第13話 人生が辛くて流す涙
俺はそっと、この人生ゲームが入っていた箱を持ち上げ、タイトルを確認。
「人生お先真っ暗ゲーム…うわっ」
最初に立夏が持ち出してきた時点で確認しておくべきだった…
人生ゲームの皮を被った、パチモンだった。
何だよ人生お先真っ暗ゲームって。
おかしいとは思ったのだ。
あの後、再びスタートに戻されふさぎこんでしまった立夏。
「ほら…アタシニートだし? スタート…家から一歩も出ないとか当たり前にこなしてる人間だし? むしろスタートがゴール的な?」
たかだかボードゲーム如きでニート鬱を拗らせた立夏さん。
強がるその顔には一切の覇気無し。
震える手で駒を掴み、スタートまで戻すその立夏の姿は痛々しくて見てられなかった。
三たびのスタート…しかし出る目出る目がニートには辛い現実をぶつけてくるモノで。
「弟妹が自分より立場の高い職に就職。悲しみの余り呑んだくれて金を使い果たす」
「家が焼失。火災保険に入っていない場合7億ドルと自宅を失う」
「仕事で不手際がありリストラされる。以後次の就職マスまでニート生活。収入は0に」
人生ハードモード。
恐らくこのゲームは富裕層と呼ばれる人種の人たちが余興感覚でやるゲームなのだろう。
しかし…よくこんなゲームを妹が持っていたものだ。
「何これ辛い…兄貴、なんか涙出てきた」
「おぅよしよし…泣け! お兄ちゃんの胸の中で思いっきり泣け!」
何ターン目か…あまりのメンタルダメージに、ついに立夏の涙の堤防が決壊。
おいおい…と泣き出す始末。
「もう止めよう…こんなゲーム止めような立夏」
「うん…うん…」
ニートには辛すぎる、この人生お先真っ暗ゲーム。
ちなみに立夏が最後に止まったマス。
そのマスの内容は、
『このマスに止まった時点でプレイヤーが無職かつ所持金が全プレイヤー中最低額の場合、親がヤミ金に手を出し借金苦に。約束手形1000ドル追加」
現実が辛くてニートになった妹は、ゲームの中でも辛い体験をし、より一層殻に閉じこもってしまうかに見えた。
ゲームに俺が勝てば、部屋から出ると言う約束を無に帰す訳にはいかないが、
ゲームがゲームだけだった故に…この勝負、どうなるんだ?
と、泣き喚く妹を慰めつつ考えていたら、
「ぐすんっ…あ、兄貴〜」
「何だ、どうした? 現実が辛いか? あ?」
「アタシと…ジャンケンしよう。兄貴が勝ったら部屋から出る。アタシが勝ったら秋菜の前でフルチンね」
「…えぇッ!!?」
半泣きで顔をぐしゃぐしゃにしながら、立夏は提案してきた。
「そ、そんなあっさり…じゃ、ジャンケンで良いの?」
「…うん」
なんと言う事だ。
負けを恐れゲームそのものすら拒否の姿勢にいた立夏が、
こんな一か八かの勝負みたいなジャンケンに応じるどころか、自ら提案してした。
なんと…言う事だ。
「い、いいの? お前が負ける確率がまあまああるぞ? 本当にいいの?」
「うん…兄貴のフルチン率もかなり上がるけど、アタシは全然」
あまりのショックに平常心を失ったか。
冷静な判断が欠け始めている立夏。
ジャンケンとか、1/3で負けるんだぞ?
「わ、分かってるよな? 俺が勝ったら…お前部屋から出るんだぞ?」
「うん…でも負けたら秋菜の前ですっぽんぽんね」
「……」
これは…負けられない。