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【第百九話】 そんな日もあるさ



 神様に対して一応の礼として頭を下げ、シャイナネに連れられて神殿を出た俺は来た時と同じく向かい合う像の間に立たされるなり謎の呪文による瞬間移動を経て元居た森の中へと戻った。

 何故お礼を言いたいからという理由で呼ばれた俺が逆にお礼を言うのかと自問自答したりはしたものの、怪我人を介抱したことへの謝礼にしては過度にも程がある可能性の提示をしてもらったので正直こちらが貰い過ぎなぐらいだとさえ思っている。

 とはいえ自力で三千万溜めるのとどっちが困難かというぐらいの無理難題であろうことは容易に想像出来るだけによく考えて結論を出さねばなるまい。

 シャイナネは特に別れの言葉を口にするでもなく、ここで見たこと聞いたこと起きたことを口外するなと口止めだけして去っていった。

 これだけトンデモ体験が続いてしまったからにはソッコーで皆に相談したいのが本音なんだけど、そんな詳しくは覚えていないにしてもジュラの話が事実なら神様なんて今のこの世界の人間にとっては歴史の上の話みたいになっているらしいのでおいそれと明るみにしてはいけないことはさすがの俺にも分かる。

 それこそ確執があって、実質敵対関係みたいな状況のまま終わっているのなら俺の発言一つで歴史が変わるまであるしなこれ。

 ……とんでもないもんを背負ってしまった感がハンパねえんだけど。

 ジュラの話聞いてなかったら自称神様とか言われて信じられたかどうか。

 なるほど、これがフラグってやつか。

「……言ってる場合かよ」

 独りぼっちなせいでやっぱりあれこれと考えてしまう俺ってば意外と繊細なのかもしれない。

 そんな奴がこの環境で日々前向きに生きていけるかって話ではあるけども。

 といった具合で、現実に戻って来たことで余計に現実味が薄れつつもトボトボと歩いて来た道を戻っていく。

 ナナリーを背負って歩いた道を辿るだけなので迷ったりはギリしない。

 そうして最初の河原が見えてき頃、当初の静けさとは明らかに違う喧騒が耳を伝って異変を知らせた。

 身の危険に備え足音を殺しつつ何事かと木の陰から向こう側を覗き込んでみると、なるほど納得。

 例の巨大なサイの死骸の回りに人だかりが出来ている。

 見覚えのある格好、すなわち一緒に来た兵士達が数名とリリやソフィーもいるようだ。

 ホッと一息、安心して逆に俺に気付いてくれアピールを兼ねたわざとらしい足音を立てて川辺に出て行くと、すぐさま全ての視線がこちらに向いた。

 同時に二人が駆け寄って来る。

「悠ちゃん!!」

「悠希さん」

「よ、よお。来てくれたのか」

 必死の形相に、若干の罪悪感。

 心配掛けてごめんねと言う前に両手をがっちり握られたのでなんかもう照れる。

「ポンちゃんが慌てて呼びに来て、どこかに連れていかれたって」

「ああ、大丈夫だ。そんな大袈裟なことにはなってないよ。あとポンもありがとな」

 やっぱ助けを呼びに行ってくれたのか、やるじゃねえか鳥公。

 すかさず俺の頭に戻るポンの変わらぬ返事を受けていると、バケモンの回りで何やら話し込んでいた兵士の一人が近付いて来た。

 同行してくれた人とは違う、中年の兵士だ。

「お前がアレを発見したと聞いた。今までどこに行っていたんだ?」

「あ~、それがですね……」

 一応はこの山の調査にやって来た身なのだ。

 ここで何か異変が起きたのであれば、説明の義務は当然ある。

 のだが、神様や天使ちゃん達の話は口止めされたばかり。

 そうでなくとも簡単に口外したりはしないと決めた以上は誤魔化す他あるまい。

 というわけで掻い摘んで、かつ連中の存在や神殿の件は一切伏せた上でそれっぽい説明をすることにした。

 確かにこの場に限れば化け物を見つけたのは俺。

 だけど倒したのは別の誰かで、見知らぬ若い女だった。

 格好からして恐らくフリーワーカーか何かだと思われるが、発見した時には既に化け物は絶命していてその女が怪我をしていたから介抱することに。

 しかしながら意識を取り戻した女はそのまま名乗ることなく立ち去った。

 放っておくわけにもいかないと俺も追い掛けてはみたものの、森の中で見失ってしまい諦めて戻ってきた結果として今に至る。

 要約するとそういう報告だ。

「この魔獣が騒動の元凶と見て間違いないだろう。他の班は何も発見してないようだしな」

 だいぶこの場の思い付きみたいな解説であったが、どうやらオッサン兵士は納得してくれたらしい。

 その後の説明によると、この怪物は既に死んでいるとはいえ持ち帰って報告しなければならないらしい。

 とはいえ馬車で運ぶには無理があるので別途手配し、のちほど回収班がやってくるとのことだ。

「本来であれば討伐した魔物の所有権はその女にあるのだが……何か聞いているか?」

「いえ、特には何も」

「ふむ、女の特徴は?」

「歳は恐らく二十代半ばで……剣を持っていたと思います。長い金髪で……」

 嘘情報満載である。

 だからといって誰にも事実を確かめることは出来ない。

 つまりは俺の勝ちってことだ。……勝敗とかあるのか知らんけど。

 兎にも角にも。

 こうして俺達の任務は終わりを告げ、王都へ帰ることが許された。

 一部の兵達は残るらしいが調査隊である俺達その日暮らし軍団はお役御免というわけだ。

 聞けばバンダー達は残業するらしく、念のため俺のでっちあげた女を捜索するべく周辺を一周し、ついでに化け物が暴れた形跡などを探し巻き込まれた被害者がいないかを確認するんだと。

 ま、何にせよ今日の仕事も怪我無く終わってよかったということにしておくとしよう。


「はぁ……」


 そんなこんなで王都に向かう馬車に揺られる中、山登りに使った体力の分の含めドッと疲れが押し寄せる。

 言わずもがな精神的な疲労もそれなりに大きくはあるが、色々あったとはいえ皆で帰れたことに一安心して気が抜けた感じだ。

 あとは当然あの件もしっかり考えねえとなぁという、一つ終われば一つやらなければならないことが出てくる気疲れみたいなもんもあるといえばあるけど。

 途方に暮れていた帰る方法。一応ではあるが別の手段に行き着いたことは間違いなく運が良かった。

 とはいえ四肢だの心臓を取り返せって……だいぶ荒事になるよなぁ。

 というか、そもそもの話どうやって奪ったり貰ったりするんだろう。

 アンのやつは代々受け継がれている能力って言ってたから実際に腕を切り落として渡すとかではないと思うが……そこんとこちゃんと聞いておけばよかった。

 どちらにせよまずは誰が持っているかを調べないといけないし、見つかったとして『返してください』とお願い申し上げて終わる話ではないのは間違いないだろう。

 アンですら王女の護衛を務めていて、そのために使う能力で、簡単に譲ってもらえるはずもない。

 しかも返して欲しい理由が俺の都合とくりゃもう交渉の成算なんてあってないようなもんなんじゃねえのこれ。

 俺が日本から来たという事情を説明出来れば多少は話にもなるかもしれんけど、当然ながら簡単に相談出来ることでもない。

 そこに踏み切るなら、諸々を踏まえて真剣に考えた上で行動せねばならないだろう。

 駄目だ、もう頭使うの面倒臭い。帰って風呂に入りながらゆっくり考えよう。

 焦る必要はないさ、少なくとも失われたはずの希望が微かに灯ったのだから。


「あ~、やっと帰ってきた~」


 日が暮れ始めた頃。

 ようやく俺達を乗せた馬車は王都に帰り着いた。

 随伴の兵士から依頼の完了書を受け取り、その足で斡旋所にそれを提出しに行ってギャラを貰ったところで本当の意味で任務完了だ。

「というわけで、約束通りお支払いしますね」

「付き合ってくれてありがとう悠ちゃん~」

 さっそく二人が家賃を差し出している。

 そういえば元々そのための仕事だったね。色々あって忘れてたわ。

 ま、どうあれ今日は心身共に疲労しまくりだし、パーっと自分へのご褒美といこうじゃないか。


「よっし、確かに家賃は受け取った。仕事も無事終わったし皆で飲みにいくぞ! 今日は俺の奢りじゃーーーー!!!」


 もう色んな感情が渦巻いてテンションは迷走状態である。

 たまにはいいじゃない、とにかく飲んで騒いでスッキリサッパリしたい気分なんだ。

 ここで一応整理しておくとしよう。

 本日の収入、俺の分のギャラが三万ディールと家賃二人分で四万ディールで計七万ディール。

 この後の飲み代で半分消えたさ。


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