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【第十話】 超絶美少女という一言に尽きるエリートな住人、その名もレオナ

1/25 台詞部分以外の「」を『』に統一




 マリアが食卓に着いたことで四人となった風蓮荘の共有スペースであるダイニングは急激に賑やかな食卓と化していた。

 元々がそんなに広くはない上に四人掛のテーブルが満席になっているせいか随分と賑やかに感じられる。

 とはいえ晩飯といっても所詮は炒飯とスープだけなのだ。ものの五分十分もすれば大方の皿が空になっていた。

 一人だけひたすらおかわりをし続けているマリアの皿を除いて……だが。

 いやぁ、細い体なのによく食うなー。

 全然会話に参加せずに黙々と食ってるもんなー。

 ていうか表情が全然変化しないんだけど、美味しいと思ってくれてんのかなー。

 とまあ色々と思うところもあるわけだけど、それよりも気になった点が一つ。

「つーか三人しかいないけど、あと一人はどこ行ったんだ?」

 四人の住人に前管理人のおばあさんがここで暮らしていたという話だ。

 つまりは合計五人いるはずなのに四人掛のダイニングテーブルということは一人席無いんじゃね? まず最初に浮かんだのはそんな疑問だった。

 飯は各自で用意することになっている以上全員が同じタイミングということもそうはないのだろうが、かといって絶対にあり得ないというわけでもあるまい。

 その辺りは上手く調整してるのだろうかと結論を出しかけたところでそもそも今この場には住人が三人しか居ないことに気が付いたのである。

「レオナさんは日によって帰る時間がバラバラなんです。多忙で地位のある方ですから」

 そんな俺の疑問に答えたのはリリだ。

 丁度両手を合わせて『ご馳走様でした』を口にしたところだったところを見るに、中々行儀の良い子らしい。

「ふーん、そいつはフリーの何をやってるんだ?」

「いやいやいや、それは失礼過ぎますよ悠希さん。レオナさんはフリーの戦士じゃないどころか、本来わたしなんかじゃ声を掛けるのも躊躇われるぐらいの超が付く程のエリートなんですよ? 何せあの聖騎士団(パトリオティス)四部隊の栄えある副隊長の一人なんですから。わたしとほとんど歳も変わらないのに本当に凄い人です」

「へ~……」

 正直、何がどう凄いのか全然伝わってこなかった。

 なんだよパトリオティスって。専門用語を使うなと何度言えば以下省略。

聖騎士団(パトリオティス)というのは王国に仕える軍隊のことです。都市や町の治安を守ったり、悪い人を捕まえたり、時には戦に出向いたりといった国を守るお仕事ですね。【ヴァルキリー】【クルセイダー】【ベルセルク】【ジークフリート】という役割の異なる四つの部隊があって、レオナさんは【ヴァルキリー】の副隊長なんです」

 俺が理解出来ていないのを察したのか、そんな補足が付け加えられる。

 なるほど、分からん。

 という感想しか無いわけだが、まあ何となくエリートという言葉の意味だけは理解した。

「ていうか、そんな奴なら良い金もらってんだろ? なんでこんなボロアパートに住んでんだよ」

「それが……結構な浪費家の方でして。服とかアクセサリーとか、身だしなみにお金を掛けるのが好きな方なんです。お給金をほとんど注ぎ込むせいで大体金穴金穴言ってますね」

 答えたのはやはりリリだ。

 ソフィーは食べ終えた後の洗い物を買って出てくれているためシンクの前でじゃぶじゃぶやっている。ちなみにマリアは五杯目のおかわりを無言で平らげ続けているだけで会話に参加する気ゼロだ。

 馬鹿みたいにあった米の山が既に半分以下になってんだけど。どんだけ食うんだよ。

「なるほど、結局はそいつも貧乏ってことね……」

 要するに考えなしというか節操なしというか、やっぱりそいつもこの三人同様に残念な奴ってことだな。

 今更何が出てこようと驚きゃしねえけどよ。

 そんなことを考えながら食事の最後にグビっと水を呷っていると、絶妙なタイミングで入り口が開く音が聞こえてきた。

「あっ」

「レナちゃんが帰ってきたみたいですね~」

 という二人の言葉から察するに、件の四人目がお帰りになったらしい。

 全然関係無い話だけど、洗い物をしているソフィーの後ろ姿はなんだかすげぇ癒される。ちなみにマリアは未だに炒飯しか目に入っていないらしく、一人だけ振り返りもしない。

 というか昼間は全然気にしてなかったけど、人が出入りする音がダイニングまで聞こえてくるってボロいにもほどがあんだろ。

 はっきりと分かるだけセキュリティー的にはむしろ役に立っているのかもしれないが、夜とか寝てる時とか迷惑過ぎる。

「ただいまー」

 廊下を歩く足音が近付いてきたかと思うと、リビングに入ってくる気配と共にそんな声が聞こえる。

 リリの言うところのエリート様とやらがどんなものかと興味本位で振り返ってみた俺は、そこで言葉を失った。

 挨拶や自己紹介を口にすることも、リアクションを取ることも忘れてただ唖然とすることしか出来ない。

 目の前に居たのは俺史上過去に例を見ない、超が付くほどの美少女だった。

 歳は他の三人と同じく俺とそう変わらないだろう。

 もう美人だとか美形だとか、そんなありふれた表現に当て嵌めることすら躊躇われる程の超絶美少女だ。

 直接であれ画面越しであれ間違いなく俺が今まで生きてきた中で目にしてきた全ての女性における最高点だと断言出来る。というかもう今までどころか今後の人生でこの子よりも可愛い女の子に会うことなんてないと確信出来てしまえるレベルだと言えた。

 目、耳、鼻、口、全てのパーツが完成系だと言わんばかりに整っており、それが組み合わさることで外見の華麗さを形成していると思わされる程にどこを取っても非の打ち所がない。

 サラッサラの明るい茶色のストレートヘアが背中の辺りまで伸び、それを含めたお洒落な風貌がより外見の美しさを際立たせている。そんな感じだ。

 上半身はへそが見える短い丈の可愛くも洒落たデザインのベアトップを、そして下半身には白いショートパンツを着ておりそこから覗く四肢や腰はすらりと細くもはや芸術的な域に達している。

「おかえりなさい、レオナさん」

「レナちゃんおかえり~」

 言葉を失う俺に気付いていないのか、リリとソフィーは普通に再会の挨拶を投げ掛ける。

 レオナさん、或いはレナちゃんと呼ばれた少女はテーブルを見て、そして一人ノーリアクションのマリアを見て若干ムスっとした表情を浮かべた。

「何よ何よ、良い匂いさせちゃって。あたしを除け者にしてみんなで良い物食べるなんてつれないんだから」

 そして、口振りほど嫌味さを感じさせないニュアンスでそう言ったかと思うと、ようやくその視線を俺へと向ける。

「ね、あたしの分は?」

 迷わず俺を見るというのはどういうことだろうかと考える。

 見慣れぬ食べ物であることもその理由の一つなのだろうが、そもそもこいつらが普段料理をしないというのが証明されちゃった感がハンパない。

 というか……百パーセント初対面なわけだし、普通最初に自己紹介とかするものなんじゃなかろうか。なんで対オカン的なノリで『あたしの分は?』とか言われてんだ?

「多めに作ってるから……よければどうぞ」

 思うところもツッコみどころも山程あるが、それこそ初対面の、それもパーフェクト美女を相手に第一声でツッコみをかますわけにもいかず取り敢えずフライパンを指差していた。

 目が合っただけで普通に照れそうになって挙動不審にならないように必死だったのは内緒だ。

「マジ? ラッキー♪ 昼ご飯食べる時間なくてお腹減っててさー」

 少女は俺の人知れぬ戦いに気付くわけもなく。

 さっそくフライパンの方へ寄っていくと炒飯を皿に盛り、そのままソフィーが使っていた席に座って一言も無しに口に運んだ。

「へぇ、なかなか美味しいじゃない。あんたが作ったんでしょ?」

「まぁ……そうだけど」

 無言で咀嚼を続け、ごっくんと三口目あたりを飲み込んだところで少女は手を止める。

 そして水を注ぎ、テーブルに運んであげたりしているソフィーにお礼を述べたところで再び俺を見た。

 なぜか、今更になってえらく不思議そうな顔をして。

「ていうか、あんた誰?」

「……その一言だいぶ遅くね?」 

 何でご相伴に預かってからなんだよ。

 確かに見た目はパーフェクトかもしれないけど、他の三人と同じでどこかしらが抜けてる奴なんじゃねえかという疑問が急激にテンションを下げさせるんだけど。

「悠希さん、こちら残る最後の住人であるレオナ・ロックシーラさんです。先程説明した通り聖騎士団(パトリオティス)の副隊長を務める凄い方です。歳は十七なので悠希さんと同じですね。それからレオナさん、こちらは桜井悠希さんといって、わたしの知り合い……と言っていいのかどうかは難しいところなんですけど……色々ありまして、今日から新しく管理人をすることになった方です」

 よほど白けた顔をしてしまっていたのか、慌ててリリが双方への紹介を開始していた。

 まあ、概ね事前に聞いていた情報を繰り返しただけだったのはさておき、俺と同じ歳なのか。なんだこの持って生まれたものの差は、神様不平等過ぎるだろ。

「へえ、ばあちゃんとうとう隠居しちゃったんだ。ま、ここに住まなくなった以上はそのうちそうなると思ってたけど、今度挨拶ぐらいしに行かなきゃね」

「後日改めてわたし達に会いに来ると言っていましたよ」

「そっか、ならよかった。一言も無しにお別れってのも味気ないもんね。それで、あんたが代わりに来たってわけね。ていうか何で男なんだか、ばあちゃんが決めたなら今すぐに反対したりはしないけど、女の子だらけのこの建物で生活する以上は妙なことしたら速攻でたたき出すからね」

「貧乏集団が何を偉そうに……俺にはお前を叩き出す権利があることを忘れんなよ」

 実はないけどね。

 なんかすっげー上から目線だから普通にイラっとしただけだ。

「悠希さん、そんな権利はないでしょ。約束してたじゃないですか」

 空気を読まないリリだった。

「簡単にバラすなよ」

「フン、そんなことだろうと思ったわ。リリも言ったけど、あたしは王国に仕えるエリートなの。本来ならあんたみたいな凡人がお近づきになれる存在じゃないのよ。精々強く気高く美しいあたしにひれ伏すがいいわ」

「くそう……顔が可愛い過ぎて怒りたくても怒れないぜ。悲しきかな男の性」

「ぶっ……何面と向かって可愛いとか言ってんのよ!」

「なんだ照れてんのか? 初々しい奴め」

 言うと、レオナは口元を拭い俺をジト目で睨む。

 かと思いきや隣に座るリリの肩を抱いた。まるで俺から遠ざけようとするかの様に。

「リリ、こいつとは必要以上に関わっちゃ駄目よ。絶対変なこと考えてるから、絶対変態だから」

「少なくとも変態ではねえよ!」

「変なことは考えてるのね」

「正直、可愛い子に囲まれている環境であることに関しては恵まれていると思ってはいる」

「最っ低~。これだから男ってのはロクなもんじゃないわ、汚らわしい」

「引くな、普通に傷付くから。というかだな、別に俺だって働きたくてここに来たわけじゃないんだ、心配しなくてもすぐにおさらばするさ。そればっかりはリリ次第だけどな」

「ふーん。ま、あんたの今後の予定なんて知ったこっちゃないしどうでもいいんだけど、おかわり」

「……そんだけボロクソ言われて素直に注いでくると思ってんのか?」

「お・か・わ・り!」

 すげー自己中な奴だなオイ。

「覚えてろよ……後でお前が使ったスプーンを舐め回してやるからな」

「やるならあたしの見てないところでやりなさいよ。うっかり目にしちゃったら舌を引き千切ってリンリンに食わせるから」

「怖いこと言うな。それでも血の通った人間かお前は」

「知能ある人間とは思えない発言しておいて何言ってんだか」

 おかしな言い合いをしながらも炒飯をよそった皿を渡してやる。

 レオナがそれを受け取った瞬間、なぜか横からマリアが空の皿を俺に差し出してきていた。

「お前も食うのか?」

「…………(コク)」

「よしよし、まだあるからお腹一杯食べるんだぞー」

 頭を撫でてやると、やはりマリアは恥ずかしそうに俯いた。

 なんかはむはむ言いながら一生懸命食べている姿は小動物を餌付けしてるみたいでものっそい萌える。

 ついつい甘やかしたくなっちゃう可愛らしさにほっこりしている俺を現実に呼び戻したのはレオナの声だ。どうやらそれが我が儘お姫様の癇に障ったらしい。

「ちょっと、なんでマリアには優しいのよ!」

 ビシっと、スプーンで指される罪無き俺である。

「マリアはお前と違って顔と体以外も可愛らしいからだ」

 完全に余談だけど、マリアは既に俺とレオナになど一切の感心を示していない。完全に炒飯しか興味がないっぽい。

「あたしだって顔もスタイルも性格もいいわよ」

「確かに見た目の良さはお前が最強だ、もう人類最強だと言ってもいい」

「ま、言われなくても知ってるけど」

「最後まで聞けい。マリアもソフィーも見た目は可愛いし、スタイルならマリアだって負けてない。そして何より、胸はソフィーの圧勝だ! それでもお前は偉そうに出来るのか」

 レオナも小さくはないが、巨乳というほどではない。

 言ってて何だけど、だから何だって話だね。

「ぐぬぬ……胸」

 なんて思いきや、レオナはあからさまに『痛いところを突かれた』どころか『唯一の欠点を突かれた』と言わんばかりの悔しそうな表情で俺を睨んでいる。

 その横ではソフィーが『いやん♪』とか言っていた。

 恨みがましい目を向けるレオナを勝ち誇った顔(をする理由はぶっちゃけただの一つも無いが)で見下ろして優越感に浸っていると、リリがテーブルに手を突き食い気味で身を乗り出してくる。どうやら唯一名前が上がらなかったのがご不満だったようだ。

「悠希さん、わたしは?」

「お前も顔は可愛らしいけどほら、他の三人とは路線が違うから」

「路線?」

「小柄だしちっぱいだし、これはもうロリ路線でいくしかない」

「しかないんですか!? わたしだってもうすぐ成長期ですっ」

「悠ちゃんは胸の大きい子が好きなんですね~」

 一人平和なソフィー。

 黙々と炒飯を食べ続けるマリア。

 そして左右から俺への文句と抗議を繰り返すリリとレオナ。

 今日からこの中に混ざって生活していくのか……何というか、賑やかになりそうだ。


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