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【第百話】 金出さんかいワレェ


 なんだかんで我が風蓮荘は日常を取り戻した感じがしないでもない翌日のこと。

 実際には俺の知らない所で問題が起きてたりレオナやアメリアさんが事後処理であったりフォローに追われているのかもしれないが、姫様立ち合いの下での約束である以上あっちも無茶をしたり腕力や権力に頼って取り決めを反故にすることは出来ないだろう。

 だいぶ後先考えずに突っ走った感は否めないけども、ひとまずは解決したと思っていいはず。

 つまりは今日からまた平穏なニートの巣窟である風蓮荘が始まるわけだ。

 それに関しては大いに不安もあるが、この日ばかりは寛容な心で目を瞑ってやろうじゃないか。

 何でかって?

 はっはっは、何を隠そう今日は家賃回収の日なのだ。

 いやあ長かったなぁ。

 やっと俺のまともな収入源が日々の労働への対価をもたらしてくれるってわけだ。

 そうと決まればさっそく寮母から取立人へとジョブチェンジ。

 すぐに回収してやんぜ。待ってろ金!

 とまあテンション爆上がりなわけだけど、ぶっちゃけ朝起きたらダイニングテーブルの上にレオナの書置きと共に金が置いてあったのを見て初めて思い出したんだけどね。

 この世界に一月という単位があるのかは知らんが、三十日ごとに一人二万ディールが契約上の賃貸料。

 すなわち本日の俺の収入は八万!

 当初の予定に照らし合わせて計算すると、三十二年ぐらい管理人を続ければ日本に帰るための金が貯まるって寸法よ。

「…………………………」

 馬鹿だろこの計画。

 達成する頃には俺五十歳じゃねえか。

 しかも生活するために消費する金とか全く計算に含まれてないしよ。

 強制的にリリに半分払わせるとしても十六年?

 非現実的過ぎる……実際にはニート軍団の傭兵というか便利屋稼業みたいなの手伝ったりマリアに飯代として小遣い貰ったりしてるからもう少し収入はあるとはいえ、三分の一にしても十年で達成可能ですって話になったところで受け入れられないっつーの。

「はぁ……」

 とはいえ、現実問題どうすっかなぁ。

 何か別で商売でも始めるか?

 その方法も道筋もぜんっぜん分からんし、そもそもフィーナさんいなくなっちゃったから今ここに三千万が降って湧いてところで帰れないんだけども。

 ……やめやめ。

 難しいこと考えたって気力が失われるだけだ。

 日々やれることをやる。そして諦めない。

 開き直ってでもそうするって決めたはずじゃないか。

 ここには助け合える仲間がたくさんいるんだから。

「おら~、マリア~。起きろーい、家賃払えー」

 というわけでまず二階にあるマリアの部屋に突入。

 最近じゃこうしてノックも無しに入るのが当たり前になっている。

 どうせ返事ねえし、大体寝てるし、本人がそうしろって言ってるし。

「んん……」

 相変わらず床に丸まって布団を被っているマリア。

 それでも俺の声には反応を示して瞼をピクつかせることで聞こえてますアピールをしてくれる。

 ちなみにリリが起こしに行っても終始無反応らしい。

「二度寝していいから一旦起きろマリア~」

「…………ご飯?」

「いや、それは今からだ。家賃回収に来たから金払え、やれ払え、すぐ払え」

 体で払え。

 と付け加えそうになったがギリギリ思い留まった。

 それを言ってしまえば俺が多額のお釣りを払う立場に追い込まれかねない。

「ん……勝手に、とっていい」

「そういうわけにはいかんだろ。人様の金銭に触るのは後から問題になった時に困るだろ?」

「別に、困らない。全部あげるって、いつも言ってるのに」

「だーめ、俺が金に目が眩む前に家賃分だけくれ。俺だって聖人じゃないんだ、金だってお前の体だっていつ欲望に負けて好きなだけいただいちゃおうって気持ちになるか分からないんだからな」

「ん~……」

 理屈や言い分が通じているのかいないのか。

 マリアは大層面倒臭そうに薄目を開け、片腕だけをベッドの方に伸ばしたかと思うとマットレスの下に隠されている溢れんばかりの札の山から無造作に何枚かを握りしめ、俺の方に差し出した。

 布団から出る事すらせずに。

「いや多い多い」

「……じゃあ、この先の分」

「何回分か分からんぞ、ちゃんと数えないと……」

「テキトーでいい。余ったら、ご飯代。どうせずっと悠希と一緒だから、好きに使って」

「……そりゃプロポーズか?」

「坊主?」

「全然ちげえ」

 と突っ込んだ時にはもうマリアは寝息を立てていた。

 相変わらず無頓着な奴だ。

 もういいや、俺が頑張って欲望に負けないようにしよう。

 平気で素っ裸を晒されりゃばっちり欲情寸前になるんだから、せめて金に関してはちゃんとしないとね。

 というわけで計七万五千ディールをマリアから回収。

 三か月分の家賃と、残りは希望通り飯代に充てさせてもらうことにした。

 そのまま一階に下りる。

 なぜ二人を後回しにしたのかというと、二人は揃って茶を飲んでいたからだ。

 ダイニングに入るとテーブルに向かい合い朝のティータイムを嗜むリリとソフィーに笑顔で声を掛けた。

「よ、お前等おはよう」

「悠希さん、おはようございます」

「おはよございます~」

「飯はサッと作るからちょい待ってくれな。あと先に言っておくけど、家賃払え」

「「…………てへっ」」

「おい」

 二人揃って笑って誤魔化しやがったよ。

 大体そんなことだろうと思ってたけどさ。

 ソフィーはペットや同居人達の飯代とか大変そうだもんなぁ。

 リリも魔法の指南書を閲覧したり練習用のスクロール? とかいうのが金掛かるって言ってたしなぁ。

 皆苦労してるよ、そのぐらい俺だって分かってるし理解もしてるさ。

 だから、俺が掛けてやれる言葉なんて一つしかない。

「二人とも、今までありがとうな。短い間だったけど楽しかったぞ」

「「即決で追い出そうとしないでくださいっ!」」

「そうは言うがなぁ、これは社会の常識だぞ? ただでさえクソ安くて大した収入にもなってないような価格設定だってのに、それすら払ってもらえないなら日々家事に勤しんでる俺の働きへの対価は? って話じゃん」

「お支払いの日が近いことはちゃんと把握していたんですけど~、先日の宴会で結構な散財をしちゃいまして……」

「怒り辛いこと言うなよ……」

「で、でもっ、わたしもソフィアさんもその分頑張って仕事見つけてお渡しで出来るようにしようってちゃんと考えてはいたんです」

「そりゃ立派な心掛けだけどよ……心掛けだけは」

「私も朝食が済んだら仕事を探しに行くつもりでいたんです~。だから少しだけお待ちいただけたらなぁと」

「わたしも同じです。頑張って仕事探しましょう、勿論悠希さんも手伝ってくれますよね?」

「何でだよ!? 俺は管理人であって便利屋稼業なんてやってねえんだぞ」

「だって一人じゃお仕事貰えないですもんっ」

「偉そうに言うな。大体お前と一緒の仕事とか上手くいった試しがないだろ」

「そこはほら、諦めない気持ちってやつです。それが大事だって言ったのは悠希さんです」

「その気持ちを否定はしないけどさ……大体ソフィーと違って化け物と戦ったり身を守る術がねえじゃん。どんだけ怖い思いしてんだよ毎回毎回」

「そこは気合で何とかしますから。わたしだって魔法使いの端くれですし」

「……でも魔法は使えないんだろ?」

「勿論です」

「勿論です、じゃねえんだよ! それもうただの一般人だから! 何なら俺より弱いだろお前!?」

「そう言われましても……そこは今後の成長に乞うご期待といいますか」

「だったらせめて【魔法使い】じゃなくて【魔法使えない】を自称しろってんだ。ソフィーは【魔物使い】改め【魔物に使われ】な」

「そんな格好悪いの嫌ですっ」

「同じく、と言いたいところなんですけど~、あながち否定出来ないのが辛いところです~……とほほ」

「はぁ……それは冗談としても、一日二日待てば大丈夫なんだな?」

「仕事が見つかれば、ですけど……」

「でしたら折衷案として三人で斡旋所に行くというのはどうでしょう? ソロよりも何倍も受けられる仕事の幅が増えると思うんですけど~」

「ソフィアさん、天才ですね!」

「待て待て、そもそも俺に参加する意思が無いっていう論点が消滅してんじゃねえか。何と何の間を取って折衷案とかほざいてんの?」

 言葉の意味知ってる?

 ニコニコしてたら何でも許されると思うなよ?

「悠ちゃん~、そこを何とか~」

「お願いします~」

「分かったよもう。ほんっとに今回だけだからな」

「「わ~い♪」」

 ちくしょう、結局断り切れない俺のヘタレっぷりが憎い。

 だってしょうがないじゃん……家賃払うために危ない仕事してでも金作ってこいなんて言えないもん。


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