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【第百一話】 ポンコツ三人組


 何故こうなったのか。

 リリやソフィーが外行きの格好に着替えるのを待ち、三人と一匹で王都へと向かって森の中を歩く。

 リリは毎度の如く白と黒のフリル付きの服とスカートにボーダーのニーハイ、真っ黒なとんがり帽子という例の魔法使いっぽくもありゴスロリメイドさんっぽくもある可愛らしくも方向性がいまいち分からないファッションを、ソフィーは何ファッションというのかは不明な白と黒の混ざったビスチェと短いスカートに腰布を巻き、白いアームカバーと膝下までのブーツという戦士バージョンだ。

 そして足元には双頭狼のリンリンがいる。

 散歩の意味合いが半分、護衛というかいざという時の戦闘手段という意味が半分、仕事を探すという目的である手前自分の武器をアピールする意味合いが半分なんだとさ。

 ……三つある時点で半分じゃなくね?

 というツッコミは今更な気もするので敢えて口にはしなかったが、魔物使いを自称するからには使い手が一人でいても見た目で強さや経験値を推し量る要素がないのでなるほど納得という感じである。

 それを言ってしまえば誰がどう見ても服装だけは魔法使いで、しっかり魔法の杖も持っているリリがその分かりやすい自己存在証明の甲斐も空しく仕事にありつけないのだから格好から入るという発想の意義や重要性もよく分からんな。

 しかし、どうせこの面子で出掛けるならマリアも引っ張り出してこればよかったか?

 いやいや、この前無理言って駆り出したばっかだしな。

 素性とかを考えるとあんまり頻繁に連れ出すのは不味いか。

 そんなことを言ってしまうと奴の引き籠り人生を享受しているみたいになっちまうんだけど……あっちもこっちも難儀な問題だよ。

 あんな森の中にポツンと建っている廃墟みたいなボロ屋で暮らしているぐらいだ、貧乏以外にも理由も事情もはあるわな。

 だからといってずっとそんな生活は母ちゃん許しませんよ。と言いたいのは山々なのだが、なまじ一番金持ってるから偉そうに言えない。

 ただ我が家のエンゲル係数を爆上げしているだけの穀潰しならまだしも、むしろ食費の補填に一番貢献しているんだもの。

 逆に皆で頭を下げなきゃいけないまであるレベル。

 俺は買い出しから調理からやってるからまだしも特に隣を歩く二人はな!

 そういう見方をするのなら定職に就いているどころか庶民にとってはエリート街道を爆心していて一番給料良さそうなレオナは一切食費とかくれないけどね。

 それも今更な話だし、同じことを以前にも思った気がするけどニート二人が甘えている状態で一人朝から晩まで働いているレオナに対価を寄越せとは言えないよなぁ。

「はぁ……」

 あっちもこっちも難題だらけだ。

 いつになったら俺の主たる目的が前に進むのやら。

「どうしたんですか悠希さん? 溜息なんて吐いて」

「いやなに、いい加減お前等を甘やかし過ぎただろうかと考えていたところだ」

「……なぜこのタイミングでそんな誰も幸せになれないような悲しい現実に向き合おうと思ったのですか」

「言ってて虚しくならないか?」

「わたしは出だしこそ人より劣っているかもしれませんけど、きっと大器晩成型なんだと信じていますから」

 ふんすと、胸の前で両拳を握る前向きなリリである。

 そりゃネガティブよりはいいかもしれんけど、そのフレーズ使えばなんでも看過してもらえると思うなよ?

「何だっていいけど、今回は怖い目に遭わない仕事だといいなぁ。そもそも三人になったところで仕事が貰えるのかも分からんけど」

「大丈夫ですよ~。実績的にそこまで危険な討伐依頼は回ってこないでしょうし、その時にはちゃんとうちの子達も同行させますので~」

「そうは言うけど、リリと二人でも幽霊やら巨大猪から死に物狂いで逃げたぜ?」

「結果的にそうなってしまいましたけど、実際問題あれは討伐ではなく調査だけの依頼でしたし、猪に関しても魔獣や魔物の類ではないただの野生動物ですからね……ただそれでも私達の手には負えなかったというだけで」

「何ならリリの人生で唯一輝いた瞬間だったかもな。意図していなかったにせよ、魔法で爆殺したんだから」

「意図していないのにあんな魔法が発動してしまうせいで余計に魔法使いとしての信用度が下がっているんですけどね……とほほ」

「逆に言えばあんな巨大な獣を屠れるポテンシャルはあるわけだから、あとは正しい手順や方法を身に付ければ確かに大器晩成ってのもあながち戯言ではないのかもな」

「戯言だと思われてたんですか!? ひどっ!」

「はっはっは、細かい事は気にするもんじゃないぞ」

 憤慨するリリの抗議の目を笑って誤魔化し、そう言えばと別の事件を思い浮かべる。

 俺史上最も怖い思いをした、あの鬼みたいな野郎とやり合った時のことだ。

「回ってこないって言っても、ソフィーの時はすんげえ化け物退治したよな?」

「オークはランクとしては中級に分類されるので危険度としてはそこそこではありますね~。私個人はそう評価も得ていませんけど、連れている魔物の質や数もあって稀にあのレベルの仕事が回って来るんですよねぇ。そういった部分でも条件や規定がある場合も多い部類の依頼なので条件を満たしている人を優先しなきゃいけませんから」

「なるほどねえ」

 そう考えると、こうやってポンコツが集まっただけであっても三人組であることで紹介して貰える仕事の幅も増すのかね。

 もしそうならとっくに二人が組んで仕事を探すぐらいのことは思い付いていたのでは?

 なんてことを考えるとあんまり関係ない気もするけど。

 とまあ、ほのぼのと雑談に興じているうちに王都に到着。

 足元をテクテクと歩いていた似非ケルベロスことリンリンはいつの間にやらロープで繋がれている。

 曰く他所のペットを威嚇したり食べ物に釣られて勝手に露店に寄って行ったりする癖があるため人が多いところでは大体こうしているらしい。

 人様に迷惑を掛けないようにという心掛けは偉いとは思うけど、もう完全に犬だよ。犬の散歩状態だよ。

 お前には狼としての誇り的なもんはないのか。

「「こんにちは~」」

「ちわーっす」

 もう何度目になるか、異世界ハローワークことお仕事斡旋所に到着。

 その手の仕事を生業にしているフリーター達に国や個人から仕事が集まり、条件に合う人材にそれを斡旋する仲介業者みたいな感じだ。

 例によって受付で名前を書き、個室に通される。

 すぐに現れたのはやっぱり委員長だった。

 何度会っても委員長としか呼んでいないので本名も覚えてないけど、いかにも真面目そうなキリッとした見た目に、まるで他人に笑顔を見せたことなどありませんと言わんばかりの鋭い目付きが特徴的な三十前後と思しき女性である。

「委員長久しぶりっ」

「はぁ……」

「溜め息のみ!? そんなに毛嫌いしなくても……」

「別に嫌ってなどいません。そのイインチョウという謎の呼称で久しく忘れていた貴方の存在を思い出しただけです。溜め息に関してはミルカド・フィーオだと何度自己紹介をすればいいのかと辟易したのだと受け取っていただければ幸いです」

「……はい。すいません」

 取り付く島もない塩対応。

 業務としてここに来ていて、業務として接する以外の余地は微塵も無いときっぱり言われたみたいでフレンドリーにいこうとする俺の心はもう折れそう。

「今日は三人でお越しになったのですね」

「ああ、役立たずも三人集まれば多少は需要もあるかと思いまして」

「よろしくお願いします~」

「お、お願いします」

「そういうことでしたら、丁度良い仕事がございますよ。お国からの要請で、そう難しくもなく、それでいて頭数が必要な依頼が昨日届いたばかりでして」

「ふむ、つまりは質より量と」

「仰る通り」

 ……そこはもうちょっとオブラートに包んでもいいんじゃないの?

 役立たずの部分も全然否定してくれないしさ。

「それで~、どういったお仕事なんでしょうか~」

「三日前、とある地方で魔王軍の残党の可能性がある魔物が目撃されました。その調査です」

「それ絶対物騒なやつじゃん……」

「というか、そういうのって騎士団のお仕事では?」

「勿論現在調査に向かうための準備を進めているとのことです。ですが不確定な情報で大規模な軍隊を送る余裕がないそうで、フリーワーカーにも斡旋するようお達しが。他にも複数のチームが向かうことになっていますし、戦闘の義務や必要性はありません。広い山の中を探索して報告するところまでが仕事となります。要約すると対処は騎士団が、捜索を人海戦術で貴方達が、という役割分担ですね」

「つまり問題や対処の必要性の有無を探すのに人手がいるからこっちから数だけ集めてくれって話?」

「そういうことです」

「それなら、まあ……俺達でも出来る、のか? 二人はどうだ?」

「そうですねぇ、山の中ならうちの子達も有効活用出来るでしょうし、私は特に異論もないです」

「リリは?」

「わたしも、お二人と一緒なら大丈夫そうかなぁと……」

「ちなみにですが、出発は明日の朝、仕事自体は半日程度で完了の予定です。日当は一人当たり三万ディール、個人での受注は不可で最大五組まで、残りは二組となっていますが……」

「「やります」」

「急に!?」

 期間限定割引とかタイムセールに飛び付く主婦かお前等は。

 まあ、仕事が無事決まったのなら何でもいいか。


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