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第2話 お兄ちゃんとお話をしよう

伊秩家の2階の角にある立夏の部屋。


久々に入った立夏の部屋は、脱いだ服やゲーム機、漫画などでぐちゃぐちゃになっていた。


ゆ、床が見えない…


「…落ちてるのは服や漫画ばかり。でもゴミはちゃんと捨ててるんだねお姉ちゃん」


と、同じく久しぶりに立夏の部屋と入った秋菜は、散らかった立夏の部屋を見渡しながら言った。


「秋菜よく気付いたね…まぁ、そう。漫画やゲームや服はアレだけど、カップ麺の容器やペットボトルみたいなゴミはちゃんと捨ててるんだよ」


と、目は伏せながらもきっぱり言い張った立夏。

このとっ散らかった部屋の主はこれで綺麗を保ってると思っているらしい。


「いやしかし、ゴミは無いとは言え…汚いなこの部屋」


今俺が立っているこの場所も、多分何か衣類の上だ。









「何か騒いでるな…と思って来てみたら、裸のお姉ちゃんがお兄ちゃんの前でお兄ちゃんのパンツ持ってて…一種の修羅場に出くわしたかと」


「あー…まあ、修羅場っちゃ修羅場なのか?」


あの風呂場事件の後。


変に取り乱す立夏に服を着せ、とりあえず血塗れのパンツは洗濯機の中へ放り込み、


何も無かった事にして部屋へ戻ろうとした俺。


背後で錯乱する立夏に、マントルすら貫通するのでは…ってくらいの鋭い視線を俺に向ける秋菜。


この場にいたら多分俺のメンタルが持たない。


身の危険を感じ、早期撤退を試みる俺。




しかし…


今俺の目の前には、日頃同じ家にいても全くエンカウントしない立夏がいる訳であって、これは1つのチャンスではないか? と俺。


色々と物申したい事があったり、逆に聞きたい事だってある。


これは…


「あー…じゃ、じゃあアタシ部屋に戻るね」


と、俺と同じくさっさと退散! の構えを見せた立夏の腕を俺は咄嗟に掴む。


「えっ…な、何? あ、兄貴?」


「…なぁ立夏。こうして久々に会ったんだ、たまには…お兄ちゃんとお話でもしないか?」


俺は悪代官みたいな、ニタァ…っとした笑みを浮かべる。


「あー…いや、べっ別に話すこと何か無いし…」


「なぁ立夏…お兄ちゃんは久々に妹に会えて感激してるんだ。同じ家にいても全く会えない…愛しの可愛い妹に会えて…感激してるんだよ」


「やだっ…キモい…」


「…お兄ちゃんそれ普通に引く」


「あ、秋菜は黙ってろっ! …おっほん。で、だ…立夏…今から…


お前の未来について語ろうではないか」








そして冒頭に繋がる。


俺から逃げられないと悟ったらしい立夏は渋々ながら交渉に応じ、こうして自室に俺と秋菜を招き入れたのだ。


…この汚部屋に。


「ちょっとは片付けろよ…これ虫湧くぞ」


立夏の部屋は床一面に服や服や服、ゲームにマンガに服にマンガに服。それと服。


部屋にある本棚には埃が雪のように積もり重なり、よくよく見ると蜘蛛の巣まで張ってある。


部屋の天井からぶら下がる照明も半分切れかかっていて、どうも部屋全体が薄暗い。


…まあ本人が言った通り、食べ物のゴミやペットボトル、ティッシュやビニール袋など…いわゆるゴミと呼べる物は殆ど無かった。


「何でそこだけキッチリしてんだ…」


本当謎である。


「で…話って何話すの? アタシ3時からネトゲのイベでギルド行かなきゃなんだけど」


3時…もちろん深夜の。


半分やさぐれ気味にPCの電源を入れる立夏。

俺や秋菜がいるのに御構い無し。


…ここは早く本題に入った方が良いな。


「よしニート、ちょっとお兄ちゃんとお話タイムだ。いいか? いいよな?」


「よくはない」


ブォーンっと電源の入ったPCのファンが回り出す。


「…単刀直入に言うぞ、いいな?」


「よくない」


カチカチとキーボードを叩き、PCのパスワードを入力する立夏。


「よし、じゃあ…えっと、立夏。お前はいつまでも部屋に閉じ籠ってゲームばっかりしてないで…」


「……」


チャラララ〜ンっとPCのスクリーン上でネットゲームが起動した。


「部屋に閉じ籠ってゲームばっかりしてないで……ちょっとは部屋から出て、お兄ちゃんのところに来て、お兄ちゃんの話し相手になりなさい!」


「…だから言っていいよってひと言も…ん? え?」


そこで画面を見ながら、は? とフリーズ処理を起こした立夏。


「えっ、何? 兄貴の話し相手?」


「そう、話し相手!」


俺は胸をはって答える。


「お兄ちゃんね…大学でも友達いないし、帰って来たって秋菜は毒しか吐かないし、話し相手に飢えてるの!」


「…お兄ちゃんキモい」


俺の背後では冷たい視線に毒暴言を添えた、痛い感情を丸出しで蔑み体制に入っている可愛い可愛い妹の秋菜ちゃんが。


高校3年生って難しい。


「立夏よ…本当は俺がニートになりたいぐらいなんだよ。話し相手いない、大学つまらない、授業難しい、課題の提出怠い、おまけに秋菜は冷たい。…本当お前だけだよ、こうやって気軽に本音が話せるのは」


「えー…ってか、今兄貴の後ろに秋菜いるじゃん。めっちゃ私以外の人の前で本音言ってるじゃん」


PCのスクリーンから視線を逸らし、チラっとこちらを向いた立夏。


「大丈夫大丈夫、今秋菜はここにはいない。俺の後ろにいるコレは秋菜の形をした人形だから。いや本当お前にだけ本音言ってるから」


「…は?」


後ろから聞こえる、一音の威圧。


人間どうやったらここまで威圧感を出せるのか。


……ちょっと後ろの人形にちゃちゃを入れてみる。


「…おっ、秋菜ちゃん人形がしゃべった!すげぇ!」


「…このクソお兄ちゃんがっ」


刹那、突如として俺の後ろにいた秋菜ちゃん人形が拳を握り、俺のこめかみをグリグリ。


「ぎゃ!痛いっ! 痛いっ待ってっ!」


「待たない。待てない。待ってやらない」


グリグリ


「ぎゃあああぁぁぁっ!!」


こめかみとは人間の急所である。

人間ここを強く強打すれば普通に死ぬ。


命の危機を、感じた。


「…ちょっと兄貴静かにして。ゲームの邪魔なんだけど」


目前ではすでにこっち無視でゲームを始めてる立夏。


おおっ…何だこの状況は。

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