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【第三十話】 今夜のご飯は猪鍋です



 結局休息の暇もなく風蓮荘を離れることになってしまった哀れな俺はリリと二人で王都に向かっていた。

 ペットやニートの世話をして、家事もして、仕事にまで付いて来てとかどんだけ過保護な親ですかと言いたい。

「そういや聞いてなかったけど、また馬車で行くのか?」

 時間が無いと急かすもんだからそのまま来ちゃったけど、その辺りの情報は何一つ知らないことに今頃気が付いた。

 イノシシ退治ってだけで怖じ気づいてるってのに、また長距離の移動は嫌だぞ。心臓に悪くないだけ飛んでいくよりは幾分マシだけどさ。

「はい。隣の町に依頼主の方が来てくれていまして、一緒に乗せて行ってくれるそうなんです」

「なるほどねぇ」

 それで急いでたってわけか。

 とはいえ、こんなガキ二人が現れて先方は不安に思わないんだろうか。

 どう考えても屈強な筋肉ムキムキのおっさんとかが来てくれた方が喜ぶと思うんだけどなぁ。

 そんなことを言ってしまったらリリは一生仕事なんて見つからないんだろうけど、この年で魔法使いだったり魔物使いだったり副隊長だったりするし、あの委員長が渋々でも振ってくれるってことはそういうもんなんだろうな。

「そういや一個いいか?」

 森から王都へとする道すがら、のほほんと雑談するのもどうかと疑問の一つでも解消しておくことを思い付く。

 幽霊のおかげで多少は図太くなったのか、リリからは特に緊張や不安は感じられない。

「なんですか?」

「前に親からの手紙をレオナが持って帰ってくるって言ってたろ?」

「言いましたね」

「んなことしなくてもあの不思議鏡で直接会話すりゃいいんじゃねえの?」

 あの日、部屋の鏡でレオナと会話した時から引っ掛かってはいたのだ。

 魔法的な道具のことをほとんど知らない俺だけど、いくら馬鹿でもその道理には流石に行き着く。

「それは無理ですよ。個人で扱うには申請が必要なものですし、そもそも高価で貴重な物なので簡単に一般の家庭に設置してあるような物でもないですから」

「ふーん、でもあの家には全部の部屋にあるって聞いたぞ? 自称貧乏人だらけのお前等がどっから捻出したんだよ」

「悠希さんと同じで元から部屋にあった物を使っているだけなので自分で買った人はいないはずですよ? 前に住んでいた人達が置いたのか出来た時から各部屋に設置してあったのかは分かりませんけど……」

「そうなのか、どこまでも太っ腹なおばあさんだなあの人も。それで、お前の実家にはアレが無いから無理ってことか」

「いえ、うちにもありますよ? ただ王室が使うような特別性能が高い物でもない限り会話出来る距離に限度があるんです。うちは国境の傍にあるものですから、もう全然有効範囲外でして」

「魔法は魔法で色んな事情があるんだな。魔法が使えない魔法使いに言ってもしゃーねえけどさ」

「それは言わない約束です~」

 しょんぼりされてもなぁ……今までは敢えて強く踏み込まなかったけど、やっぱりそれはもう魔法使いじゃないと思うんだよ俺は。

 包丁の使い方も知らずにシェフを名乗っているようなもんだ。そんな馬鹿げた存在はない。

 これだけ毎日修行だの鍛錬だの言って森の中で座禅組んだり地面に変な魔法陣描いたり腕立て(これ魔法関係あんのか?)したりしてんだから少しぐらいレベルアップして欲しいものだ。

 日々努力をして、向上心もあって、こうして若いながらも頑張っているんだ。いつか本当に立派な魔法使いいなれたらいいな。

 そんな意味を込めてもう一度頭を撫で、きょとんと見上げるリリをからかいながら二人で王都に向かった。


          ☆


 それからしばらく歩いて件の町に辿り着いた。

 何度か名前だけは聞いていたレサスという町だ。

 位置関係としては王都とカルネッタの間ぐらいにあるのだが、王都から見ても風蓮荘から見ても経由する森の距離が長く普段は住人達もそう利用することのない町なのだとか。

 ザ村みたいなカルネッタとは違い、こちらはまあぎりぎり町と言ってもいいぐらいには人や建物の数は多い。

 とはいえ王都と比べるとやっぱり田舎町って感じなんだけど、今回ばかりは物珍しさに感動したり観光気分でキョロキョロしたりする暇はないので異世界レポートはまたの機会にしよう。

 待ち合わせ場所には既に依頼主である中年夫婦が待っていて、慌てて駆け寄り謝罪を述べて馬車に乗せて貰うという流れに。

 聞けばこの二人が村長の息子とその奥さんであるらしい。

 遅れてきた俺達に嫌な顔をすることなく受け入れてくれた人の良さそうなおっさんとおばさんは自己紹介も早々にそう長くはない移動距離の中であれこれと詳しい話を教えてくれた。

 狩猟や農作物を糧として生きる中規模の村で暮しているらしく、ここ最近すぐ傍にある林に山の主と呼ばれている強暴な猪が降りてきて住み着いている。

 そして家畜や作物を荒されて困っている。

 簡単に言うとそんな話だ。

 魔獣というわけでもないただの猪だということもあって近隣の町にいる駐在の兵士に相談しても報告しておくと言われるだけで何もしてくれないらしい。

 住民からすれば何だそりゃって文句の一つも言いたくなるような話だが、日本の警察組織と違って国の隅々まで目が届いていないらしいので仕方ないといえば仕方ないのか。

 異世界かどうかに限らず、それは中世から近代までの間は大体どこの国もそんなもんだろうからおかしな話という程でもない。文化水準や文明の差みたいなもんだ。

 なんだかこの体験を通して歴史に詳しくなりそうだなおい。なんてことを考えている内に目的地の町に到着。

 カルネッタやレサスよりも木や藁で出来た家の比率が若干少なく、石造りの家も見えたり雑貨だったり衣料品を売ってる店もあったりと、まあ町といえば町に分類出来そうな土地といった印象だ。

 それでいて畑があったり牛やら羊がいたりと長閑さも兼ね備えている良い風景なのだが勿論俺達に堪能している暇はなく、案内を終えた夫妻と別れると真っ直ぐに件の林に向かう。

「悠希さん、これを」

 前方に木々に埋もれた景色が見え始めた頃、ふとリリが俺に手を差し出した。

 何かと思えばケースがそのまま腰に巻き付けられるようになっている短剣がその手に持たれている。

 どこか見覚えがある気がするのは思い違いだろうか。

「これ、俺に?」

「はい、万が一の時に装備無しでは危険も増すと思いますので念のために」

「なるほど、そう言われりゃそうだな。ていうか、お前も一丁前こんなん持ってたのか」

「いえ、これは今朝ソフィアさんに借りてきただけなのでわたしの持ち物というわけではないんですけど」

「ああ、それでか。見たことある気がしたのは」

 素直に受け取り、腰に巻いてみる。

 短剣なんて使ったこともなければ使い方もよく分からないが、なんかちょっとテンションが上がった。

 上がってる場合じゃないんだけどね。これを使うってことは明確に命が危機に晒されるってことだからね。

 これで報酬十万だぜ?

 今までと比べたら安すぎるよ……日当十万と考えればとんでもない額に思えるけど、俺も感覚が麻痺してきてんのかな。

「では……行きましょう」

「だな。もっかい言っとくけど、安全第一だからな」

「はい。わたしの任務ですし最悪の場合には今度こそわたしが悠希さんを守ります」

「いや俺のことはいいから自分が無事でいることを優先しろって。こう見えても逃げるのは得意だし、幽霊やら鬼やらで慣れてきたから多分猪ぐらいだったらビビることもないだろうしさ」

「でも、前回は悠希さんがわたしを助けてくれました」

「そうかもしれんけどさ……」

 拘るなぁ、そこ。

 どうせ俺はソフィーやジュラみたいに戦ったりは出来ないんだし、不意打ちカマすか逃げるぐらいしかやることないんだから自分のことを優先してくれた方がいいんだけど。

「ま、今からあーだこーだ考えても仕方ねえって。獲物を見つけた時に臨機応変にって感じでいこうぜ」

 言うと、リリも納得してくれたのか素直に頷き、それを合図に二人並んで林に足を踏み入れる。

 森と林の違いなんて全然知らないし興味もないけど、思っていたより広く深いことが目に見えて分かる大きな林だ。

 日の光も入っているし、そこまで見通しは悪くない自然の中を歩くこと数分。

 それは風蓮荘といい今までの依頼といい自然に縁がある異世界ライフだなーとか暢気に考えていた時だった。

 進む先、十数メートル先にいる見るからに周りの風景から浮いている異物が目に入る。

 全身が茶色い毛に覆われ、口元には長い牙がある巨大な哺乳類の姿だ。

 どう考えても俺達の標的であるはずのその生物は、誰が見てもただの猪とは言い難い化け物だと言えた。

 そう思わされる要素は単純明快。

 偏にそのサイズにある。

 優に俺達の倍以上ある超巨大猪が蹲るように寝息を立てていて、一見隙だらけと言えなくもないその姿を目の当たりにしただけで本能が前進を拒否しピタリと足が止まってしまう。

「…………」

「…………」

 起こしたらヤバイ。

 その共通認識が二人から言葉を奪い、どう考えても無理ゲーだー! というフレーズが脳内でひたすら繰り返されていた。

 デカいわ!

 あれのどこが猪だよ!

 完全にサイズがヒグマとかのレベルだぞオイ!!!

 毎度毎度予想の斜め上を行くのほんとやめろよ……どうすんだこれ。

「……あ」

 全力で叫びたい衝動を抑え、心の中でツッコミを入れているとパキンと変な音がした。

 足下に目を落とすとビビって後退ったらしいリリが木の枝を踏んでいて、慌てて視線を戻す頃には巨大猪の目が開いているというベタなおまけまで付いている。

 体勢は変わっていないものの猪は完全に俺達を見ているどころかガン見しているあたりこちらの存在に気付いたと言っていいだろう。

 蛇に睨まれた蛙とはこういう状態を指すのか、何やってんだ馬鹿と声に出して言えない状況をもどかしく思っている間にその原因を作ったリリは『ひっ』とか言いながら俺の背に隠れている。

「…………」

 お前が隠れるんかい……最初の威勢はどこいったんだ。

 猪は猪であからさまに不機嫌さを醸し出している上にもう『おめえ等それ以上近付いたらどうなるか分かってんべ? おお?』みたいな顔してやがるしよ。

 こんなんナイフ如きでどうにかなる気がしねぇっつの……やっぱこれで十万って割に合わねぇぞ。命の値段が十万って言ってるようなもんだぞ。

「かといって簡単に逃げ帰るわけにもいかずってか……おいリリ、どうするにせよ真っ正面からやりあってもぜってぇ勝てないだろ。幸いここには木が沢山あるあし、逃げながら隙を窺う作戦でいくぞ。罠とか仕掛けられりゃ一番いいんだろうけど、お前そういうの出来るか?」

「罠は流石に……ただ、眠りの魔法を使えば魔物や人間じゃない以上高確率で効くと思うんです」

「それなら出来んの?」

「術式は覚えていますし、比較的難易度の低い部類の魔法なので練習はずっとしてました。といっても生きてる生物に試したことはないんですけど……」

「それはそれで不安だけど、こうなりゃそれに賭けるっきゃないか。力尽くよりはよっぽどマシだ。問題はどうやってその魔法とやらを食らわすか、だな」

「ですね。さすがにあの状況じゃ呪文を唱える前にやられちゃいそうです」

 だろうなぁ……体当たりされただけで命に関わりそうだもんあれ。

 普通に考えれば足の速さだって向こうが断然上だろうし、やはり木々の密集を上手く利用しながら逃げるしかないってところか。

 それでいてリリが魔法を使う隙を作るなら……。

「よし、俺が囮になって逃げ回る。お前は木に隠れながら呪文をかけるタイミングを窺え」

 普通に怖いけど。

 普通に嫌だけど武器持った鬼に特攻したことを考えると逃げるのが作戦である分いくらかマシだ。

 サイズは化け物だけど生物学的にはリアルに受け入れられる分だけ精神的な恐怖も若干ながら少ない方だしな。

「でも……それって悠希さんは大丈夫なんですか?」

 そんな理由も考慮しての俺の提案にリリはどこか不安げな顔で俺を見上げる。

 まあ心配になるのも無理はない。俺だって心配だよ、自分が。

 だからといって毎度毎度逃げて帰って駄目でしたで終わりってのもむかつくし、何よりリリの努力が少し報われてもいいと思うんだ。

 年下の女の子が勇気と根性を見せてるってのに、やる前から諦めるなんて格好悪いことはしたくねえ。なんつーか、言うなれば男の意地みたいなもんだ。

「俺の心配は後でいい。とにかく逃げながらこの辺ぐるぐる回るから、お前は隠れることと魔法のことだけ考えてろ」

「相変わらず、自分が危ない橋を渡るのは平気なんですね悠希さんは」

 一つ息を吐き、なぜかリリは呆れたように笑った。

「アホ言え、普通にビビってるっつーの。やばいと思ったら木に登って逃げるからな」

 過去二度の経験のおかげか、最悪死ななければいいかみたいな開き直りをしているだけだ。

 こういうもんをやり遂げないとこの世界では飯も食えねえってんなら仕方ない。そうやって自分を誤魔化しているだけだ。

 怖いもんは怖い。

 それは何一つ変わらない。

 ただそれを逃げる言い訳にするかどうかの違いでしかない。

 女残して逃げるぐらいなら死んだ方が百倍いい。

「よし、行くぞ。お前は取り敢えず影に隠れてろ」

 言って覚悟を決め一歩踏み出してみるが、不意に後ろから腕を掴まれ足が止まる。

「どした?」

「絶対に……危なくなったら逃げてくださいね? 悠希さんも無事でいてくれないと許さないですから」

「話し聞けっつーの、危なくなる前から逃げるって作戦だって言ってんだろ。ま、やられちまった時はお前のキスで目覚める予定だからよろしく頼むわ」

「そんな魔法はありませんから。こんな時にまで冗談言わないでください」

 思いの外きっぱりと断られて若干凹みそうになるが、逆に言えば冗談でも言わないと精神力が保たないっての。

「ふぅ……」

 気合いも根性も悠希も度胸も愛も全然足りてないけど、ひとまず覚悟だけは出来た。

 逃げるだけの簡単なお仕事だ。

 そう言い聞かせ、改めて一歩踏み出すとすぐに巨大獣の瞼がピクリと反応する。

 念のために預かった短剣をホルダーから抜き、万が一の備えを取っておくが正直言って何の安心感もない。

 こんなナイフみたいなもんでアレと戦うとか自殺行為だよね。

 自分を囮にするにはどうしたものか。

 駄目だ……全然分からん。

「こうなりゃ考えても無駄だ、おらぁぁぁぁぁぁぁこの豚野郎がぁぁぁぁかかってこいやぁぁぁぁぁ!!!」

 どうにか絞り出した苦肉の策。それは取り敢えず挑発してみることだった。

 罵声と怒声の混じった叫び声を上げながら真っ直ぐに突撃する。

 が、距離が半分にもならないうちに起き上がり臨戦態勢を取る猪にあっさりと心は折れ、次の瞬間には九十度進路を変えて全力疾走していた。

 後ろからはドスドスと激しい足音が聞こえる。

 やべぇ、やべぇ、やべぇ、追い付かれたら死ぬ!!

 振り返る勇気なんか一ミリもねえ! 名前は悠希なのに!! 関係あるかぁ!!

 もう無理ッス!

 ていうか無理ッス!

 完全に無理ッス!!

 凄まじい勢いで速度を増していく鼓動が早くも体力の限界を告げる。

 肉体も精神も、ただ走るだけではなく追い付かれないことが大前提の逃走劇を続ける状態ではない。

 こうなった以上俺に出来ることはただ一つ。

「うおおぉぉぉぉ!」

 死にもの狂いで目の前にあった気に飛び付き、必死に手足を動かしながらよじ登っていく。

 しがみついた枝に足を掛け、地上二、三メートルの高さまで来るなり一秒と立たずにドシンと木が大きく揺れた。

 マジで紙一重じゃねえか、もう一つ向こうの木にしてたらヤバかったぞこれ。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 もう駄目だ、走れないし逃げれもしない。

 あとはリリが上手くやることを祈りながら草の影に隠れてやり過ごすしかねえ。

 体当たりでもされているのか続け様に揺れる木から落ちないように残る全ての力を費やしながら目を閉じ、その時が訪れるのを待ち続ける。

 無事に帰れるならもう捕獲も退治も出来なくていいから諦めて帰ってくれ。

 マジでお願いするから。一万円あげるから。

「頼む……頼む……頼む……」

 もはや目を開くことも出来ず、揺れに耐え続けること五度目か六度目か。

 それは、このままでは木ごとへし折られてしまうんじゃないのかと新たな不安要素が頭を過ぎると同時だった。

 猪が木にぶつかった時のものとは別の、大きな音が辺り一帯に響き渡る。

 爆音の様な凄まじい音がしたかと思うと、直後に激しい熱風が枝を揺らし葉を舞い散らせていたが自分が隠れるために死角へ移動している俺には何が起きているのかが全く把握出来ない。

「悠希さーん、もう大丈夫です~」

 不安に埋め尽くされていく胸の中、それでも動けずに固まっていると下から俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

 問うまでもなく、リリの声だ。

 リリがそこにいる理由として考えられるのは作戦が成功したか、猪がどこかに行ったかのどちらしかない。

 ひとまず生き存えたことに安堵し、脱力しながら恐る恐る木を降りていくと、そこには理解不能な光景が待ち受けていた。

 どういうわけか、あの巨大猪がほとんど黒焦げ状態で転がっているのだ。

「おい……なんでこいつ黒焦げになってんだよ」

 わけが分からず思ったまま疑問をぶつけてみるが、リリも不思議そうに首を傾げる。

「どうしてでしょう。わたしは眠りの魔法を使ったつもりだったんですけど……呪文も詠唱も間違ってないはずなのに」

「なんで眠らせるはずが爆殺してんだよ、お前こえぇよ」

 そりゃレオナも頑なに魔法使うの禁止するわ。

 こんなパルプンテみたいなもん身近で使われたら危険過ぎるっつーの。

「まだまだ修行が足りませんです……」

「……そういう問題なのかこれは。でもまあ、こんな化け物をやっつけられるだけの魔法が使えるんだから言い換えれば魔法の才能が無いわけでもないってことなんじゃね?」

「そりゃわたしだって魔法使いの両親の下に生まれてるわけですし、日々努力してますからね。使い方をマスターすればきっとこういう魔法も使いこなせるようになりますよ」

 えっへんと、誇らしげな表情を浮かべるリリは腰に手を当て、顔と腹の間にある何かを張った。

「顔と腹の間にある何かってなんですか!! そこは素直に胸を張ったって言ってくれてもよくないですか!?」

「何を張ったって?」

「いや、だから見たまんま胸を張……」

「何を張ったって?」

「もういいですっ。どうせ無いのは分かってますから」

「そんなに拗ねんなよ~。ただの冗談だって、俺はリリの胸も好きだぞ」

「体の一部分にだけ好意を寄せられても全く嬉しくないですから……」

「細かいことは言いっこなしにしておいてくれ。もう俺は疲れ果てて真面目なこと考える余裕なんてないんだよ」

 こちとら命懸けの鬼ごっこと木登りを立て続けにこなしてんだ。

 もうヘトヘトだ。

「取り敢えず、俺達じゃ運べないから村の人を呼びにいこうぜ」

「そうですね。流石に二人掛かりでもビクともしなさそうです」

 リリの同意を得て、俺達は一旦村へと戻ることに。

 何度も確かめたが間違いなく猪は絶命している。

 それでも念には念を入れてロープで手足をグルグル巻きにしてからの帰還だ。

 依頼主の家に行き事情を説明すると町の男達を総動員してくれて、どうにか運び出した猪の姿が任務完了の証明となり報酬も受け取ることが出来た。

 ついでに肉も分けてくれたので帰った後にみんなで猪鍋風にしていただいたりもした。

 ギャラも手に入ったし、食費も浮いたし、美味しい晩飯にありつけるしでありがたかったのは確かだが、目の前で捌くんじゃねえよ……普通にグロいわ。


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