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【第二十四話】 ソフィーのお・ね・が・い♪

6・17 台詞部分以外の「」を『』に統一



 王女様やレオナの上司の隊長さんの顔を思い出すだけでニヤけそうになったり、帰ったらレオナの説教が待ってそうだなぁと思うとそれはそれでアリな気がしたりといった謎の精神状態で宮殿を出た俺は淫らな妄想をしている内に気付けば森の中にいた。

 王都を歩いた記憶なんて全然ねえぜ……どんだけエロ妄想に集中してたんだ俺。

 これまた買い物して帰ればよかったと後悔するパターンじゃね?

「……ま、後でいいか」

 時間はまだ昼を迎えたばかりといったところ。

 そう焦ることもない。というかもう風蓮荘が見え始めているので今更戻るの面倒臭い。

 家事してパシリしてプロポーズして蹴り飛ばされてと体力使いまくりなので少し昼寝でもしようかな。

 そんなことを考えながら、それでいてチラリと目に入った洗濯物を取り入れる作業を即決で後回しにしながら入り口の扉を開き帰宅を遂げる。

 なぜか玄関に入った瞬間、目の前にはソフィーがいた。それどころかジュラとリンリンと鳥も一緒にいた。

「あ、悠ちゃん~。帰って来てくれたんですね~、よかった~」 

 目が合うとソフィーはいつにも増してにこやかな表情でぴょんと両足を揃えて飛び、俺の前に寄った。

 確か仕事を探しに行ってくると言って俺より先に出掛けていたんだっけか。

 服装もいつか見た白と黒の入り交じった胸元の強調されたビスチェと短いスカートに腰布を巻いているという女戦士バージョンな格好をしているし、白いアームカバーや膝下まであるブーツも初めて会った時と同じであるところを見てもまたどこかに出掛けようとしていたのだろうか。

「よかったって、何か用でもあったの?」

「はい~、それでずっと探していたんですけどリリちゃんもどこに行ったのか知らないということだったので困ってたんです~。カルネッタに行ってたんですか~?」

「いや、レオナのパシリで宮殿に行ってたんだけど……」

 そう言ったところでソフィーはなぜか俺の両手を同じく両手で握る。

 ちなみにこれまたなぜか茶色いフクロウ、すなわちポンはソフィーの肩から俺の頭の上に居場所を移していた。

「聞いてください聞いてください~」

 相変わらずにこやかなまま、ソフィーは握った両手を上下に振る。やけに嬉しそうな声色から何かしら良いことがあったんだろうなということだけは分かった。

 それを報告するためだけに俺を捜していたとも考えにくいが……。

「なんとなんとですね、お仕事がもらえたんですよ~」

「おー、そういうことか。良かったじゃん、頑張れよ」

「はい~、もう生活費も底を突きそうだったので良かったです~」

「ちなみに、どんな仕事なんだ?」

「オーク退治です♪」

「……はい? 何退治?」

「オーク鬼ですよ~。なんでも森に住み着いて動物を食べちゃうので困っているのだとかで、王都や国境からは随分と離れた村みたいなので中々聖騎士団(パトリオティス)の方達が来てくれないみたいなんです~。それで斡旋所を通してクエストとして依頼があったところに丁度私が行ったものでタイミングよく一番に知ることが出来たというわけなんです~」

「なんだかよく分からんけど物騒な仕事なんだろうなということだけは理解したわ……頼むから怪我だけはすんなよ」

 なんだよオーク鬼って。鬼って……鬼って!

 巨人、幽霊ときて今度は鬼かい。何でもありなのは知ってたけど、怖いよこの世界。

「えへへ~、やっぱり優しいですね悠ちゃんは。それで、一つお願いがあるんですけど~」

 そんな俺の憂いと不安もなんのその。

 どういうわけかソフィーは俺の手を握ったまま一層楽しそうに笑ってそんなことを言う。

 お願い。

 そのワードと今の話を考えると正直、嫌な予感しかしない。

 仕事の間ポンの世話してやってくれとかならいいんだけど……。

「……聞くだけ聞いてやる」

「唐突なお願いなのは重々承知しているんですけど、ついてきてくれませんか?」

「俺が? 鬼退治に? なんで!?」

「それがですね~、ルセリアちゃんが体調不良で部屋で休んでいるんですよ」

 一転、ソフィーはしゅんとする。

 というか、もっと聞き捨てならんことを言ったよね今。

「いや、それならむしろ残ってルセリアちゃんの看病するわ。体拭いてあげたり添い寝してあげたりしてるから安心して行って来い」

「いえいえ~、ルセリアちゃんは自己治癒力が高いので寝てれば大丈夫ということです~。病気というわけではなく女の子特有のものですから~」

「それにしたって……何で俺が」

「引き受ける際に三人と二匹で申請してしまったもので……数が減ったら不味いんです」

「何がどう不味いんだよ」

「信用に関わるというのがまずありましてですね、中には聞いた話と違うという理由で追い返されることもありますので……あとは人数分の交通費をくれるそうなのでそれもアテにしているといいますか、私としても追い返されると立ち行かないといいますか、そういう感じなんです」

「理屈は分からんでもないけどだな……俺が行っても何も出来ないし、そもそも昨日それで怖い思いしたばっかだし」

「そこをなんとか~、この仕事をどうにかしないと家賃だって払えないんですよ~」

 悲愴感溢れる声で言うと、ソフィーはがっくりと肩を落とした。同時に、そこでようやく両手が解放される。

 なるほど、最初に生活費が尽きかけているみたいなことを言っていたっけか。

 家賃も払えないレベルとくれば俺が管理人として掛けてやる言葉は一つだけだ。

「ソフィー、家賃が払えないぐらいのことなら心配すんな」

 名前を呼びそっと肩に手を置くと、ソフィーも顔を上げる。

 そして潤んだ瞳と視線をぶつけ合い、爽やかな笑顔で言ってやった。

「お前なら住むところなんてなくても元気でやれるさ。短い付き合いだったけど、俺も影ながら応援してるから」

「そこは待ってくれるとかじゃないんですか~、悠ちゃんの人でなし~」

 案の定ソフィーは泣き崩れるように膝を突き、俺の腰にしがみつく。

 同時に頭の上のポンが『ホー』とか鳴きながら、例の俺を一喝する意味を込めた嘴による強めの一撃を見舞っていた。

「んでだよ、今回ばかりは俺悪くねえだろ。そりゃ今のは冗談だけど、どっちにしたって危ないのは嫌だぞ」

「数合わせでいいんです~。みんなで悠ちゃんの安全を第一に考えますし、それなりにお礼もしますから~」

「なぬ? お礼とな? おっぱい揉み放題とかそんなんか?」

 それなら即決とまではいかずとも一考の余地有りだな……なんなら本当にルセリアちゃんと添い寝する権でもいい。

 いやいや、馬鹿なことを考えている場合ではなく。

「あはは~、優ちゃんはおっぱいが好きですね~。でもそれは恥ずかしいので報酬の二割で手を打ってください。さっき言った交通費は丸々浮きますし、報酬自体も二十万ディールありますので……どうでしょう」

「うーん……そうだなぁ」

 懇願するような目で見られると弱い。

 何度も何度も言いたくはないが、俺自身金が必要な身であることも確かだ。

 何より、ソフィーの後ろに立っているジュラの無言の圧力がハンパない。

 じろーっと俺を見ていて、その表情たるや『断ったら軽蔑してやる』と言わんばかりである。

 ちなみに双頭狼(ロット・ウルフ)のリンリンは足下ではぁはぁ言っているだけなのでよく分からん。

「はぁ……本当に安全は保証してくれるんだな? 男のくせに情けないって思われるかもしれないけど、俺は化け物と戦う腕っ節もなければ武器とか魔法とかを使う力も何一つ無いんだ。そのオークとやらがどんなのかも全然分からないし、邪魔しちゃうぐらいなら居ない方がいいってこともあるんだからさ」

「その点は安心してください~。こう見えてもこの子達は頼りになりますし、私は悠ちゃんのこともリリちゃんのことも信頼しているので居ない方がいいなんてことはないですよ~」

「リリ? リリが何か関係あんの?」

「実はですね~、リリちゃんの推薦もあって悠ちゃんにお願いすることにしたんですよ」

「んん? どういうことだ?」

「その辺は本人に聞かれたら恥ずかしがっちゃうので道中にということで~、何はともあれ一緒に来ていただけるということでオーケーですよね? ね?」

「分かったよ、行けばいいんだろ行けば。ギャラの二割とルセリアちゃんと添い寝する権利で手を打ってやる」

「ルセリアちゃんの方は私から強要することは出来ないのでご自分で交渉してください~。本人が嫌がらなければ私は何も言いませんので~」

「どう考えても交渉成功の余地無いよねそれ……」

 ルセリアちゃんに限らず女の子に添い寝してくださいとお願いして良い返事がもらえるわけがない。

 この間みたいに膝枕してくれるだけでも幸せなんだけどなぁ。

「ま、何にせよ一仕事するか。すぐに出発するのか?」

「はい~、では行きましょう~」

 一人だけ元気一杯のソフィーの声が狭い玄関口に響く。

 結局行くことになっちゃったけど、果たしてどうなることやら。

 もうほんと怖い思いはしたくないよ。だって男の子だもん。


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