第四話「回る世界」
突然現れた、つくもと名乗る少女。
身長は140センチくらいであろうか、色白の肌に、思わず指で突っつきたくなるような柔らかそうな頬。
凛とした瞳と、精巧に作られた人形のように整った顔立ち。
誰が見ても断崖絶壁の平らな胸に、育ち盛りのすらりとした手足。
およそ色気とは無縁の貧相な身体であるはずなのに、丈の短い着物の裾から覗く太ももは妙に扇情的であった。
「では、わっちはこれで。邪魔したの」
いそいそとベランダの窓を開け、部屋の外へ出ていこうとするつくもちゃん。
何しに来たんだこの娘は。
名のるだけ名のり返事をする間もなく出ていく気らしい。
建造物不法侵入だぞ。
ちなみに俺の部屋はマンションの九階、九号室だ。
お空にでも旅立つのか?
「と……いかんいかん。歳をとると忘れっぽくなってかなわんのう」
と、何を思ったかぐるっと踵を返すと、おもむろに台所へ。
何やらガサゴソと漁りはじめ、炊飯器を発見すると中を確認。
炊きたてのご飯がぎっしり詰まっているのを確認したのだろうか、とても満足気に頷いた。
「うむ、やはり食事は白米に限る」
そのままうんしょと可愛らしい掛け声とともに炊飯器を脇に抱えると、猛然とベランダに向かって駆け出した。
「ちょお、ちょ待てよ!」
驚きに思わず変なイントネーションで呼び止めたが、窃盗犯がそんな言葉で止まるはずもない。
その米は俺が丹精込めて炊いた朝飯だ。
断じて渡すわけにはいかない。
「止まれっての、この飯泥棒!」
奴がベランダから飛び出す寸前、走りよった俺の左手がギリギリで着物の帯を捕らえることに成功した。
するとどうしたことか、つくもちゃんの登場とともに沈黙していた右手のスマホちゃんが、突如として青く輝きを放ちはじめたのである。
わけがわからんが、俺の左手は別の意味で大変なことになっていた。
猛スピードで走っていたつくもちゃんの運動エネルギーは、俺に掴まれたことで何処へ行くのか……。
当然のようにそれは干渉した一点に集約される。
すなわち、帯である。
「なっ、おぬし何をしておりゅぅぅう!?」
哀れなり、つくもちゃん。
あ~れ~お代官さまぁ、ぐふふよいではないか、よいではないか。
けれども俺の脳裏に浮かんだお約束と、目の前の光景は似ているようでまったく別のものになった。
帯がほどけ、勢いよく回転するつくもちゃん。
着物は盛大にはだけ、下着すらつけていないほっそりとした裸身があらわになった。
なったのだが……回転があまりに速すぎた。
凄まじい勢いでグルグルと。
平らな胸の先端、チラっと視認できた綺麗な桜色の突起も、この高速回転の只中にあってはピンクの模様のように見える。
そして空を舞う蓋の開いた炊飯器と、飛び散るほっかほっかの白米たち。
ジーザス。
天を仰ぎ、覚悟を決める。
さらに輝きを強めるスマホちゃんを床に置き、バックステップ。
俺は、土下座した。