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【第十七話】 素晴らしきおっぱ……ゲフンゲフン

4/23 台詞部分以外の「」を『』に統一


 けたたましいベルの音が起床時間を告げる。

 脳が睡眠を欲し、二度寝三度寝に興じたい欲求を激戦の末どうにかはね除けた俺は起き上がり、ベルの音を止めた。

 この目覚まし時計代わりの道具は昨日まではなかった物だ。

 名をキャンドルベルというらしく、見た目はキャンドルホルダーみたいな物で、そこに蝋燭を刺して火を点けることで機能を発揮する俺にしてみれば初めて目にする摩訶不思議面白アイテムである。

 蝋燭が燃え尽きるとベルが鳴るという造りで、それ用に長さの異なる何種類かの蝋燭を使うことでベルを鳴らす時間を調整するアラームというよりはタイマーみたいな用途の道具だ。

 例えば夜寝て朝起きるために使う場合は長めの蝋燭を、料理や昼寝の時などの少しの時間を知らせるために使う場合は短めの蝋燭をといった使い道ということらしい。

 ここにきて更なる衝撃の事実が一つ明らかになった。それはこの世界には時計という物が存在しないということだ。

 そりゃ日本で暮らしているから不思議な話に聞こえるのであって俺が知っている国の中にだってそういう国はいくらでもあるのだろうけど、やはりカルチャーショックを抱かずにはいられない。

 それを聞いた時の俺の驚愕っぷりはさておき、じゃあ皆は朝とかどうやって起きてんの? という疑問を口にしたところで件の道具の存在を教えて貰ったというわけだ。

 特に飯のお礼というわけではないのだろうが、俺が使っている物はレオナが使わなくなったのをくれた。

 蝋燭もいくつか分けてくれたし、町に行けばどこででも売っている物だということだ。

 仕組みとかは全然分からんけど……俺をビビらせすぎだろこの世界。

「ん~……よし、起きるか~」

 夏休みなのに健康的な早起きというのは高校生らしさの欠片もないが、今の俺には家事という労働が待っているのだ。どうせ昼からは暇だし昼寝でもしてやるさ。

 そう決めて、布団から出た俺はそのまま部屋を出てダイニングへと向かう。

 そしてパンを一枚たいらげるとそのまま二階へと向かった。

 昨日約束したマリアの部屋の掃除のためだ。

 ちなみに今日のパンは普通にバターを塗って焼いただけの物である。そう毎日毎日手間暇掛けてられるかっつーの。

「ふぅ……」

 二階に上がり、廊下を少し進んだところで立ち止まると一つ深呼吸。

 勿論のこと場所はマリアの部屋の一歩手前である。

 勝手に入っていいとは言われているものの、やはりちょっと怖い。初対面時のリリの慎重さも然り、部屋の中にあった馬鹿デカイ剣を目にしたことも然りだ。

 本人が大丈夫と言うからには大丈夫だと信じよう。

 そんな決意と共に恐る恐る静かに扉を開く。

 ひとまず襲ってこられたりはしていないことに安堵し中に足を踏み入れると昨日来た時と同じく黒いカーテンを閉め切っているせいで若干薄暗くなっている散らかった部屋の片隅にマリアはいた。

 ベッドの上が物で溢れているせいか地面で布団にくるまるようにして寝息を立てている。

 首から上だけを出し、膝を曲げて小さくなっている姿は猫っぽくてものすっごく可愛いです。

 とまあ相変わらずほっこりさせてくれるマリアだったが、昨日と同じく部屋はぐちゃぐちゃなので癒しの一時よりも整理整頓をしたい願望を優先させるとしよう。

「マリア~、朝だぞ~、起きろ~、片付けすっぞ~」

 カーテンを全開にしつつ名前を呼ぶと、マリアは日光の眩しさを嫌がるように『んん……』と可愛らしい声を上げて寝返りを打った。

 そして、くんくんと鼻をピクつかせたかと思うと俺の名前を呼ぶ。

「…………ゆう、き」

 目を開くことのないまま俺の名前を口にしたところを見るに、昨日言っていた匂いを覚えたという台詞もあながち眉唾物ではないのかもしれない。

 と、一瞬思いかけたが、普通に声で分かるよね。

「おはよ。ほらほら、掃除するぞ」

 このまま待っていても起きないパターンなのは日頃の自身を顧みると一目瞭然だ。

 本人に取っても半ば無理矢理起こされるぐらいの方がいいんだよこれ。

 というわけでマリアを包む布団を両手で掴み、無理矢理剥ぎ取ってやる。中から出てきたのは一糸纏わぬ姿のマリアだった。

「ぶっ! お、おま……なんで全裸なんだよ!」

 思わず噴き出す。

 というか、鼻血を噴き出しそうになるのを必死に堪える。

 スラっとした背中も、胸元の双丘も、それどころかもっと見えちゃいけない部分も全部丸見えだ。

 生まれて初めて見る生の女体に興奮や感動を通り越して戸惑うしかない哀れな童貞その名も俺。

 しかし、マリアは未だ目を閉じたまま失った布団を探すように手を彷徨わせているだけだ。見られている自覚がないのか、見られても平気なのか、いずれにしても俺はどうすればいいんだぜ?

「悠希……頑張る」

 ぼそりと聞こえるそんな声。

 頑張るって何だよ。それニュアンスは完全に『頑張れ』のノリじゃねえか。 

 完全委託? お前の部屋だよね?

「はぁ……まあいい、無理矢理起こしてダラダラ手伝われてもろくに進まなそうだ」

 なんかもう色々と精神的に参ってしまう溜息だった。

 本人に動く気配はなく、さすがにそのまま放っておくのはまずいので布団を返してやるとマリアはもぞもぞと同じ態勢に戻る。

 とにかく、サッサとやってしまおう。

「ベッドの上に散乱してる紙切れは捨てちゃまずいのか?」

「…………全部……いらない」

「はいよ」

 布団にくるまり目を閉じたままではあるが、一応は答えてくれる。

 そりゃ裸の女の子とか常に傍に居て欲しいに決まってるけど、ただでさえ広くはない部屋の床に寝転がられるというのは掃除をする場合に関してのみ言えば普通に邪魔だった。

「ゴミ纏めて布団干すからさ、もう手伝えとは言わんから寝るなら俺の部屋で寝ててくれ」

「ん……」

 起き上がるか否か、随分と葛藤したのちそれでもマリアは目を半開きにしながら立ち上がった。

 ばさりと布団が落下したことでまたしても全ての素肌が露わになっているにも関わらず、そのままの状態でスタスタと俺の傍を通り過ぎ部屋を出て行こうとする。

「服を着ろ服を!」

 なんで全裸のままで平気なんだよ、羞恥心の欠片ぐらい持ってくれお願いだから。

「………………着る」

「うん、いや、着るって言うならちょっとは自発的に動こうな?」

 目を擦りながら答えるマリアは突っ立ったまま動く気配はない。

 頑張るっつって頑張る気ゼロだし、着るって言って着る気ゼロだし、こいつの『~する』は駄目なやつだと今ようやく理解した。

 あれ? ということはもしかして?

「まさかとは思うけど、着せろってのか?」

「……………………………………………………(コク)」

 ものっすごい間があったよね今。

 完全に『そういうことにしておけばいいか』的な思い付きを挟んでたよね今。

「あーもうっ、お前そのうち襲われるぞ俺に」

 言いつつも、いい加減裸のままでいられるのも心臓と下半身と自制心が持たないのでサッサと服を着て貰うことにするしかなさそうだ。

「どれ着るんだよ」

「……洗ってあるのは、それ」

 指差す先にあるのは端っこの方に畳まれた状態で重ねてある洗った後の物であろう衣服の山だ。

 何をやっているんだ俺はと嘆息しつつ、せめてもの役得にと至近距離からの眺めに感動したりしながら下着に服にと着せてやることに。

 色んな意味で下着の段階で手こずったが、やがてどうにかマリアをまともな格好にすることに成功した。ブラジャーの止め方とかよく分からんっつーの。童貞だから

 おっぱいも下半身も全部丸見えだし下心があるかどうかは無関係に胸とか触りまくってんだけど、マリアはこの状況でなお寝惚けたままなのか言われるがまま手を上げたり足を上げたりしているだけで全く気にしてなさげだ。

 もはや我が人生に一片の悔い無しと高らかに宣言したいこと山の如しな手に残る感触や脳裏に焼き付けておいた素晴らしき光景の余韻にしばらく浸っていたいところではあるのだが、さすがに半分寝ている相手にこれ以上触っていては性犯罪っぽさが増して罪悪感に押しつぶされそうになる。

 パンティー、ブラジャー、シャツ、スカートと全部身に着けさせたところでマリアは『ねむい……』とか言いながら出て行ってしまったので頭を切り換えて掃除に取り掛かるとしよう。

 家事をすることに対する不平不満なんて全部吹っ飛んじゃったぜ……ああ素晴らしきかな女の子の裸体。

 レオナに知られたら怒られるのを通り越してぶっ飛ばされそうなのでこの出来事は永遠に俺の心の中にしまっておこう。

 そんな決意と共に気を取り直し、掃除を開始する。

 およそ二時間ぐらい掛けて服を畳んでまとめ、バケツと雑巾を用意して窓や床を拭き、布団干したところでようやくまともになった。

 勿論ワンルームぐらいの広さしかないボロアパートの個室にベランダなどなく、二階の廊下の突き当たりに共用のスペースとしてのそれがあるだけだ。

 そしてゴミに関してだが、こちらもこちらで近代文明っ子な俺には驚きの連続だったりする。

 まず生ゴミは基本的に畑に埋めるだけ。

 そして布や紙、木のゴミは自分達で燃やして処理し、ガラスの物は町に回収してくれるところがあってそこに持って行くのだそうだ。

 燃やすのは他の連中が当番制でやっているらしいので任せるとして、ガラス瓶は買い物に行く時に持って行くとしよう。

 苦労した甲斐もあってそこそこ綺麗になった室内はやけに広く感じられる。

 ベッドとキャビネットしかないことが余計にそういう印象にさせるのだろう。ちなみに剣やらナイフやらの凶器は端っこの方に寄せておいた。

「ふ~、これでしばらくは大丈夫だろ」

 我ながらそれなりに満足のいく出来ということもあって達成感が疲労感を緩和してくれる。

 完了の報告をするべく自分の部屋に戻ると、マリアは言い付け通り俺のベッドで寝ていた。

「マリア~、掃除終わったから戻っていいぞ……」

 最初に見た時と同じくベッドの上で布団にくるまり両膝を畳んで小さくなっているマリアに呼び掛けるその声が止まる。

 どういうわけか、脇には脱ぎ散らかした服と下着が散乱していた。

「なんで全裸に戻ってんだよ!」

 眼福だけど!

 自分の布団で裸の女の子が寝てるとか興奮するけど!

 でもそれは色々不味いよ女の子として。

「…………着る」

 やはりマリアは目を閉じたまま、いつか聞いた台詞を繰り返す。

「着せろってか……無限ループだぞそれ」

 自由奔放。

 その表現がこれほど当て嵌まる女子はいないんじゃなかろうか。

 一見パラダイスのようなこの環境に俺の自制心はそろそろ限界です。


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