表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

第15話 1/3の奇跡

何だこの人生ゲーム…って思った。


この前押入れを漁っていた時に見つけた、どこか懐かしいボードゲーム。


懐かしい思い出はニートを殺す…とは言ったもので、

昔これで従兄弟たちと遊んだ事を思い出して…軽く鬱りかけた。


けど、アタシは昔からこの手のアナログゲームが大好きで、こうして人生ゲームを所持しているくらいに好きな訳であって。


たまには…誰かとこういったゲームをしたいな。


ワイワイ騒いで、楽しくやりたいな。


…まぁニートには難しい話か。










そんな中、偶然兄貴が持ちかけてきたゲーム対決。


兄貴がアタシをこの部屋から出してくれる救世主と見込み、果たしてそれは運命なのか? と、運で勝敗が決まるようなゲームの提示を鑑みた。


偶々。本当偶々に発掘した人生ゲーム。


ここで使わない訳がない、と振ってはみたものの。


その人生ゲーム…これが中々に、ニートのアタシのメンタルをえぐり出してきて。


アタシだって、今の環境には罪悪感を感じてる。


働かずにこうやって閉じこもって…これが良くないことだと分かっている。


そこを見事に突いてくるかのような、マス目の指示の数々…


ただのゲームのハズだった。


大好きなボードゲームをやるだけのハズだった。


何故かアタシは泣いていた。





ボードゲームのマス目の内容を、想像してしまったから。


家が燃える? そんな未来。

これはちょっと物理的過ぎだけど。


秋菜が学校卒業して就職して、アタシより立派な役職に就いて、家を支えて。


アタシが働かないせいで家に借金が出来たら?


ニート故に、いろいろな迷惑が、いろんな人に掛かる。


いろんな未来を想像したら、怖くて怖くて涙が出てきた。


アタシは、除け者になるだけ。


たかだか人生ゲームのマス目の話。


だけどこの人生お先真っ暗ゲームは…見事にアタシの未来を表してるかのようだった。


スタートから先へ進めない…そんな恐怖。


踏み出しても踏み出しても、気持ちが弱ければ結局はスタートへ戻ってきてしまう。


たとえ進めたとしても、今のニートのアタシには真っ暗な未来しかない。


すごく…その恐怖を、今更になって…身近に感じ始めていた。









なら、さっさとニートを脱却すれば良い。


って前にも言った気がするけど、もう1年も引き篭もり続けたアタシが外に出るには、何かきっかけが欲しかった。


我ながらなんと面倒くさい人間。


素直に今、この瞬間に部屋から出てリビングへ行って、家族に会って謝って、


ハローワークに行ったり、何なら最初はフリーターからでも、とにかく外に出れば良いだけの話。


けれど、ニート癖とは悪いもので。


あれだけ人生ゲームで現状の恐怖を知ったとて、今更という羞恥がアタシの足を引き止めている。


兄貴がゲームに勝てば、約束として部屋から出ると公言した。


しかし、兄貴はアタシに気を使ってゲームの中止を申し出た。


確かにあの人生ゲームは辛い…けど、


アタシに差し込む光が、消えるのは、


もっと辛い。


今更自分から部屋からなんて出れない。


これはただの傲慢だ。


今に現状に恐怖を感じたなら、羞恥など捨てて動け!


けれど、やっぱり1人じゃそれもそれで怖いんだ。


我がままだ、停滞だ。


だから、兄貴が…せっかく光った救いの手が、


消えるのは嫌だ。


今が多分一番のチャンスなんだ。


この流れに乗って、兄貴が照らす光の道を歩いて、


アタシは外へ出る。


兄貴…ニートのアタシに勝負で勝って、


アタシを外へ…出してくれ。






「アタシと…ジャンケンしよう。兄貴が勝ったら部屋から出る。アタシが勝ったら秋菜の前でフルチンね」


気が付けば、無くなる流れになりかけていた勝負を、再びのものにするため、


アタシは突拍子のない提案を兄貴にしていた。


「…えっ?」


アタシの突然の提案に、一瞬困惑する兄貴。


…アタシは泣いていながらも、内心では強がる。


秋菜の前で兄貴に恥をかかせてやる、と言う建前。


アタシにジャンケンで勝って、アタシが外に出る口実になって、と言う本心。


本当に…アタシはなんて我がままなんだ。


暫くしたら、兄貴も覚悟を決めたらしく、ジャンケンをする体勢に入った。


1/3の、奇跡を信じて。


どうか…ニートを卒業出来ますように。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ