第15話 1/3の奇跡
何だこの人生ゲーム…って思った。
この前押入れを漁っていた時に見つけた、どこか懐かしいボードゲーム。
懐かしい思い出はニートを殺す…とは言ったもので、
昔これで従兄弟たちと遊んだ事を思い出して…軽く鬱りかけた。
けど、アタシは昔からこの手のアナログゲームが大好きで、こうして人生ゲームを所持しているくらいに好きな訳であって。
たまには…誰かとこういったゲームをしたいな。
ワイワイ騒いで、楽しくやりたいな。
…まぁニートには難しい話か。
そんな中、偶然兄貴が持ちかけてきたゲーム対決。
兄貴がアタシをこの部屋から出してくれる救世主と見込み、果たしてそれは運命なのか? と、運で勝敗が決まるようなゲームの提示を鑑みた。
偶々。本当偶々に発掘した人生ゲーム。
ここで使わない訳がない、と振ってはみたものの。
その人生ゲーム…これが中々に、ニートのアタシのメンタルをえぐり出してきて。
アタシだって、今の環境には罪悪感を感じてる。
働かずにこうやって閉じこもって…これが良くないことだと分かっている。
そこを見事に突いてくるかのような、マス目の指示の数々…
ただのゲームのハズだった。
大好きなボードゲームをやるだけのハズだった。
何故かアタシは泣いていた。
ボードゲームのマス目の内容を、想像してしまったから。
家が燃える? そんな未来。
これはちょっと物理的過ぎだけど。
秋菜が学校卒業して就職して、アタシより立派な役職に就いて、家を支えて。
アタシが働かないせいで家に借金が出来たら?
ニート故に、いろいろな迷惑が、いろんな人に掛かる。
いろんな未来を想像したら、怖くて怖くて涙が出てきた。
アタシは、除け者になるだけ。
たかだか人生ゲームのマス目の話。
だけどこの人生お先真っ暗ゲームは…見事にアタシの未来を表してるかのようだった。
スタートから先へ進めない…そんな恐怖。
踏み出しても踏み出しても、気持ちが弱ければ結局はスタートへ戻ってきてしまう。
たとえ進めたとしても、今のニートのアタシには真っ暗な未来しかない。
すごく…その恐怖を、今更になって…身近に感じ始めていた。
なら、さっさとニートを脱却すれば良い。
って前にも言った気がするけど、もう1年も引き篭もり続けたアタシが外に出るには、何かきっかけが欲しかった。
我ながらなんと面倒くさい人間。
素直に今、この瞬間に部屋から出てリビングへ行って、家族に会って謝って、
ハローワークに行ったり、何なら最初はフリーターからでも、とにかく外に出れば良いだけの話。
けれど、ニート癖とは悪いもので。
あれだけ人生ゲームで現状の恐怖を知ったとて、今更という羞恥がアタシの足を引き止めている。
兄貴がゲームに勝てば、約束として部屋から出ると公言した。
しかし、兄貴はアタシに気を使ってゲームの中止を申し出た。
確かにあの人生ゲームは辛い…けど、
アタシに差し込む光が、消えるのは、
もっと辛い。
今更自分から部屋からなんて出れない。
これはただの傲慢だ。
今に現状に恐怖を感じたなら、羞恥など捨てて動け!
けれど、やっぱり1人じゃそれもそれで怖いんだ。
我がままだ、停滞だ。
だから、兄貴が…せっかく光った救いの手が、
消えるのは嫌だ。
今が多分一番のチャンスなんだ。
この流れに乗って、兄貴が照らす光の道を歩いて、
アタシは外へ出る。
兄貴…ニートのアタシに勝負で勝って、
アタシを外へ…出してくれ。
「アタシと…ジャンケンしよう。兄貴が勝ったら部屋から出る。アタシが勝ったら秋菜の前でフルチンね」
気が付けば、無くなる流れになりかけていた勝負を、再びのものにするため、
アタシは突拍子のない提案を兄貴にしていた。
「…えっ?」
アタシの突然の提案に、一瞬困惑する兄貴。
…アタシは泣いていながらも、内心では強がる。
秋菜の前で兄貴に恥をかかせてやる、と言う建前。
アタシにジャンケンで勝って、アタシが外に出る口実になって、と言う本心。
本当に…アタシはなんて我がままなんだ。
暫くしたら、兄貴も覚悟を決めたらしく、ジャンケンをする体勢に入った。
1/3の、奇跡を信じて。
どうか…ニートを卒業出来ますように。