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【第三十三話】 お父様、というか王様! 娘さんを僕に下さい!!



 ララさん、赤毛のアンリという二人のメイドさんに案内され二階の奥の方にある部屋へと通された。

 いやホテルかよ!

 ってぐらい長く広い廊下の両脇には馬鹿みてえに部屋が並んでいて、よくもまあ目当ての部屋に真っ直ぐに向かえるものだと感心すら覚える。

 両開きのスイートルームっぽさ全開の扉の先にあったのは晩餐室とかいう飯を食うための部屋だ。

 すげぇ長いテーブルに白いクロスが敷かれており、無駄に豪華な椅子がなぜか片側にだけ並んでいるという歴史の教科書とかで見る昔の絵画みたいな光景である。最後の晩餐的な。

 戸惑いの中ながらお席に着いてお待ち下さいと言われ、山ほど椅子がある中心付近にレオナと二人で並んで座る。

 レオナの向こうには一つだけ他の物より豪華な椅子が置いてあって、あれが王様の指定席ということが容易に想像出来た。

 ……待てよ? 

 ということはそこに王様が座るだろ? その横にレオナがいて隣に俺がいる。

 ってことは王様の向こう側の席に王女様が座るってことじゃねえのか?

 いやいやいや……だったら俺がそっちだろ普通。なんでお姫様に会いに来たのに間に一番遠い席順になってしまったのか。

「間もなく国王陛下と姫君が参ります」

 入れ替わり立ち替わりワゴンに乗った料理を運んできては次々とテーブルを埋め尽くしていくメイドさんを目で追ったりつまみ食いしようとしてレオナにシバかれたりしている時間が五分程過ぎた頃、最後に運ばれてきた名前も分からん野菜と魚が盛りつけられた皿が隙間を埋め尽くした所でララさんがそんなことを言った。

 料理やらメイドさんの主にスカートの辺りやらに目移りしているうちに緊張も薄れていたが、その言葉でまた少しドキドキしてしまう。

 柄にもなく姿勢を正し、背中をピンと伸ばしてその時を待つこと十数秒。

 脇にあった扉がガチャリと開くと、二人の男女が姿を現わした。

 前を歩くのはダンディズム溢れる顎髭を蓄えたおっさんだ。

 なるへそ、このダンディーがこの国の王様か。

 なんだっけ? リーゼルハート王国?

 どんだけの広さや規模を持ってるのかも未だ謎のままだが、何にせよ一番偉い人間というわけだ。 

 そしてその王様の後ろには先日会ったお姫様がついてきている。

 ウェディングドレスよろしく純白の煌びやかな衣服は本体を相俟って輝きが留まることを知らない。

 もうね、いっそ今から俺との結婚式をやっちまおうという気概がヒシヒシと伝わってくるレベル。絶対違うけど。

「本日はお招きいただき至極光栄の至りでマドモアゼル」

 おっさんを華麗にスルーし、いつかと同じく王女の前で跪きその手を取る。

 案の定可愛らしいきょとんとした顔で『マドモーゼル?』と首を傾げられるだけだった。

 ……やはり伝わらないか。いやいや、こういうのは勢いが大事だよね。

 ということで背中に隠していたバラの束を差し出してみた。

「プレゼントですプリンセス。綺麗な花はあなたにこそよく似合う」

「まあ、ありがとうございます」

 無事受け取ってくれたお姫様は上品に微笑んだ。

 その瞬間、後頭部に激痛走る。

 何事かと反射的に振り返ると目の前にはこめかみに血管を浮かべてピクついているレオナの顔があった。

「痛い……ていうか、何? なんでシバかれたの俺?」

「あんたねぇ……陛下に無礼を働いたら殺すって言ったの忘れたわけ?」

「ま、待て……拳を震わせるな、痛いから。忘れてない、ワスレテナイヨ、オボエテルヨ」

 慌てて立ち上がり、ゲンコツ回避の意味も込めて逃げるように王様の前に立つと自己紹介をしようと口を開き掛けたが、悲しきかな先に向こうがそれを口にしていた。

「はっはっは、そう畏まらなくともよい。私は現国王のグラント・アレクサンドリアだ。君が噂の悠希君かね」

「はい、桜井悠希です。末永く宜しくお願いします……お父さ」

 ゴツン!

 という音が脳裏に反響した。

「さっきからゴンゴンゴンゴンいい加減にしろ! 何すんだ!」

「…………」

 無言の圧力がハンパないんですけど。

 目で殺す、みたいな気概がありありと伝わってくるんですけど。

 何この子、怖い。可愛い顔が台無しだわ。

 なんて言おうものならいよいよ血祭りに上げられそうだ。

「突然呼び出してすまなかったね悠希君。娘が不思議な人と出会ったと話してくれたものでね、是非私も会ってみたいとロックシーラ君に頼んで来て貰った次第だ。滅多に王宮の外に出ることのないせいかシルヴィアも興味津々のご様子なのだよ。ロックシーラ君からは中々頼りになる人物だと聞いているしね」

「あ、そういう感じだったんスか」

 んだよー、王女様じゃなくておっさんの指名だったのかよー。期待して損したわ。

 まあいい。この一世一代のチャンスを逃す手はねえ。

「プリンセス、あの日あなたと出会ったのは運命の導きに違いない。神のお告げに従い是非とも我が妃に」

 もうなんかただの変質者だな、俺。

 だって我慢出来ないもん。

 可愛くて上品でおしとやか。その上お姫様で守ってあげたくなるような清楚な雰囲気に加えて胸もそこそこ大きい。

 百点! 

 この機会を逃せば一生お近づきになんてなれない可能性があるとくれば……男なら駄目元で行ってみるしかないじゃん?

 それに対し、そのシルヴィア王女はというと、

「まあ……ふつつか者ですが、よろしくお願いしますわ」

 手を頬に添え、やや顔を赤らめながら静かにそんなことを言った。

「受け入れちゃうの!?」

「こ、これシルヴィア」

 俺をぶん殴る態勢に入っていたレオナも、俺の発言にむせ返っていたダンディーこと王様も慌てて王女に詰め寄る。

 しかし、当の王女は全力でツッコまれる理由を理解していないらしい。

「だ、駄目なのですか? 女性にはいつか運命の男性が現れると小さい頃に本で読んだのですが……」

「いやいやいやいや、血迷っちゃ駄目ですって姫様。それは絶対コイツのことじゃないですから。完全にその場のノリと勢いと下心で言ってるだけなんですから」

「ロックシーラ君の言う通りじゃぞシルヴィア。出会ったばかりの私がこの悠希君とやらを相応しくないと断ずることは出来ぬが早まってはいかん。求婚されたからといって婚約が成立するのではないのだ、王族のお前ならば尚更にな」

「あらまあ、そうだったのですか。初めてのことだったので勘違いしていました」

 シルヴィア王女はにこりと『またおっちょこちょいなところを見せてしまいましたわ♪』みたいな顔で今度は両手を頬に添える。

 その横では王様が呆れた風に溜息を吐いていた。

 え? 俺? 

 レオナにチョークスリーパー決められてて声を出すことも出来ないけど?

「とまあ、このように少々世間ずれしておってな……あまりからかわないでやってくれると助かる」

 そこでようやく首からレオナの腕が離れた。

「いや、全然冗談とかじゃないんですけど。マジプロポーズだったんですけど」

「だとしても、だ。王家の長たる私がおいそれと許可するわけにもいかんだろう。娘が選んだ人物ならば問答無用で駄目だと言う気はないが、今の君達にはまだ早い。娘の婚約者として相応しい男になれば、その時は候補に入れよう。戦士としての強さや持っている地位、肩書きの問題だけではなく、という意味だがね。ちなみにだが、歳はいくつかね?」

「十七歳ッスけど……」

「ふむ、娘の一つ上か。では、夢はあるかね?」

「夢って言われてもなぁ……まだ将来のこととかはあんまり考えたことないていうか」

「君達ぐらいの歳の人間というのはそういうものだ。君が未熟だという話ではない、まだまだ若く様々なことを知り、学んでいく道中であるべき年齢だということを言いたいのだよ。焦る必要はない、まずはしっかりと君の傍に居る人間を大切にしなさい。そしてこの国を、この国の民を大事に思える人間になってくれた時には私も君を頼ろう。仕事を探しているならいつでも言ってくるといい、今は友人として娘の相手をしてやってくれると私も嬉しいと思う。どうかね?」

「そりゃまあ……友達になれるだけで万々歳だし、問答無用で追い払われないだけこっちとしても御の字過ぎるけどさ、仲を深めようにも俺みたいなのは簡単に入れないんだろ? この何とか王宮にはさ」

「娘の友人となれば通行許可証を与えてもいいが、まだ信用する程私は君を知らない。差し当たっては、どうだろう。一つ個人的な頼みをしようじゃないか、それを成し遂げてくれたならば与えるというのは」

 なんだか難しい話になってきたような気がして、目をパチクリとさせている間に続いた言葉は、王様からの本当に個人的なとある依頼だった。



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