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お前達が貧乏なせいで俺が異世界から帰れない  作者: まる


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【第百十九話】 借金の行方


 その後すぐに出発の時を迎えた。

 姫様のご指名があったとかで俺は要人専用馬車に乗り込んでいる。

 お誘い自体は光栄というか、嬉しく思う気持ちがあることは事実なれど偉い人と同席してたらずっと気を張っていなければならないのかとか考えると正直微妙な心境だ。

 確実に出発したらすぐに居眠りに没頭していたであろうだけに俺の休息タイムは虚しくも失われたと言っていい。

 正門を潜り宮殿の外に出たところに並んでいるのは普通の倍ぐらいあるでけえ馬車。

 俺が乗っている方には姫様とアン、加えてゴリラにメガ姉さんという振り分けであっちは王様、ハゲ、アメリアさん、レオナとクラウディアとかいう新メイドさんだ。

 何で王様と姫様が別々に乗るんだろうという疑問は、どうやらあの宰相代理とかいうハゲがいる以上は政治的な話ばかりになる場合が多く姫様が退屈するだろうという理由でのんびり出来るようにこういう割り振りにしたということらしい。

 しかしまあ、ただ一緒に来いってだけではなく王族と並んで座っているってのは一般人からしてみりゃとんでもない環境にいるんだろうさ。

 この世界の在り方に疎い俺にだってその程度は分かるけど、周りが言うほど光栄なことだの前例が無いだの言われてもあんまピンとこないし、正直そうだとしても何してんだ俺って感想の方が遥かに勝るので別に栄誉に思ったりもない。

 ま、姫様がものっすごい上機嫌だからいいんだけどさ。

 何がそうさせているのかは分からんが、真ん中に座る姫様は両脇にいる俺とアンの手を握りニコニコしながら鼻歌をルンルンしている。

 出発を間近に控えた今現在、正面にはゴリラ一人しかいない。

 何でもメガ姉さんは部下と道中の警護体制についての打ち合わせをしている最中らしい。

「姫殿下、随分とご機嫌でございますなあ」

 日頃から間近で見ているゴリラの目にもそう映っているらしく、いつものガハハ笑いを添えて俺が問おうか迷っていた疑問を遠慮無しに投げ掛けた。

 とはいえもっと身近な存在であるはずのアンですら『どうしたの姫様』みたいな顔をしているので日頃からこんな感じというわけではないのは俺にも分かる。

「ええ、最近アンリや悠希様とよくお出掛けするのでとても楽しいのです」

「ガハハ、そりゃようございました。童、姫殿下を泣かせるような真似をしようもんなら首と胴体がお別れすることになるぞ~」

「大丈夫っす。俺は姫様が泣いているのなんてみたくないんで」

「ガッハッハ、お前なら首から上だけでもその舌先三寸で生き永らえそうじゃの」

「……はあ」

 何を言ってんだこのオッサンは、わけが分からん。

 前から気になってたけどまずそのわっぱって何だよ。

 俺も大概だから非難する資格は皆無だけど絶対俺の名前覚えてないだろ。

「……あ」

 という抗議の意味を込めてガハガハうるさい謎の生物に白けた目を向けていると、メガ姉さんが開いたままの扉から馬車へと入ってくる。

 今日も今日とてリリとはまた違う魔法使い風のコスプレが似合っていますね。

「カルカロス隊長、諸々の指示と調整は滞りなく。それからジャックテール隊長が最終確認をと」

「おう、すぐに行く」

 報告と伝言を受け取るとゴリラが入れ替わりで出て行った。

 今の言葉からするにアメリアさんと話をしに行ったのだろう。

「ねえメガ姉さん」

「私のことですか?」

「はい」

「どうしました?」

「大丈夫なんですかあのゴリラ、ひょっとすると会話を成立させる知能を持ち合わせていないのでは?」

「清々しいまでに一片の混じり気もない暴言ですね」

「あ……すいませんつい」

「別に責めようとは思いませんが、当人の耳に入る前に時と場合を選ぶことをおすすめはしておきます」

「うす、さーせん」

「グリムホーク副隊長の仰る通りよ。アンタには他者に対する敬意ってもんを叩き込んでやりたいわ」

「そう言うなよ、俺だって別に悪口のつもりは全くないんだ。今後は気を付けるって」

 すかさずメガ姉さんに便乗するのはアンチ俺ことアンだ。

 アンチのアン、略して赤毛のアンチである。もう何語かもよく分からん。

「まあ、そういった印象を抱かれるのも無理はありませんが仕事に関しては問題ありませんよ。単騎の強さのみならず指揮能力、判断力にも秀でている方ですので」

「へえ~」

 ま、そうでなければ隊長なんてもんにはなれない、か。

 絡むと面倒臭いというだけで悪い人ではないというのは分かるからな。

 あの貴族の家で会った野郎に比べりゃ誰でもまともに見えるってだけかもしれんが。

 とはいえあんな脳筋キャラなのに、人は見掛けに寄らないんだなぁ。

 などと一人で感心している隙にそのゴリラが戻ってきたので暗黙の了解で話が終わる。

 予定されている五人が車内に揃うと、すぐに出発の時を迎えた。

 この前の山登り然り、リリやソフィーの手伝い然り王都の外に出ることはそれなりにあったけど、やはり最高権力者のお供ともなると壮観としか言えない特別さがある。

 前後にずらりと列を作る騎士様の群れ、それどころか両サイドも別の馬車が固めているし、そんな中で一番特別な場所に座っているのは何とも不思議な感覚だ。

 ぶっちゃけ優越感とかよりも変にゾクゾクしてしまうというか、日頃レオナやアンに怒られても平気で失礼な言動を取っている自分がいかに愚かだったかを思い知らされているような気さえしてくる。

 恐らく……いや、ほぼ間違いなくそれを理由に態度を改めるなんて芸当は俺には出来ないんだろうけども。

「俺も馬に乗る練習してみようかなぁ」

 特に雑談に花が咲くわけでもなく、同じ理由でやることもないため窓の外を眺めることしばらく。

 思わず独り言が漏れていた。

 この世界では騎士のみならず色んな人間が馬車だけではなく馬その物を移動手段にしている。

 それは言わずもがな車や電車どころかチャリすらも存在しない文化、文明であるがゆえのことだけど、一般的な方法であるなら身に付けるのもアリかもしれない。

 ちょっと憧れるというか、馬に乗れるって格好良くない?

 金を掛けてまで習うつもりなど微塵も無いし、うちには代用にリンリンとかいるから役に立つ場面が訪れるのかも分かんないけど。

「その前にもう少しまともな格好してきなさいよ。姫様のお付きとして同行してるのに」

 まーた俺に文句言ってらあ。

 でもそれでいいんだ、ツンツンしているアンじゃなきゃ俺はもう満足出来ない。

 いやそうじゃなくて。

「これでも庶民として一般的かつ最低限の姿だっての。誰も彼もが一張羅を買えると思うなよ?」

「この前買ってあげた服があるでしょうが」

「あそこまで人目を意識してます感丸出しの出で立ちじゃ逆に自分の立場や身分を勘違いしてる奴みたいで格好悪いだろ。ただ呼ばれてノコノコついてきてるだけの俺がさ。どうせ会議に出るわけでもなければ他所のお偉いさんと顔を合わせるわけでもないんだから」

「それはそうだけど……」

「まあまあアンリ、良いではありませんか。お父様も何も仰らないのですし」

「は、出過ぎた真似を致しました」

 やはり俺以外には基本的に素直で従順なアンだった。

 でも俺へのフォローも大事よ?

 遠回しにみすぼらしいって言われたよ今?

「それはさておきだ、アン」

「……何よ」

「その買ってもらった服って実際いくらだったの? 時間は掛かるかもしれんけどちゃんと返すから」

「四十万」

「ぐはっ……」

「……血を吐きそうな勢いでショック受けないでよ」

「んなこと言ったって……高いとは思ってたけどそんなにとは思わないじゃん?」

 うちのボロアパートに二年近く住めるんだぞたかが服一式で。

 富裕層ハンパねえ、そしてどうやって返すんだそんな金!

「心配しなくていいわよ、お金が無ければ体で返してもらうから」

「いやんエッチ」

「馬鹿じゃないの。労働って意味に決まってんでしょ」

「まあ……それぐらいなら仕方ないっつーか飲むしかないっつーか」

「アンリ、あまり無茶なお願いはしないでね」

 そこで助け舟を出してくれる姫様はマジ天使である。

 本物の天使よりもっと天使である。ルセリアちゃんと2トップの天使なのである。

「姫様、冗談ですよ。実はロックシーラ様から既にいただいていますから」

「え、レオナが?」

「そう言ったでしょ。私だって受け取れないって伝えたわよ。ああ、別に意地でもアンタから回収してやろうって話じゃなくて、そもそも返してもらうつもりもなかったもの。でもロックシーラ様に発端は自分だし、これ以上周りに迷惑掛けられないからこれでこの話は収めて、なんて言われたら断れないじゃない」

「そんなことがあったのか……」

 レオナめ。

 俺の知らないところで格好付けやがって。

「お互いがお互いを思って行動した、ということですね。素敵じゃないですか」

 にこりと、姫様の総括が述べられたところで俺もアンも同意だけしてそれ以上話を広げることはなかった。

 何故ならゴリラやメガ姉さんがものっすごい『何の話?』みたいな顔で聞いているからだ。

 危ねえ危ねえ、他の人に知られたら不味いってことに全然気が回ってなかったぜ。


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