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第1話 ウチの妹はニート

お久しぶりです。2年〜3年ぶりくらいの完全新作連載です。そんなに長くはならない感じですが、宜しくお願いします。



高校卒業後、妹は大学へ進学せずに就職の道へと進んだ。


特に学びたい事も無し。

働き稼ぎ、自由に遊べる未来を夢見て、妹は高卒でも入れる小売業の経理の職へと就いた。


それから約半年。


妹は突如として仕事を辞め、


ニートになった。


それから丸っと1年が経ち…









俺、伊秩(いち)謙太郎(けんたろう)には2人の妹がいる。

現在19歳のニート妹、伊秩(いち)立夏(りつか)と、

現在17歳(高3)の妹、伊秩(いち)秋菜(あきな)


父は朝早くから夜遅くまで働く、一般企業のサラリーマン。


母は…昼間の時間帯は近所のスーパーでパートさん。


そしてこの俺は昨年から4年制大学に通う、現在20歳の現役大学生。


平日の昼間、父は基本仕事。

母も平日は月曜日以外パート。

秋菜も平日の昼間は学校。

俺は…取ってる授業の関係で水曜日以外の昼間は基本学校だ。


…水曜日の昼間。


上記の通り、父も母も仕事で不在。

秋菜も学校で不在。


…自宅には大学が休みの俺と、現在進行形でニートを決め込む妹、立夏の2人だけになる。


毎週水曜日…


それは、齢19にもなるニート妹と2人きりで過ごす、と言っても基本的には会う事はない…ちょっと不思議な1日なのであって。








立夏は基本的に人がいる時間帯は部屋から出てこない。


食事は基本みんながいない真昼間…と、真夜中みんなが寝静まった後…の2回だけ部屋から出てきて、ゴソゴソ食物をキッチンから漁り自室へ運び、食している。


トイレは…たまたまトイレの立地が立夏の部屋の隣で、本当一瞬バッと出てバッと入ってバッと出て部屋に戻っている。本当に一瞬である。


風呂もやはり人のいない真昼間…か、昼間誰か家にいた時は夜中にコソコソ入っている。


本当に人がいる時は部屋から出ないので、ここ暫くは同じ家に居ながら顔すら見ていない…


両親はこの事態に若干の危機感を感じてはいるみたいだが、ウチはとにかく父が甘い人間で、暫くは様子見ってことでニートが承認されてしまっている。


これは娘の為にならない処置だ…って事をあの親父は分かっているのであろうか?


…けど、荒療治で無理やりに…ってのに比べれば、まだ幾分か。


兄故の甘さなのか、正直俺も見て見ぬ振りをしてしまっている。









「ただいま〜」


「あっ、おかえり」


とある水曜日の夕方。

自宅のリビングでテレビを観ていた俺。


そこへ、妹の秋菜が学校から帰ってきた。


「何? お兄ちゃん昼間っから家にいるとか何? ニートなの?」


「馬鹿を言うな。お兄ちゃんは大学生様だ。大学生様はな、頭が良い分脳の疲労も溜まりやすいからお休みがいっぱい必要なの」


靴を脱ぎ、リビングへと入ってきた秋菜。

通う公立高校の制服はブレザー。

その学校の制服の上着を脱いで小脇に挟みながら、ソファーで寝そべる俺を見るなり毒を吐き出す。


「えっ? お兄ちゃん並の学力保持者でお休みがいっぱい必要なの? じゃあ全国民は週6日休みが必要だね」


「だね」


「…こっちの吐いた毒に乗るなニートお兄ちゃん」


秋菜はこちらを一瞥すると、リビングと扉一枚を隔てた隣の部屋…秋菜の自室へと退散していく。


リビングと直通の秋菜の部屋。


扉一枚あるとて、少し声を張れば会話ができる。


「水曜日は取ってる授業がないだけだよ…って毎回言ってるよな俺?」


「初耳」


「いや先週も先々週もこの(くだり)やったやん! そのたび同じ釈明したやん!」


「そだっけ?」


「あぁ…これは興味がない事に対する記憶力の問題ですね」


扉の向こう側から聞こえる、興味がない感丸出しの平坦な秋菜の声。


暫くして、秋菜は部屋着に着替え自室から出てきた。


上下グレーのスウェット。

前髪をゴムで縛り、おでこがこんにちは状態。

なんか30半ばの1人暮らしのOLさんみたい。


つま先でもう片方の足の脛をぽりぽり搔きながら、リビングの真ん中…俺のいるソファーの方へ。


「…そう言えばさ」


ソファーで寝そべっていた俺は秋菜が来たのでそっと起き上がり、ソファーの半分を秋菜へと譲る。


秋菜はふと話を切り出しながら、俺の隣へ着席。


「…って、お兄ちゃんが横になってたせいでソファーが変に沈んでるんだけど」


「嫌な顔すんなよ。しょうがないじゃん寝てたんだから」


「あと微妙にぬくい。変に嫌な温もりがあるんだけど」


「しょうがないじゃん寝てたんだから!」


ぶーぶーと文句を言いつつも、結局ソファーに腰掛けた秋菜。


「…やっぱりぬくい」


「だからしょうがないじゃん寝てたんだから!」


じゃあフローリングに直に座れ!

って言いたくなったのをグッと飲み込み。


「…で、何?」


俺は心底嫌そうな顔をしてソファー上で体育座りを決め込む妹(お尻のソファー接着面を極力減らすため)に、先ほど切り出された話の続きを促す。


「えっ? あ、あぁ…いや、その…」


「?」


ちょっと歯切れの悪くなった秋菜。


「その…今日お兄ちゃんニートだったじゃん?」


「大学生様の華麗な休暇」


「でさ、我が家の…モノホンのニートさんとは会った?」


「…ニートの本家本元とは会ってない」


我が家のモノホンニート。


1日中家にいたハズの俺…しかし、同じく1日中家にいたハズの立夏とは会っていない。


「そっか…」


少し…寂しそうな顔をする秋菜。


「お姉ちゃん…いつになったら出てくるんだろうね」


「…知らん。多分地震が起きようが、どっかからミサイルが飛んで来ようが…あいつは部屋から出ようとしないだろうな」


多分、だけど。


リビングの真上…2階の部屋。

立夏の部屋だ。


俺はふと、リビングの天井を見上げた。


…LEDの照明が吊るされただけの、天井がそこにあった。










「やべぇ、脱衣所にパンツ忘れた」


数日後の夜。


学校から帰宅し、夕飯を食べ、風呂に入り、自室へ戻り。

少し夜更かしをし、ベッドに横たわり携帯で動画を見ていた俺。


そこでふと気がついた。


さっき風呂入った時に、


脱衣所にパンツを忘れて来た。


…あらぬ誤解をしているかもしれない、賢明な諸君の為に申すと、別に今俺ノーパンって訳じゃないよ!?


脱衣所にパンツを忘れた…なら今もしかして穿いてないの!!?

ってなる心理はよく分かるが、俺は今現在パンツをしっかり穿いている。


違う、違うのだ。


さっき風呂に行った時、たまたま着替えで持って行ったパンツが重なったままで、つまりは2枚持って行ってしまったのだ。


ウチ1枚はもちろん風呂上がりに穿いた。


で、間違えて余計に持って行ったパンツ1枚を、脱衣所に忘れてきたのだ。


「……」


別にそんな、パンツ1枚如し脱衣所にそのまま置いといても良いのだが、


『汚いの置いとくなよ…このパンツニート』


あいにく妹の秋菜は朝も風呂に入るタイプの人間。

朝方に俺のパンツを発見した秋菜に、何か謎に罵倒される未来が視えた。


「めんどくさっ」


やむなく、回収に向かう。





自室は2階。


夜中の2時。

まぁ直ぐだし、ってことで足元が不安定な階段の電気だけは点け、他の電気は点けずに風呂場…脱衣所へ向かう。


みんなが寝静まり、静寂と暗闇が支配する我が家。


いつもは見慣れているその風景も、こんな時間ではちょっと不気味である。


ミシリ…ミシリ…と軋み鳴る階段を降り、目前にある脱衣所の扉の取っ手へと手をかける。


さっさとパンツを回収して、部屋戻って動画の続きを見よう。

明日の授業は2限からだし、ちょっと遅くまで寝れる。

あー…ついでに台所寄って麦茶でも飲んでくか…


と、些細な事を考えながら、


俺は脱衣所の扉を開けた。






扉を開けた時、真っ先に感じたのは…モワっとした熱い湿気と霞む湯気だった。


「うおっ」


扉を開けた故の気流に乗り、湯気と湿気と…それに混じる微かなシャンプーの匂いが俺の鼻腔を刺激した。


不意の衝撃に思わず目が細くなり、小さいながらもついつい声が出てしまった。


やべっ…誰か風呂入ってたのか…


と思う頃には湿気と湯気の衝撃に慣れ、脱衣所の明かりが目に入り、場の状況の理解が一気に進む。


「…むぐっ!?」


目前に。


俺の目前に、不思議な光景が広がっていた。


ここは我が伊秩家の風呂場の脱衣所だ。


故にだろう。

目の前には、


「……っ!?」


不健康気味な白い肌に、少し明るめなセミロングの髪。

その髪から滴り落ちる雫。湿り気と艶を帯びた、明らか風呂上がりなソレ。

ほんのり顔は上気していて、細い手足にくびれた腰まわり、

そしてやや誇張のない、比較的緩やかなお山が2つ。


「り、立夏…?」


目の前にいたのは、風呂上がり感MAX、しっとりと身体が濡れて湿ってな、生まれたままの姿のモノホンニート、立夏。


何という事だ。


まぁ脱衣所だし、裸でいるのは当たり前っちゃ当たり前なんだけど、この偶然の遭遇…邂逅たるや、よく漫画の中で目にするあの、伝説のハプニング…そう、つまり!


実の妹にラッキースケベが発動しちゃったよ!


ヤバいっ!


…ってなる展開なのだが。


「な、何やってんの?」


と、俺が立夏に問いかけると、


「うぐっ…」


と、グモった声で返す立夏。


ぱっと見ただのラッキースケベな構図。


しかし、立夏の手には何故か、


血まみれの俺のパンツが握られていたのだ。


3枚398円のお徳品…男性下着ボクサーパンツ。

あの立夏の手の中にある…あれはどうみても俺のだ。


この立夏が持つ謎に血まみれな俺のパンツ。


それがこの跳ね上がる奇跡的ラッキースケベ環境を一気に沈め、かつ謎と恐怖を生み出す媒体と化していた。


「は? おま、ちょっ…えっ? な、何でお前俺のパンツ持ってるの? 何で赤いの? えっ?」


妹が素っ裸で血まみれになった兄のパンツを持っている図。


謎が謎を呼んでる。


「ちょっ、ち、違う! 違う違う!」


立夏も立夏で場の状況が状況だけにか、素っ裸なのお構いなしに俺のパンツを掲げ、違う違うを連呼する。


「ち、違う! さっきピーナッツいっぱい食べて、お風呂入ったら鼻血が出ちゃって、タオルで鼻押さえようとしたら、手に取ったのがタオルじゃなくて何か…あ、兄貴のパンツだった訳で、ち、違うの…」


そこまで話し、急にスイッチが切れたかのようにその場にへたり込む立夏。


ぺたんっ、と脱衣所の床に直にお尻を着き、座り込んでしまった。


「違う…ち、違う…」


す、すごくテンパってるのだけは分かる。


「違うから…違うから…」


「あっ、お、俺が何と勘違いしてると思っているのかは知らんが、分かった。分かったから。鼻血ね、鼻血」


あわわわわ…と慌てふためく立夏を落ち着かせるべく、俺はその場にしゃがみ込み視線を立夏と同じ高さまで下げ、両手を出して降参のポーズ。


「ほ、ホントに鼻血だから! 上向いてて、適当にパッと取ったらタオルじゃなくて、でも最初は気が気だったから気付かなくて」


「分かったから落ち着け!」


血まみれの兄のパンツを片手に、風呂上がりの湿った妹が素っ裸でへたり込んで座り、半泣きよろしく慌てふためいている図。


「とりあえず今鼻血が止まってるなら、まず服着ようぜ、服!」


19歳にもなる立夏の取り乱しを抑えるべく、まずは服を…


「…お兄ちゃんとお姉ちゃん…何してるの?」


ふと。


背後から声が聞こえた。


物凄く聞き覚えのある、俺のもう1人の妹の、


蔑みが入ってる声だ。


俺は振り返らずに、答える。


「あー違う、違うぞ秋菜。違うんだ。これはその…と、とにかく違うんだ」


今度は俺が違う違うを連呼する番だ。

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