懐が緩むという理屈はいまいち分からないが、頼み事に来た俺が好意を無碍にするのも失礼というものか。

 つっても酒なんてこの世界で初めて飲んだレベルだからおいしさとか質の善し悪しなんてさっぱりなんだけど。

「そういうことなら、いただきます」

「はいどうぞ。それで? 話っていうのは?」

 くいっとグラスを傾け葡萄酒を口に含むフィーナさんはどこか大人っぽさが増して何とも言い表せぬ艶やかさに一瞬目を奪われてしまう。

 見惚れている場合かと俺も同じようにグラスに口を付けゴクリときっついアルコール臭のする酒を一口飲み込むとさっそく切り出すことにした。

「うっぷ、えーっとだな……あんたはこの国で一番の魔法使いなんだよな?」

「それを自称したことはないけれど、そういうことになっているわね」

「そんなあんたに一つ頼みたいことがあってさ、これを充電する道具を作って欲しいんだよ」

 ポケットから取り出したスマホをカウンターの上に置く。

 今やバッテリーがなくなり電源が入らないままでいるこの世界にとっての異物であり俺にとってはあって当たり前の物。

 例に漏れずフィーナさんも初見だったようで、眼を細めてまじまじと真っ暗な液晶を見つめていた。

「この板のようなものは何かしら、初めて見るわね」

「あー、どう説明したらいいものか。スマホっていって、ちょっと便利で特殊なアイテムみたいなもんなんだけど」

 ってことにしとけば早いだろう。

 どうせ電話だのネットだのアプリだの言ったところで一生伝わらねえんだし。

 まあ、電話みたいな機能を持つ鏡ならこの世界にもあるんだけども。

「特殊なアイテムねえ。それで、どういう使い道があるの?」

「色々と便利、って程ここじゃ効果を発揮しないんだけど、次元鏡みたいに離れた場所にいる奴と話が出来たり音楽が聴けたり何だかんだ出来る物って感じだと思っていてくれれば分かりやすいかなぁ。どっちにしても今は動かないんだ、電力が確保出来なくて」

「でんりょく?」

 と、肴のサラミみたいな肉を指で摘みつつ首を傾げるフィーナさんは発音のちぐはぐさも相俟って何かもうムラムラする。

 いや言ってる場合ではなく、

「要するに電気だよ。フィーナさんなら電気とか、そういうのを出す魔法も使えたりする?」

「えーっと……ごめんなさい、何を言ってるのか分からないわ」

「ああ、そうか電気なんてもんはそもそもないから伝わらないのか……なんて言えばいいだろ、雷って言えば分かりやすいのかな」

「サンダー系の魔法なら勿論使えるけれど……」

「それがこの物体の動力みたいなもんなんだけど、今はその動力が確保出来ないがために機能しないんだ。で、そのサンダー? の超絶弱いバージョンをこの線から本体に送り込んで充填すれば動くようになるんだけどさ、その方法がなくて困ってるってのが俺の悩みなわけ。で、最強の魔法使いなら作れたりしないかなーと思って相談に来たんだ」 

「やってみて出来ないことはないでしょうけど」

 そう言って俺が示したストラップ代わりにぶら下げている充電器のコードを手に取り差し込み口を見つめているフィーナさんは未だ理解しきれていないという風ではあるが、それでも魔法の力を持った何かを作ることは可能だということは確かなようだ。

 それだけでもだいぶ前進という感じか。

「ああ、前もって言っておくけど威力が強すぎてぶっ壊れるとかは無しの方向で頼む。お約束過ぎるけどマジで洒落にならんから」

「そうしてくれと言うならそうするけど、正式な依頼として私に頼むつもりならそれなりに高く付くわよ?」

「ですよねー……」

 予想はしていたけど、他にアテがないから駄目元で来てみたとはいえ世の中そう甘くないよね。

 勿論俺に大金を用意する術もないのでそう言われると八方塞がりだぜくそう。

 なんて思えば思う程に自然と肩は落ち溜息が漏れる。

「仕事も見つからないってのに、はぁ……」

「仕事を探してるの?」

「まあ、定職じゃなくてクエストみたいなやつっすけど」

 管理人をしていることを他人に明かしてはいけないことになっている。

 レオナとの約束であり住人達の暮らしを壊さないために、だ。

「不躾な質問になるけれど、目的はお金ってことよね?」

「そうっすね。さっさと金貯めてあんたの転送魔法とやらで元の場所に帰りたいんだ。このケータイと許可証があれば多少は仕事探すのにも交渉材料になると思ってたんだけどなぁ」

「許可証って?」

「ん? ああ、今朝貰ったんだけど」

 反対側のポケットに入れていた受け取ったばかりの宮殿への立ち入り許可証を見せる。

 なぜかフィーナさんは固まっていた。

「ちょっとこれ……どうやって手に入れたの? こんなの一般人が入手出来る物じゃないわ」

「そうなの? 王様の個人的な頼みを聞いたらお礼にくれたけど」

「それはまた……凄いコネクションね」

 そう言われても俺にはあんま分からないし特に自覚もない。

 だってただレオナのパシリで宮殿に行ったらお姫様に会ってオッサンに無理難題を押し付けられただけだし。

 しかしフィーナさんはやけに真剣な顔で拳を顎に当て数秒間黙考し、

「あなた、悠希君だっけ?」

「はあ、悠希ですけど」

 今?

 今やっと名前の確認すんの?

「私の仕事を手伝わない? それなりの報酬は約束するわ、少なくとも君が私に頼みたいことの対価になるぐらいにはね」

「え……マジ? ちなみにどんぐらい?」

「一千万」

「一千万!?」

「といっても、それは私が受けるか迷っていた仕事の報酬の総額なのだけれど。私と君と、もう一人声を掛けるつもりの人がいるから合計三人ということになると思うわ。ギャラは私が半分、残りを君ともう一人で半分ずつ。悪くない条件だと思うのだけど、どうかしら?」

「まあ……それでも二百五十万だろ? 十分過ぎるほど大金だけど、どういう仕事なんだ?」

「ここで話すのもなんだし、場所を変えましょうか。深酒をする前で私としても助かったわ」

 返事を待たずにフィーナさんは立ち上がった。

 そしてカウンターに銀貨数枚を置いて立ち去っていく。

 何がどうなろうとしているのかが全然把握出来ていないが、残したら勿体ないという貧乏性を発揮しグラスに残った葡萄酒を飲み干し俺も慌てて後を追った。


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