第11話 アタシの救世主…?
夜に兄貴とくだらない話をするようになってから、何となくだけど…少しだけ、ニートになってから出来たアタシの根暗な部分がどっかに行ったと思う。
あの日…ピーナツを食べた後にお風呂に入って鼻血を出して。
最悪な事に…タオルと間違えて兄貴のぱんつで鼻を押さえ止血してたら、兄貴本人に見つかって。
久々に会って、アタシはニートで、しかもぱんつを血塗れにして…多分貶されるし罵られるし、怒られると思ったあの時。
兄貴はアタシを叱るのではなくて、話をしようと言った。
ニートで、ひたすらに堕ちたアタシを叱るのではなくて、話をしようと言ったのだ。
1年ぶりくらいに面と向かって、兄貴と話をした。
特にこれと言って大事な話って訳ではなくて。
本当に雑談。他愛のない日常話。
昨日大学でこんな事があった…とか、最近読んだ漫画が…とか。
他にアタシの話にしたって、ニート絡みの話を避けるでもなく、気も使わず、ただ暴力的な発言は無しに…
前と同じで違和感無く、普通に接してくれた兄貴。
ちょっとだけ、気が楽になった。
別にお父さんやお母さんがアタシを攻めようとしていないのは、何となくだけど察している。
むしろ1発叱ってくれた方が楽かも…って思ったりもだけど、多分それだと今のアタシの気持ちが持たないと思う。
けど、だからと言ってこうして引き篭るアタシに何も言わず、そっとしておいてくれてるところには…すごく申し訳なさを感じる。
ジレンマってやつなのかな。
だからせめて…この部屋から出て、ちゃんと両親に言わなきゃいけない事を言わなくちゃ…って思う。
謝って謝って、お礼を言ってまた謝って。
とにかく、こうして気を使ってくれてる両親に、会って話を…だけど。
もう1年。
1年も部屋から出ないで、両親とも会わずで。
さすがにもう…呆れられてるかな?
怒ってるかな?
今更部屋から出るのは…勇気が要るな。
あとなんか…恥ずかしいって言うか、こそばゆいって言うか。
とても…1歩が、重くて。
踏み出せなくて。
何て言って部屋を出て、両親に会えば…
…って、実の両親に対してこの考えを持っちゃってる辺り、アタシ…
ニートを拗らせ過ぎたかな…
そんな時に、兄貴が。
「せめて部屋から出ようぜ」
って、こっちが悩んでいる事を真正面から、さも簡単に出来るみたいな風に言ってきて。
何も知らない兄貴だから言えてる事。
こっちの事情は考えも、心情までは考えてない。
だから、思わず反対しちゃったけと、
「じゃあゲームで勝負だ! 俺が勝ったら…お前、部屋から出ろ!」
半ば強引な話だったけど、
これは何かの、1つの程よいタイミングの到来。
ニート脱却への…1つのきっかけになるんじゃないかって、思った。
兄貴がアタシに勝てば…アタシは、外に出る。
アタシを…この部屋から、出してくれる。
このモヤモヤしたニート拗らせの気持ちを…打破してくれる…のかな? って。
思えば最初に、アタシの部屋の扉を開けたのは兄貴だった。
今こうして気兼ねなく話が出来てるのも兄貴だけ。
あの時のぱんつ…アレが全てのきっかけになってる気がする。
だからアタシは、ちょっと兄貴に賭けてみる。
人生ゲームなんてほぼ運で勝敗が決まるもの。
何となく、アタシの現状を変えつつある兄貴。
そんな兄貴が、これから先もアタシの手を取って、アタシの…ニート脱却を、アタシ自身を変えてくれるのか。
アタシの…救世主になってくれるのか。
その判断を運に…任せてみるのも悪くない。
ただのニートの兄貴になるか、それともアタシの人生の…救世主になるのか。
願わくば兄貴が…勝って、アタシを外に連れ出してくれる、そのきっかけをくれる事を信じて、
どう転ぶか全ては運次第に…アタシはルーレットを回した。