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【第二十話】 マジなやつでしたぁぁぁ!!!!



 村長の家を出てから十分か十五分ぐらいが経っただろうか。

 木々生い茂る光景にはそろそろ慣れ始めていたつもりだったが、坂道であることで予想外に体力を消耗したことに気付き始めたあたりでようやく件の洞窟に辿り着いた。

 森の中と大差ない自然に囲まれた静かで緑広がる景色。

 その中に丘のような場所があって、行く手を塞ぐ高い岩壁みたいになっている部分の一角に洞窟の入り口はあった。

 見るからに深そうで、外からでは奥の様子なんて一切見えない。

 といっても側面にちらほら光る石が設置してあるため真っ暗というわけでもなさそうだ。あれもムーンストーンだかいう電気代わりのアレなのだろうか。

 内部全てに行き渡っているなら相当助かるのでそうあって欲しいところだ。

 とはいえそうでなかった場合にどうしようもなくなってしまうパターンに陥ることのないよう予め対策はしてもらっている。

 俺の右手に持たれている木の棒がそうだ。

 暗いと危険が増すということも理由の一つであったが、村長曰く『件の幽霊は火を嫌がるという話でして』ということで防衛策としての意味も込めて持たされた次第だ。

 リリが魔法使いの格好をしているせいで危うく魔法でどうにかなる体で話が進みそうになったところを慌てて貸してくださいと頭を下げたりもした。

 リリの手には魔法の杖が、俺の手には松明がと二人して木の棒を持って山を登る姿はさぞおかしな二人組に見えることだろう。

 うっかり口にしてしまった俺にリリは『木の棒じゃないですっ、れっきとした魔法の杖ですっ』と憤慨するわけだけど、魔法を使うために使用されることがない時点で絶対ただの木の棒と大差ないよね。

 いや今はそんな話はさておくとして。同じ理由で山に入る前から火打ち石で松明に火を点けてもらっている。

 洞窟に入る時に炎の魔法で灯せばいいからとか言われてもリリにそんな魔法は使えないわけで、追い返されるわけにはいかないので魔法を使えないことを隠しつつどうにか誤魔化して先に火を点けてもらったのだ。

「…………ふぅ」

 足を踏み入れて僅か数十秒、自分を落ち着かせる意味で一つ大きく息を吐く。

 幽霊云々は無関係に随分と不気味な雰囲気だ。

 自分で言っておいてなんだが、肝試しという表現がまさかここまでぴったり当て嵌まることになるとは。

 隣に居るリリも不安そうな顔でおろおろしながら俺の服を掴んでいる。

 魔法使いである分だけ俺よりは頼りになるかと思っていたんだけど、この様子じゃ完全にアテが外れたな……年下の女の子を頼りにしようとしてる時点でどうかと思うけどさ。

 とまあ、そんな状態で洞窟を右に曲がったり左に曲がったりしながら奥へ奥へと進んでいく。

 それはしばらく歩いたおかげか気味悪い薄暗さにも慣れ始めたような気がしてきた時だった。

 左右に分岐する道のちょうど突き当たりに到達する直前、不意に二人の足が止まる。

 リリも同じ理由だったのかどうかは分からないが、悪寒とでもいうのか明らかに空気が変わったのを感じたからだ。

 元から肌寒いぐらいに温度は低かったのだが、より一層温度が下がりゾクゾクするようなひんやりとした空気が全身を包む。

 頭と体の両方がこれ以上進むことを拒否しているかのように、無意識に足が止まっていた。

「…………」

「…………」

 無言のままリリと見つめ合う。

 明らかに『もうやめときません?』と、その表情が言っていた。

 やいや、俺だって全然まったくびっくりするぐらい気は進まないよ?

 でもだよ。

 じゃあここで引き返すのって話じゃん?

 村長さんに『何もいなかったけど怖くなったので途中で引き返してきました』って報告しろっての?

 そりゃあまりにダッセェだろ~。

「取り敢えず、こっからは慎重に行くぞ」

 無駄に声を潜め、リリの返事を待たずに壁に張り付く。

 そして、こそこそと摺り足で角まで近付くと顔だけを出して奥側を覗き込んだ。

 伸ばした首の下には真似して覗き込むリリの顔がある。

 その目に映ったのは、全てにおいて後悔の二文字に連結する得体の知れない何か(、、)だった。

 足が無く、宙に浮いた全身髑髏の人型の何者かはこちらには気付いていないのか、奥にある道を通過していく。

「~~~~~!!!!???」

 悲鳴を上げる寸前だったリリの口を慌てて塞ぐ。

 今大きな声を出されたら真剣にヤバい。

 リリは涙目で俺を見上げ、それを自覚しているのか俺の手の上から自分で口を押さえている。

 そうでもしないと嫌でも絶叫してしまう状態なのだろう。俺だって普通にそうだ。

 何なんだよあれ!

 幽霊とかそんな次元の話じゃねえだろ!

 浮いてたぞ! 髑髏だったぞ! 体ちょっと透けてたぞ!!!!

 洒落になってねえ……これはマジで洒落になってねえよ。

 こんなん俺達にどうにか出来るわけがない……逃げるしかねえ、今すぐ逃げなければ。

 それをリリに伝えようとするも、リリはいつのまにか必死に口を塞ぐ俺の手をどかそうと力を込めている。

 押さえ付けすぎて呼吸が出来ないのか。いや、鼻は塞いでいないからそれはない。

 今解放してしまえば間違いなく大声を出す、それだけは避けなければ。

 そう思った俺はどうにか阻止しようとより力を込めて手を押し付けるが、リリはすでに俺の方を見てはいなかった。

 涙目のまま俺の後ろをビシビシと何度も指さし、何かを訴えようとしている。

 ものすごーく嫌な予感がして、それでも恐る恐る振り向いてみると、そこにいたのは予想に反して予想通り今の今まで目の前を通っていったはずの不気味な骸骨の顔だった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 二人で絶叫し、とにかく逃げた。

 一目散に、もう人生で一番早く走ってるんじゃないかってぐらいに全力で、ただただ出口に向かって走り続けた。

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。

 頭に浮かぶのはその単語一つだけだ。

 脇目も振らずに走り続け、やがて来た時に通ったような左右へ分かれる道が見えてくる。 

 これどっちから来たっけ!?

 右か!?

 左か!?

 混乱しているせいか全然分からない。

「リリ、あれどっちから……って居ねえ!!」

 慌ててブレーキを掛ける。

 しかし、振り返り見渡してみてもリリの姿はどこにもなかった。

 はぐれたのか?

 それともアイツに……。

「どうする……どうする……どうする……決まってんだろクソっ!」

 このまま逃げ帰るなんてことが出来るわけがない。

 自分の頬をパチンとはたき、覚悟を決めて俺は全力疾走を再開した。勿論逆走でだ。

 息も切れているし、松明を持ってるせいで火が暴れて無駄に熱いし、怖いし心配だしでもう感情なんて滅茶苦茶になっているけど、リリが無事ならそんなもんはどうだっていい。

 とにかく必死に走って、走って、走り続けた先にリリはいた。

 いくつめになるかの角を曲がった先にあったのは、どうにか無事でありながらも今にもそうではなくなる可能性が盛り沢山の光景だ。

 壁にもたれ掛かるように座り込んでいるリリの目の前にはあの髑髏幽霊が迫っている。

 恐怖ゆえか怯えた表情で、見るからに腰が抜けて逃げることすら出来ない状態であることが嫌でも分かってしまう絶望的な状況だった。

「リリっ!」

 どうにかして助けなければ。

 だけどどうやって助ける?

 囮になるか?

 それとも自爆覚悟で跳び蹴りでもカマすか?

 幽霊相手にそんな手段が有効なのかどうかなんて分からねえよ!

「……そうだ!」

 何をボケたこと言ってんだ俺は!

 そのために松明持ってたんじゃないか!

「リリから離れやがれ腐れガイコツ野郎ぉぉぉぉぉ!!!」

 右腕を振りかぶり、全力で松明を投げ付けてやった。

 ぐるんぐるん縦回転した火の灯る棒はリリの目の前辺りを通過していく。

 村長の言っていたことは事実だったらしく、髑髏の化け物はあからさまに火を避けるように退いた。

 その隙に全力でリリの元に駆け寄ると、力尽くで小さな体を背に負い再び猛ダッシュでその場を走り去る。

 一度たりとも後ろを振り返ることなく、はち切れんばかりの心臓が悲鳴を上げていようがお構いなしで駆け抜けた死にものぐるいの逃走劇が幕を閉じ足を止めたのは日の光が眩しい洞窟の入り口を突破してからのことだった。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 喉が乾き過ぎて唾を飲み込むことも出来ない。

 足も半ば痙攣気味にガクガクと震えている。

 人一人背負って走り続けたのだ、そうなるのも無理はない。とはいえ単に疲労のせいかといえばそうではないだろう。

 下ろしたリリも同じなのか、俯いたまま小刻みに震えている。

「リリ……大丈夫か」

 呼び掛けると、ようやく顔を上げる。

 目に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうだったリリの緊張感を安堵が解放させていた。

「うぇぇぇぇん……怖かったですぅぅぅぅ!!!!」

 俺の胸に顔を埋めるリリの目一杯の泣き声が静かな森の中に響く。

 まぁ……そうさせたのは俺だ。今回ばかりは完全に俺が悪い。

「悪かったよ……無理矢理引き受けさせるようなことしちゃってさ」

 後にも先にもリリは決して俺を責めることはしなかったが謝罪以外に掛ける言葉はなく、ただ泣き止むまで頭を撫でてやることしか出来なかった。

 少しして、ようやく落ち着いたらしいリリが俺から離れる。

「……なぁ、リリ」

「…………」

「やっぱ生活も仕事も……身の丈に合わせないと駄目だな」

「ぐすっ……はい」

 こうして、俺達の初めてのクエストは失敗に終わった。


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