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【第百四話】 馬車に揺られて


 何をもって出発の時間とするのかも分からないまま外門の前で待つことしばらく。

 徐々に周囲で待機していると思われる人間の数も増えてきた。

 待ち時間自体は適当に雑談でもしてりゃいいのでそう苦にもならないのだが、なまじ最初に絡んでしまったせいでバンダーまで一緒に居る感じになっているのが何だかなぁって感じだ。

 変に話に入って来るからリリとかちょっと遠慮して口数少なくなっちまってるじゃねえか。

 ったく、これだからチャラついた奴ってのは好かんのだ。空気が読めねえから困る。

「何が困るって?」

「いんや、何でもねえさ。つーか、あんたの仲間はまだ来ないのか?」

「さあ? 出発までには来るだろ」

「さあって……いいのかそんなテキトーで」

「この依頼のために急造で組んだだけの野郎だからな。住んでる場所もオフの日に何をしているのかもそれ以外も、詳しいことなんざ知らん」

「急造って、そんなんアリなのか? いやまあ、俺達もノリで三人組になってみたらこの仕事に運良くあり付けた身だから文句は言えんが」

「似たようなもんさ。こういう頭数が必要な時だけチームを組むってのはソロワーカーにゃ普通にあることだ。別に今日初めて組むってわけでもねえしな。見たところそう上級ランクってわけでもなさそうなお前達にゃ分からんだろうがな」

「けっ、何を偉そうに。あんただって同じ依頼受けてんじゃねえか、さてはあんたも金欠族だな?」

「ばーか、ただの見回り組のてめえと一緒にするなっての。俺は万が一の場合に備えての討伐補佐やお前達の安全確保のために国から依頼を受けて来てんだよ。前金もそこそこ貰ってるし、プラス成果報酬だって出る」

「マジかよ、ずりぃな!」

「こればっかりは積み重ねた実績や培った経験がモノを言う世界だからな。ま、お前達ひよっこも頑張れや」

「いやぁ一生無理だと思うわ~……俺達なんて一人じゃ仕事貰えないポンコツが集まって、どうにか人数以外に受注条件の無い仕事回してもらえたってレベルだもん」

「お前さんはどう見てもザ一般人だから分からんでもねえが、頭の上のソレといい足元のソレといいそっちでそっぽ向いてる姉ちゃんといい連れてるお仲間は結構な高ランク揃いに見えるがな」

「……そういうのも分かんのか」

 ジュラなんて今は完全に人間と同じ見た目なのに。

 というか誰がザ一般人だ。ぐうの音も出ねえよ。

「おっと、ぼちぼち出発の時間らしい」

 ほれ、と。

 何言ってんだこいつ? 的な顔になってしまった俺に示すようにバンダーは親指で通りの方を差した。

 なるほど確かに、こちらに向かって馬に乗ったパト何とかの兵士なのか騎士なのかがゾロゾロとこちらに近付いてきている。

 そして傍まで来て馬から降りたかと思うと、俺達全体に向けて声を張った。

 男はダンテ・フラッグスと名乗り、俺達を含めフォールレイス連山に向かう者に集まるようにと呼び掛ける。

 その招集に反応してゾロゾロと待機していた連中が群がると、事前に斡旋所でサインし押印してもらった認可状を提示し確認してもらう流れに。

 そして特に問題無く全員の照会が完了すると、ここからの段取りを説明された。

 バンダーとその相棒とやらを除けば聞いていた通り五組、総勢十七名が共に向かうメンバーで、騎士の方の総数はたぶん二十人ぐらい。

 顔見知りがいないので誰が一番偉くてどんな役職なのかさっぱり分からんが、あのフラッグスという中年の男が一応仕切る立場なのだろう。

 あちらさんが用意した馬車が三台。

 一台は水や食料、衣料品などの荷物を運搬する用。

 そして残る二台に俺達日雇い軍団が分かれて乗って目的地に向かうらしい。

 そんなわけで俺達は促されるまま馬車に乗り込み、王都を離れていくに至る。

 人を運搬するための物ではあるが、一度に大勢を運ぶための仕様なので箱型ではなく荷馬車に幌を張り、中に椅子代わりの木を置いてあるだけの簡素な造りだった。

 俺達三人に加え、自己紹介タイムとかも無かったのでどこの誰とも分からん三人組の若い男女、そして当たり前のようにバンダーとそのツレが同じ馬車になっている。

 ここに座って初めてバンダー相方の存在が明らかになったのだが……一言も喋らないし何かフードかぶってるし顔は黒い布を巻いてて下半分隠れてるしですんげえ不審者なんですけど。

 女子達も態度に出さないようにしてるけど、薄っすら怖がってんじゃねえか。

「おい、大丈夫なのかあんたの相方は。陰キャ臭が半端ねえんだけど」

「いんきゃ? てのはよく分からんが、口数は少ないが仕事はきっちりこなす奴だから問題ねえよ」

「陰キャってのは根暗って意味だ」

「ストレートに悪口カマしてくんじゃねえよ。確かに人付き合いは得な方じゃねえが、こいつはレンジャーだからな。元から目立つのは控える質なんだよ」

「へぇ、戦隊なのか」

「船体? 誰が船の話をしてんだよ」

「え?」

「は?」

 何か話が嚙み合ってないんだけど。

 レンジャーなんだろ? 何とか戦隊的なアレじゃないの?

 まあどうでもいいか。そいつに興味ねえし、話し掛ける気も起きないし。

「んなことよりよ、ちと聞きたいことがあるんだが」

 バンダーは何故か周囲をキョロキョロと見回し、心なしか声を潜めてその上さりげなく手で口元を隠してこちらを見ずに話を変えた。

 まるで人に聞かれたくない話があるかのような仕草だ。

「……何だよ」

「この前一緒に行った仕事の件だ」

「ばっ、急に何言うんだよ。ちょっと移動しようぜ」

 その態度はそういうわけかい。

 ちっとばかりデリケートな問題なんだわ、俺にとっても。

 そんなわけで後部のヘリの部分に移動し、そこで遠ざかっていく王都の景色を二人で並んで眺める。

 女子達は早々に打ち解け、なんか勝手にそっちだけで自己紹介とかしているので話を聞かれる心配はないだろう。

「確かに大声でしたい話じゃねえが、ここまで人の耳を避ける程のもんか?」

 渋々ついてきたバンダーは気にし過ぎじゃね? とでも言いたげだ。

 色々と複雑な事情があるんですよ、それがこのアホには分からんのですよ。

「いや、あの仕事の話ってことはフィーナさんの件だよな?」

「ああ」

「俺の連れに魔法使い風の子がいるだろ? あいつに聞かれたくないんだ。世話になってたというか憧れの存在みたいなとこもあって大変だったんだよ。ショックで寝込んじまってさ」

「おっと、そうだったのか。それは配慮が足りなかったな、だが察してるなら話は早い。その口ぶりってことはお前もミス・エンティーの件は聞いてるよな?」

「そりゃまあ……聞いてるよ。マジで洒落にならん」

「俺が聞いたのは殺されたって話だけだ……俺が知りたいのは誰が何のためにやった? 私怨か? 何らかのトラブルか? ってことだ。お前何か知ってっか?」

「何かって……例の革命の何たらって連中の仕業だろ?」

「革命のって……まさか【革命の灯火(マディス・ソティラス)】か?」

「そう聞いたけど、もしかして……これ言っちゃまずかったのか?」

「公表はされてねえから普通は知らないとは思うが、何故お前は知ってんだ?」

「身内にパト……そう聖騎士団(パトリオティス)に所属してる奴がいてな」

「そういうことか。しかし、何だってミス・エンティーを標的に?」

「こっちが知りてえわ。つーかそういう名前の犯罪者集団が実行犯だとして、そんな簡単にフィーナさんが殺されるってのが信じられねえよ。この国で一番凄い魔法使いだったんだろ?」

「それは間違いない。確かに中身は金と酒とギャンブル好きのダメ人間ではあったが、実力は近年稀に見る大魔法使いであることに疑う余地はないだろう。そもそも何だって連中は今の時代に魔女狩りなんてことをする?」

「それは知らんけど……この国でも結構事件が起きてるのか?」

「年に数度は聞くがな、どこまでが事実で現実なのかは分からんってのが本音さ。奴等自分達が何かを起こせば必ず痕跡を残していく。今回みたく全部が全部公にはなってねえだろうが、魔法使いが死んだり殺されたって話が広まれば必然そういう噂が独り歩きするもんだ。事実であろうとなかろうとな」

「物騒な世の中だなぁ……」

「ま、触らぬ神に何とやらだな。俺ならどんな大金を積まれてもあんな連中とは関りたくないねえ」

「え? ていうかあんた会ったり見たりしたことあんの?」

「あるわけがないだろう。単に構成員の面子にヤベエ名前が聞こえてくるって話さ」

「ああ、そういう」

 そういえば前にレオナが何かそんな話してたな。

 確か一番最初の時だったっけか。何一つ朧気にも覚えてねえけど。

「どういう目的で好き放題してんのかは知らねえが、魔法使いでもない俺達は余程運が悪くなけりゃ出会うこともないだろうよ。どこの国も結構強めに注意喚起してるし、自分から探そうって奴もいないだろうがな。だがお前のツレのちっこいお嬢さんは気を付けておいて損はないぜ? ま、あんなのは災害に似たようなもんだから気を付けてどうなるもんでもないだろうが……」

「ま、それは大丈夫だろ。あれ魔法使いのフリした一般人だから」

「どういう意味だそりゃ?」

 不思議そうな顔をするバンダーを無視して中へと戻っていく。

 その後は特に何が起きるでもなく、何時間かの馬車の旅を謳歌することになった。


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