【第百十八話】 大規模遠征軍
しばしして、俺達は宮殿に到着した。
遠目から分かっていたことではあるが、中に入る前からどこか仰々しい雰囲気に覆われていて、門の前にも兵士が多数整列しているし前にも見た王族専用みたいなデカくて豪華な馬車がスタンバイしている。
前回は中に集合していた記憶があるが、また随分と大掛かりな護衛態勢だなおい。
というか。
「これだけの人数が既に準備してるのにレオナはのんびり来てて大丈夫なのか?」
俺なんてこの時間でも眠いだのダルいだの言ってるのに、この人達はもっと早起きしてんだなぁ。
偉いなぁ、社会人って絶望的だなぁ。
「あたしはあんたを引率するように言われてるの。別にサボってるわけじゃないわよ」
「そういうことか。まあ一人で来いって言われても困るから助かるといえば助かるけどさ」
こんな空気の中で一人私服の俺がのこのこと入っていく勇気はない。
そして入れたところでどこ行けばいいのかも聞かされてない。
そうなるとしばらく彷徨った挙句早々に諦めて帰宅する可能性まである。
なんてことを考えながら例によってレオナへ大きな声で挨拶をする部下なのか何なのかの兵士達の騒音を耳にしながら宮殿内部へと足を踏み入れた。
そのまま中庭に向かうと、外にも何十人と兵士がいたというのにこっちに待機しているのは二十人ぐらいしかしない。
「なんか、前より人が少ないな」
「逆よ、数が多いから先に関門の外で待機してるの」
「ああ、そういう」
日本でも総理大臣が他所の国の偉い人と会談する時とかに警察が山ほど動員されるけど、そういう感じなんだろうな。
何という税金の無駄遣い。
口に出したらいよいよ本気でぶっ殺されそうなので言わないけども。
「やあお二人さん」
ひとまず王様が現れるまで待機でいいと言われて待つこと数分。
不意に背後から声がした。
振り返るといつの間に近付いてきたのかアメリアさんが立っている。
うん、今日も綺麗ですね。その微笑が癖になるね。
「おはようございます隊長。部隊の準備をお任せしてしまって申し訳ありません」
「こちらが言い出したことだ、気にすることはない。それにしても悠希君、最近よく会うようになったね。急なことだったと思うけれど、来てくれて感謝するよ」
「いえ、とんでもないっす」
「加えて言うなら、夫婦仲睦まじいようで何よりだ」
「うっ……」
レオナが照れている。
ぶっちゃけ俺もちょっと恥ずかしい。とはいえ、である。
「まあ、仲がどうとかの前に一緒に暮らしてますからね。いや仲は良いんですけど」
何なら今朝もっと仲良くなりましたけどね!
大人の階段登っちゃってますけどね!
「おっと陛下がご到着だ」
アメリアさんの言葉を合図に、周囲にいる兵士達が一斉に膝を折った。
まだ結構遠いのにもうそんな姿勢にならにゃいけないの?
二人も同様の体勢になっているため渋々俺も従う。
奥の回廊からは確かに王様&姫様に加えゴリラ隊長、メガ姉さん、アンと知った顔がこちらに歩いてきていた。
ただそれだけではなく見知らぬ顔も二つ。
王様の横を歩く中年の薄っすらハゲたおっさん、そしてアンと同じくメイド服を着た二十歳は過ぎているであろう髪の長い女性だ。
「なあおい、何か知らんオッサンとメイドさんがいるんだけど」
つっても前だって目的地である施設にはメイドさんたくさん居たので知っているか知らないかで分類するなら知らない人だらけではあったけども。
でもそれはあの場所で掃除や料理とった仕事をするために来ていたのであって、こうして出発から同行するってのは別の意味なのではなかろうか。
それこそアンが姫様の護衛という特務を担っているみたく。
ついでに言えば兵士ではないオッサンも前は見た記憶がないのだが……。
「あれはムーラン・ゼイン宰相代行と新たに王女殿下のお付きに加わったクラウディア・オーガストだよ」
説明してくれたのは隣で膝を折るアメリアさんだ。
宰相って王様の次ぐらいに偉い人、だっけ?
「そんな偉い人が同行すんの?」
「有事の際に軍略を練ったり方針を決める場合、宰相が持つ裁量というのは大きな比重を占めるからね。国防に関わる基地の編成や組織形態の話をしに行く以上は当然のことさ。むしろ陛下が直接出向くことの方が機会としては少ないぐらいだよ」
「へ~」
そういうアレね、うん。全然分からんけど。
「といってもゼイン殿はあくまで代理だ、現宰相が病床に臥せっているものでね。それからクラウディア女史については以前あんなことがあったばかりだ、姫様のみならず陛下の守りを固める意味での人員補充であり人選となっている」
「な、なるほど……」
まあ、確かにこの前は賊に襲撃されたもんなぁ。
ぞろぞろと護衛の兵士を連れてもあんな状態だったし、一歩間違えばどうなっていたことやら。
そもそも姫様がというだけの話ではなく、あの時は明確に俺も身の危険があったわけだけど俺には護衛とか付かないの?
一応俺ってゲストじゃないの?
あの髭親父勝手に姫様の従者(非常勤)とか思ってない?
「よう童、ちゃんと来たんか!」
「お、おす」
先頭を歩いていたゴリラがこちらに気付き、いつものガハハ笑いを携えて傍に寄って来た。
そりゃレオナやアメリアさんは制服の色が違うのですぐに分かるのだろうが、一体何がそんなに面白いのだろうか。
あとちゃんとってあんた、そりゃバックレていいなら俺だってそうしてるっつーの。
と言いたいのをグッと堪え、苦笑いでやり過ごす間に王様も到着。
すぐに立ち上がるようにと指示を受け、ようやくこのしんどい体勢から解放された。
ちなみにメガ姉さんは口を挟むと面倒だとでも思っているのかゴリラのデカい声と的外れな挨拶には特に言及せず、ひっそり俺に会釈のみをしてくれるだけだ。
アメリアさんとレオナが王様への挨拶を口にしている後ろで場違い感が尋常じゃなさすぎて早くも帰りたい俺。
なのだが、一言二言交わすと王様は空気に徹している俺の肩に手を置いた。
「やあ悠希君、よくぞ来てくれた。此度も娘をよろしく頼む」
「うす……ゴフッ」
ちゃんと返事したのに、肘打ちが俺の脇腹に突き刺さった。
やる気の無い返事だとバレただと?
むせ返る俺を見て愉快な子だと笑う王様は特に気を悪くした風でもなく、例の何とかいう宰相代理とやらに俺を紹介してくれやがった。
「ゼイン、この子が悠希君だ。シルヴィアがよくしてもらっている、何かあれば其方も力になってやってくれ」
承知いたしました。
そう短く答え、ゼインとかいうオッサンは俺を見た。
「お噂は兼ねがね。どうぞよしなに」
「ど、どうも」
控えめに会釈を返してはみたものの、どう見てもオッサンの目が笑っていない。
露骨さはなくとも明らかに『何だこの場違いな小僧は』とでも言いたげな冷たい表情だ。
それも当然と言えば当然か。
逆の立場ならきっと俺でもそう思うもん。
だからといって良い気持ちはしないけどな! このハゲ!




