【第二十二話】 なんかよく分からんけどこの世界の鏡は凄い
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朝を迎えた。
また、朝を迎えてしまった。
これで何日目になるんだろう、この世界。
もう数えるのも嫌になってくるというか……これ一体いつになったら帰れるのかと考えると答えが見つからなすぎて悲しくなってくる。
夏休みの宿題とか全くやってないんだぞ俺……うん、それは毎年のことだね。
「さてと……今日も管理人頑張るか」
溜息一つ残して言葉尻ほどテンションも上がらぬまま、俺は部屋を後にする。
昨日食べすぎたせいかあまり腹も減っていないので朝飯は抜き、そろそろ要領を掴みつつある風呂掃除と、いつまで経っても手洗いの面倒臭さに慣れない洗濯を済ませるとすぐに手持ち無沙汰になってしまって特にやることもない俺はそのまま部屋に戻ることにした。
ソフィーは仕事探しに行ってくると言ってどっか王都に出掛けたし、リリは例によって修行するって森の奥に行っちゃったし、マリアは相変わらず寝てるままだし、マジやることねえ。
この世界娯楽少なすぎんだよ。
漫画やゲームが無いのは仕方ないとしても、なんかこうゲーセンとか、せめてスポーツとか何かねぇのか。
暇だなぁ……何すっかなぁ……リリの様子でも見に行くかなぁ……。
とか考えていた時だった。
『ちょっと、悠希? いる?』
突然、俺しかいないはずの部屋にそんな声が響いた。
昨日の幽霊事件の影響か必要以上にビビった俺は反射的にベッドから飛び起きる。
「どわぁ! 何!? 誰!?」
『何ビビってんのよ、こっちよこっち』
「こっちってどっち!? ていうかその声……レオナか?」
キョロキョロと無意味に部屋を見渡してみるが、当然ながらレオナの姿など無い。
しかしそれでも、レオナの声は引き続き聞こえていた。
『鏡よ鏡!』
「か……鏡?」
戸惑いながらも聞いたまま部屋の隅にある姿見に近付いてみる。
言われてみれば確かにこの方向から聞こえた気はするが……。
「お、おい……レオナ?」
『レオナ? じゃなくて、早くしてよ』
うん、やっぱ完全に鏡の中から声が聞こえるわ。
「早くって何をだよ、ていうか……何で鏡からお前の声がすんの?」
『は? もしかして使い方知らないわけ? だったらちょっと鏡に触って』
使い方? と言われても全然意味が分からないが、取り敢えず指先で鏡に触れてみる。
するとどういうわけか鏡全体にレオナの姿が映っていた。
映像で繋いでいるかのように、さながらテレビ電話巨大版の如く。
「おお! レオナだ、なんで!?」
『なんでって、あんた次元鏡知らないの?』
ものっそい呆れた顔で言われた。それでも可愛かった。
ていうか、初期のリリとの遣り取りを今になってリフレインしてんじゃねえよ。
「お前等の使ってる不思議アイテムのことなんか俺が知るか! どうなってんだこれ!? テレビ電話的なことなの!? 何で鏡なの!? 馬鹿なの!?」
「てれびでんわ? 何それ?」
「いや、その件もリリと散々やったからもういいんだよ。俺はこの世界のことなんて全然知らないわけだから、こっちの質問に答えるのがお前達の役目だということを肝に銘じておけ」
『何が役目なんだか……まあ、どうでもいいけどさ。簡単に言うと、特殊な魔法を掛けた鏡同士を通じてこうやって会話が出来る、それがこの次元鏡。分かった?』
「へ~、すげえなマジで」
そういや例の幽霊騒動の時にリリが鏡がどうとか言ってたっけか。
「で、お前はその鏡を使って何やってんの? 寂しかったの? 俺の顔が見たくなったの?」
『死ね変態。そうじゃなくて、ちょっとお願いがあんのよ』
「……死ね変態と罵った相手にお願いを聞いて貰えると思っているならお前は病気だ」
『ちょっとテーブルの上にバッジ忘れてきちゃってさ。普段ならそんなに問題は無いんだけど、今日は演習に出なきゃいけないから付けてないと不味いのよ。だから届けてくんない?』
「お前俺の話聞いてた? ていうかバッジって?」
『聖騎士団の隊長副隊長が付ける十字勲章なんだけど、昨日制服持って帰った時に外して朝置きっぱなしで出ちゃって、だから頼まれてよ』
パチンと、レオナは両手を合わせてお願いのポーズを取る。
正直、言ってることはあんま理解出来ていないけど確かに朝からテーブルの上になんか置いてあった気がする。あとパシリにされようとしていることだけは分かった。
「え~、なんで俺が」
普通に面倒くせえんだけど。
『だって、暇なのあんたぐらいでしょ』
「んでだよ! その発言は聞き捨てならんぞ、引き籠もりのマリアや無職のソフィーとリリよりはよっぽど働いてんだろ俺」
『だからー、そういう働き者のあんたに頼んでんの』
「めんどっくせぇなぁ。ていうかお前今どこにいんの?」
『はあ? グスターヴァ宮殿に決まってんでしょ仕事中なんだから』
「グスターヴァ宮殿?」
ここに来て新たな聞き慣れない言葉。
とはいえ宮殿と言われりゃ俺の頭に浮かぶのはただ一つ。
「それってもしかして王都にあるあのでっかい宮殿?」
『他にどの宮殿があんのよ』
「質問を質問で返すな。リリみたいに揉み拉かれたいのかコノヤロー」
『……リリの何を揉んだって?』
鏡の向こうでマジな目をしていらっしゃるレオナさん。
しまった、余計なこと言っちゃったぜ。
「ほ、ほっぺダヨ?」
ほとんどの場合は、だけど。とは言えない。
『リリに変なことしたら許さないからね。とにかく、そんなわけだからよろしく。門番には話通しておくから、それじゃね』
なんだか一方的に言いたいことを言った挙げ句に通話を切られたのか鏡からレオナの姿が消えた。
相変わらず我が儘な奴全開な奴だけど、その何とか宮殿には常々興味があったので行ってもいいなら行ってみたい気持ちもそれなりにあったりもする。
「しゃあねえ、行ってやっか」
ついでにちょっと買い物でもして帰ってくりゃ一石二鳥だ。
昨日無駄な経費を使ってしまったからな、今日は節約メニューにしよう。
そんなことを誓って、レオナの使いっ走りに出掛けることにした。