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【プロローグ】 目が覚めると、そこは異世界でした

1/3 台詞部分以外の「」を『』に統一、変更


 目が覚めると、そこは見知らぬどこかだった。

 ベッドの上で漫画を読んでるうちにウトウトしてしまったことは何となく記憶にあるのだが、今目の前に広がる光景からしてまず間違いなくここは俺の部屋ではない。

 というか、そもそも屋内ですらない。

 辺り一面緑、緑、緑。

 森の中……なのか林の中なのか山の中なのかなんてはっきりしないがとにかく、木々に囲まれた自然のど真ん中にいるということけは視覚から得る情報によって理解出来た。

 学生寮の一室で寝ていた俺がなぜそんな場所に居るというのか。

 理由なんて存在しない。そんなことが現実にあるはずがない。

 だからきっと、俺はまだ夢の中に居るのだろう。

 それを確かめる意味も込めて、どうせ夢なんだったらというか、せっかくの夢なんだしということでこの状態になった時からずっと目の前に立っている誰とも知らない少女の胸を揉んでみることにした。

 すると意外というか予想外というか、普通に絶叫的な悲鳴を上げられた挙げ句に思いっきりビンタを食らっていた。そして普通に痛かった。

 つまりこれは……夢ではないということらしい。


「ないらしい、じゃないですよっ!! 何を至極冷静に言ってるんですかっ! 何の脈絡も無しに女子の胸を揉むなんてなななななんて破廉恥なっ」


 謎の少女は地面に座る俺に対し、顔を真っ赤にしながら抗議めいた口調でそんなことを言った。

 小柄な体躯からの印象を差し引いても恐らく俺よりは年下だろう幼い顔立ちをしているため怒っているのか拗ねているのかがいまいちはっきりしないが、言っていることは正論極まりない。

 ちなみに俺は十七歳高校二年生。

 なんてことはさておき、結局のところこの子は誰なんだろう。そしてここはどこなんだろう。

 という当然の疑問もさることながら、なぜこんな森の中でそんなおかしな格好をしているのだろうかという疑問の方がどちらかというと謎さ加減の度合いも強いように思う。

 少女は白と黒のフリッフリした服とスカートを身に着けていて、更にはボーダーのニーハイという一見するとゴスロリっぽい服装をしているのだが、短めのボブヘアっぽい髪型をした頭に乗った黒いとんがり帽子や同じく黒いマント、そして手に持った変な木の棒を見るに、どちらかというと魔女のコスプレといった方がしっくりくる格好をしている。

「心配しなくても手のひらサイズにしてはちゃんと柔らかかったぞ?」

 ひとまず疑問をぶつける前に会話を成立させなければと、言葉を返してみた。

 目を覚まして一分か二分かにしてようやくの初会話だったのだが、なぜか少女は憤慨する。

「そういう問題じゃないですっ!! ていうか人が気にしていることをサラっと言わないでくださいっ!!」

「ちょい待ち、言いたいことは分かるけど今はあんたのちっぱいのことは置いておこう。それよりもだな、ここはどこなんだ? ていうか何で俺はここにいるんだ? 誰にどうやって連れて来られたんだ?」

 言うと、少女は『ちっぱいとな!?』と、大袈裟に仰け反ったが、いい加減事態の把握に努めなければわけが分からんままなので俺は無視して話を進めることに。

「俺は確かに部屋で寝てたはずなんだ。なのに起きたらここにいて、目の前にはあんたがいた。あんた何か知ってるんだろ?」

「あ、あー……それは、ですねぇ」

 良い淀む少女はもの凄~く気まずそうな顔で、その上あからさまに目を逸らされていた。

 やはりこの子は事の次第を知っているとみて間違いなさそうだ。

 はぐらかされては洒落にならんと眼力による無言の圧力を掛けること数秒。

 さすがに観念したのか、少女は再び俺を見ると一転いやにしおらしい顔で両膝をつける格好で俺の前に屈むと、

「あの……怒らないでくれますか?」

 恐る恐るといった風にそんなことを言った。

 何故そんなことを確認するのかはさておき、責任の所在がはっきりした気がする

「まあ……流石に内容によりけりとしか言えないけど、大抵のことはさっき胸を揉んだことと相殺してやってもいい」

「う……なんだか釈然としませんけど、こうなった責任はわたしにあるので説明しないわけにはいきませんし、ひとまずお話しします」

「ああ、頼む」

「まず最初に言っておくべきことがありましてですね、見ての通りわたしはフリーの魔法使いをしているんです」

「ほう、自由なのか」

「いや、そういうフリーじゃないですから。要するにですね、国に仕えていたり、どこかのギルドなどに属していない、という意味です。といっても別に一匹狼を気取っているわけではなく単純に魔法が全く使えないからお呼びが掛からないだけなんですけど……」

「魔法が全く使えないって……それはもう魔法使いとは言えないんじゃねえの?」

「そ、そんなことありませんっ。わたしだって代々魔法使いの家系に生まれた子供なんです、頑張ればすぐに立派な魔法使いになれます。わたしはきっと大器晩成型なんですっ」

「あー、なるほどそうかもねー……って、んな話は今はどうでもいいんだよ!」

 あまりにイラっとしたので胸ではなく今度は少女の頬を両手で揉みしだいてやった。

「にゃ、にゃにをしゅるんでひゅかー……」

「あのな、今はあんたの趣味の話に付き合ってやる余裕なんざねえんだっての! 端的に分かりやすく事実だけを述べろ」

「だ、だからそれを説明しようとしてるんじゃないですかぁ。大体趣味ってなんのことですか」

 少女は両手で頬をすりすりしながらも唇を尖らせる。

 本気で心外だと思っていそうなその顔に、もう冗談なのかどうかもよく分からない。

「趣味ったらその趣味だろ。コスプレだかコミケだか知らんが、そういうのは仲間内とオタク相手にだけやっとけ」

「こすぷれ? こみけ? なんだか初めて聞く言葉ですけど、とにかくふざけてないで最後まで話を聞いてください」

「なぜ俺が逆ギレされねばならん……それも一人でふざけた格好してる奴に」

 解せぬ。

「さっきも言いましたけど、わたしは魔法使いなんです。でも魔法が使えないんです」

「お、おお……確かにそれはさっき聞いたけども」

 まだその話続けんのかよ。

 あんまナメてっともっぺん乳揉むぞコノヤロー。

「だからこうやって日々人知れず特訓をしてるんです。それで、今日は少し難しい召還魔法に挑戦してみようと思って……」

「召還魔法ぉ~?」

「はい。成功すれば魔界に居るモンスターと契約が成立して、召還獣として味方に付けることが出来るんですけど、どういうわけか人間であるあなたが召還されちゃったということみたいで……早い話が案の定失敗しちゃったということですね。テヘっ♪」

「テヘっ♪ じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 絶叫と共に、もう一度ほっぺを全力で揉みしだいてやった。

 それはもう両手で手でこねくり回すように、引っ張ったり伸ばしたりしまくってやったさ。もうピザ職人になれるんじゃねえかって勢い。

「にゃ、にゃにしゅるんでふか~!!」

「うるっせえ! 何が召還魔法だ、んな話聞かされて『はいそうですか』ってなると思ってんのか! テレビでよく見るハトとか出すあれはれっきとしたマジックだ」

「テレウィってなんれすか~、というかほっぺを揉まらいでくらはい~」

「お前の魔法使いごっこはどうでもいい。とにかくここがどこかをまず教えろ。何市だ、名区だ、何町だっ!」

 手を離すと、少女は自分の頬をさすりながら涙目で俺を見上げる。

 しかし、抗議その他は一切受け付けん、質問にだけ答えろ。と眼力で告げると、さすがに俺が怒っている原因が自分にあることを自覚しているのか不満を飲み込んだことが分かった。

「ここはリーゼルハート王国の南部にある王都シュヴェールとカルネッタという村の中間付近にある森の端っこで、えっと、あと、それから……質問はなんでしたっけ?」

「うん、悪いんだけど、その前に最初の回答からして全然分かんねぇから。何王国だって?」

「リーゼルハート王国ですけど……」

「どこだよそれ……聞いたこともねえよ。普通に日本の地名で答えてくれるかな」

「ニホン?」

「…………」

 本気で不思議そうな顔をする少女に、もはや返す言葉が無かった。

 もう全然会話が噛み合っていないというか、お互いが相手の言っていることが理解出来ていない。

 それでいて、この期に及んでこの子が冗談半分やドッキリで魔法だの王国だの言っているとも思えない。

「……一つ、聞いてもいいか」

「はい?」

「もう怒ったり怒鳴ったりしても拉致があかないし、まずお互いに相手の言葉を真面目に受け止めるところから始めよう。あんたもそれでいいな?」

「そうですね、怒ったり怒鳴ったりしてるのはあなただけでしたけど」

「ああん?」

「な、なんでもないですっ」

「とにかく、だ。あんたはふざけてるわけじゃないんだな?」

「はい……さすがにこの状況でふざけられるほど脳天気ではないですし」

「だったら、その魔法云々や何とか王国ってのも本気で言ってると思っていいんだな?」

「はい……」

「つまりここは日本ではないと、そう言うんだな?」

「ニホンというのがどこの国の町なのかは知らないですけど、少なくともわたしは聞いたことがありませんし、仮にそれがわたしの無知ゆえのことであったとしてもここはニホンという地名ではないことは確かです」

「正直言って俺からすればその何とか王国だって聞いたこともないし、あんたに召還されたせいでここに居るって理屈もさっぱり理解出来ない。だけどさっき言った様に否定したって話が進まないことも確かだと思わないでもない。だから何でもいい、何かしらあんたの言ってることが事実だって証拠を見せてくれ。そしたらひとまず受け入れて話を聞けると思うんだ」

「証拠と言われましても……魔法使いであることを証明しようにもわたしは魔法使えないですからねぇ」

「…………」

 う~ん、と。悩ましげに言う少女に普通にイラっとした。

 無意識に眉間にしわが寄っていることを自覚すると同時にこめかみがピクついているのが分かっちゃうレベル。

「お、怒らないって約束したじゃないですか」

「約束なんざしてねえ。それにこの状況からして一回胸揉んだぐらいじゃ割に合わん。あと五回は揉ませてもらわないと」

「い、嫌ですそんなのっ」

 少女は慌てて自分の体を腕で包むようにして胸元を隠した。

 さすがにそれは冗談だけども、兎にも角にも言葉一つでそんな突拍子もない話を鵜呑みにすることは出来るはずもない、と言いたいわけだ。

「魔法使いだなんだは置いとくとしても、お前のせいで今俺はこんなところにいるってことは事実なんだな?」

「は、はい……それは本当にごめんなさいとしか」

「別にもう責めたり怒ったりするつもりもないし謝らなくてもいいから、さっさと元居たところに返してくれ。もうそれだけでいいから」

 それで万事解決。と思いきや、なぜか少女は笑った。

 まるで『面白いこと言うね~君』とでも言いたげな冗談めいた会話の最中であるかのように。

「やだな~、召還魔法も使えないわたしがより高度な転送魔法なんて使えるわけないじゃないですか~」

「なに笑ってんの君。よし、歯ぁ食いしばれ」

「何かしらを揉むという罰から突如として純然たる暴力に変わってます!?」

 あからさまに身の危険を感じている風の少女のツッコミなど無視し、おもっきり指をバキバキ鳴らしてやった。

 ようやく俺の怒りが本物であると理解したのか、その結果『どういう状況なのか』ではなく『これからどうするべきか』という話へと辿り着く。

「わ、わたしには無理ですけど町に行けば大丈夫ですっ。王都シュヴェールには一流の魔法使いの方もいて、頼めば転送魔法を掛けてもらえるはずなので。そういう仕事も請け負っている人が居ることは確かですから」

「だったら早いとこそうしてくれ……全てにおいてわけわかんねえままだけど、自分の部屋に帰れりゃ何でもいいわもう」

 ようやく知ることが出来た現状打破の方法も相変わらず意味はさっぱり分からなかったが、どうあれ元に戻れる方法があったというだけでもう安堵の息が漏れると同時に脱力するのを感じる。

「分かりました。では行きましょう、シュヴェールへ」

 そう言った少女に付いていった先にあったのは、確かに日本でも東京でもない、それどころか現実にあるはずのない世界だった。

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